私は小説を読むと、いつもその後も小説の世界に気持ちが吸い込まれてしまって、なかなか現実に戻れないということが結構あります。
小説とは違う現実世界で生きているのに、今の世界よりも、その小説の世界のことばかりが頭に浮かんで、ずっと妄想してしまうことがあって、どの小説を読んでもそうなってしまいます。
ギターを練習していても同じで、練習を終ったあとも頭の中でギターを弾いていたりします。なぜか、気持ちから離れないのです。それは自分がおかしいのか、それともみんなも私と同じなのか、お父さんはどう思われますか。
【お父さんの答え】
すごいね。それはいいことだと思います。
それだけ感情移入できるということは、深く読み込めているということだし、頭の中に小説の世界がそれだけ具体的に展開してしまうのだから、読み手として最高の読み方ができているといえますね。
そういえば、昨夜、卒業生からメールが来ていて、お父さんからいい本だよと言われて何年も前に本屋さんで見つけて購入したものの、読まないでそのままになっていた本をたまたま手にとって読み出したら、もう止まらなくなって、最後は涙、涙の大感動で、本当に良い本に出会えたというメールだった。
それはサマセット・モームの『月と六ペンス』という本で、ゴーギャンの人生を下敷きにした小説なんだけど、フランスでサラリーマンをしていた男が妻と子供たちがいたにもかかわらず、油絵を習い始めてからそちらに気持ちが傾いていって、家族を放り出して1人、タヒチで絵を描き始めるという話で、結局、その男は画家として自分の才能の赴くままに生き、残された妻は最初はパニックになったものの自分に職業人としての才能があることに気付いて成功し、子供達を育て上げることができたというもの。
この小説は僕が物書きとして独立するときも、大きな力になった本だった。その小説世界が、いまを生きる自分に大きな勇気を与えるということはあるし、本から与えられた勇気で自分の人生を大きく前に進められるということも大いにあるはずです。
それには、質問者のように小説の世界が頭から離れない、というくらいにのめり込んで読んだら、それだけプラスの大きな影響を受けると思うので、とてもいい読み方をしていると思います。
そしてギターを弾いていたら、そのギターの世界が頭の中にずっといつまでも残っていたり、旋律がずっと頭のなかで響いていたら、そりゃ上達も早いわけです。質問者はギターの習得が早いなと思っていたのですが、そういう秘密があったというか、それだけギターの奏でる音に感情移入できたなら上達の早さも当然かもしれません。
そういうふうに小説やギターにのめり込むというのは、みんながみんなできないです。自分だけの特別な才能と思っていいでしょうね。せっかくなので、どっぷりとその世界に浸るような読み方や、浸りきってギターの練習を続けてください。
(2023年8月29日 掲載)
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