摂食障害くらい、世間から誤解を受けている病気はありません。
その渦中にある本人が訴える間違った「原因」が本当の原因だと、周囲の家族ばかりでなく、治療の専門家まで思っているからです。
一般的には「ダイエットが摂食障害の原因」と言われていますが、ダイエットのやりすぎで摂食障害になることはありません。
本当の原因は、4歳~6歳の間に受けた心の傷です。
たまたま一度だけ、両親が子供の前で言い争ってしまったとか、父親が泥酔して子供の前で暴れたことがあるとか、そういう“争い”を目の前で見てしまうと、それが摂食障害の「種」となります。
少なくとも大人にとっては「大したことではない」と思えることが、子供にとっては耐え難いほどのショックとなり、傷になることが少なくないのです。
ほとんどの場合、子供が傷ついていることを、親はまったく気付かないまま育ててしまいます。
ところが子供のほうは、癒されないままの心の傷が「家族が危機的な状況」だといつも訴えていますから、家族が崩壊しないように細心の注意を払いながら、生きていくことになるのです。
母親が不機嫌にならないように、あるいは父親の機嫌を損ねないようにと、何でも真面目にやります。
一生懸命、勉強したり、ときには両親の前でおどけてみせたりもします。
けれど、いつも自分の本心を隠しているので、いつのまにか自分が何者であったかわからなくなっていくのです。
それが思春期になったとき、身体が大きく変化するように脳の中も大きく変化しますから、それまでなんとかごまかしてきた心の傷の痛みが悲鳴を上げて、「耐え難い寂しさ」「果てしない空虚感」として襲ってくるのです。
脳の中の「愛情の中枢」と「食欲の中枢」は隣り合っていて、女性の場合は特に男性よりも接近しています。心が傷つくとは、愛情の中枢が傷付くことで、耐えられなくなった愛情の中枢が暴走して食欲中枢を故障させてしまいます。それが「摂食障害」の本当の姿なのです。
摂食障害になる女性は、もともと傷付きやすいくらいですから、普通の人よりも情感が豊かで、様々な能力の高い女性が多いのです。
真面目で、情感が豊かな子が、思春期に急変して摂食障害となり、急に親に反抗的な態度になったりして、そこで家族は本人が傷んでいることに気付きます。
しかし、傷付いた時期(4歳~6歳)とそれが表面化する時期(12歳~18歳、時にはもっと遅く発病します)があまりにもかけ離れているために、原因が思い当たらないのです。
本人でさえも、何が原因がであったか、わからなくなってしまうのです。
摂食障害の症状は3つあります。拒食症の人は、食べられなくなり、時には体重がそれまでの半分くらいまで痩せてしまうこともあります。
過食症の人は、食欲を止めることができず、信じられないほどの量を一度に食べます。最近は、「吐く」ことが知られてきたので、過食するだけの人は少なくなりました。
過食したあと食べた物を全部、吐きだしてしまうのを「過食嘔吐」といいます。最初は拒食になり、次に過食嘔吐へと変わっていく女性が多いようです。過食嘔吐の多くは下剤乱用も伴います。
本人にすると、体型のことが異常なほど気になってしまいます。体型そのものが、自分の人格だと思ってしまうほどです。
痩せることへのこだわりは、なかなか抜けません。それは心の空虚さがそうさせているのであって、それも症状のうちです。
こういう女性を、いまの医療では豊かさゆえの「わがまま病」ととらえ、「正しい食事の習慣」をつけさせることを治療の柱にしています。
病院では体重を管理して、この体重になったら入院しなさい、この体重になったら退院してもいいです、という見方をします。
ある意味では、病院は本人以上に体重を気にして、体重と体調だけしか見ていません。しかし、食習慣が原因ではなく、心の傷が原因ですから、いくら本人に食事の大事さを説得したところで、まったく無意味なのです。
また、心が虚ろになってしまっているので、病院では「うつ病」の薬を処方して、うつ症状を薬で消そうとします。これも対症療法ですから、まったく効果がありません。
そうして、摂食障害の女性は家族にも理解されず、専門の医者にも理解されず、心の空虚さを埋めきれないまま、家の中に引きこもりになったり、パチンコ依存症になったり、あるいはほかの依存症になったり、病院への入退院を繰り返したりしているのです。
摂食障害は、2つの意味で、恐ろしい病気です。
1つは、例えどんなに症状が軽くなったとしても、全快して全く症状が消えない限り、本人の心の中から「苦しさ」がなくなっていないということなのです。
つまり生きることが苦痛で、それを我慢しながらの人生になってしまうということです。
他の人は生きるのが上手だけれども、自分は下手だから仕方がない、と本人は思って生きています。しかし、この世に生を享けながら、一度も心の底から「楽しい」とか、「生きてきてよかった」と感じることがなく、淡々と、我慢の人生を生きて行く、それは本人にとっても家族にとっても、過酷なことではないでしょうか。
もう1つの恐ろしさは、摂食障害の行き着く先は、体力がなくなって栄養失調になる、というだけではない、ということです。
男性依存を併発して、相手を選ばず性行為が止められない、となる女性がいます。
いまの性風俗店で働く女性のほとんどが摂食障害の女性と言われています。
精神病の症状が併発すると、鬱病、統合失調症へと症状が深くなっていくことがあります。
時には、自分の性を否定して、男性化を望むようになることもあります。
万引きへの依存が始まると、理性で万引きを抑制することができなくなり、スーパーでの食品程度の万引きでも、何度も重なると実刑に処せられます。
1年から2年、収監されている間は摂食障害の症状も一時的に治まるのですが、出所すると、ほどなく摂食障害の症状も、万引きの症状も再発し、また収監されることになります。
こうして収監と出所を繰り返し、刑務所での生活のほうが長くなるという女性が、どんどん増えています。
中には自殺する女性もいます。
摂食障害が始まってしまうと、人生のスタート台に立つことができません。
いつまでたっても、人生が始まらない、そのまま40歳になり、50歳になり、60歳になっていくのです。
そのうち何とかなるんじゃないか、若いときだけの病気じゃないか、そんなことを考えているうちに人生をリセットできないほど症状が固定化してしまう、
摂食障害とは、そんな恐さを秘めた病気なのです。
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