只今、糀中【なのはな味噌ができるまで】

🟡米研ぎ・浸漬

 糀づくりの始まりは、米研ぎから。研ぎ汁が透明になるように、丹念に洗います。

 米粒が割れると、糀菌が繁殖しにくくなってしまいます。米が水を吸収すると割れやすくなるので、なるべく水に浸かっている時間を短くするために、水をよく切ってから研ぎ、あまり時間をかけないように手早くします。

 浸漬の時間は気温によって異なります。なのはなの場合、水温が15度くらいで、使うお米が古米なので、新米よりも吸水が悪いため、最低でも15時間は水に浸けておくことが必要です。

✎【ひと口メモ】
 糀づくりに古米を使うのは、粘りの強い新米よりも、捌け(さばけ)のよい古米のほうが、糀が繁殖しやすいためです。
 私たちは、なのはな産の、ミルキークイーンで米糀を作っています。

🟡翌日の準備

〈作業台の用意、育苗棚の設置、育苗箱の煮沸消毒、そして種糀の準備など、いよいよ始まる米糀づくりの用意を行います〉

【糀室(こうじむろ)紹介】

 私たちは育苗棚を土台として、糀の家となる「糀室」を作っています。糀室の役割は、糀菌の繁殖に適した環境(温度、湿度)を保つことです。
 全体をビニール、布、毛布で3重に覆い、温度が上がりすぎたときには毛布をはぐるなどして調整します。
 内部には、合計6つの温度計と、2本の湿度計を仕込みます。

 最上段には、屋根から落ちる水滴を受けるタープを取り付けています。
 最下段には、2つの電熱器を設置し、出力を切り替えて糀室内の温度を調整します。電熱器には湯を張った小鍋をのせ湿度を保ちます。

〈屋根には、煙突状に取り付けたペットボトル。蓋を開閉して湿度の調整などに使います〉
〈ラックに合う大きさの糀箱も、手作りのものです〉
〈毛布をすべてかけた状態。この糀室で、糀菌を育てていきます!〉

🟡水切り

 前日から浸漬していたお米を、朝いちばんにザルへあげ、十分に水切りをします。
 水切りが悪く、米に水がついていると、その部分がベタつき、蒸しが均一にならないので、しっかりとザルを傾けて、蒸米の1時間半くらい前から、水を切ります。

🟡蒸米

  
 蒸米は、吸水した米を蒸すと同時に、米についた雑菌類を殺菌し、麹菌を繁殖しやすくしたり、酵素の作用を受けやすくするために行います。
 浸漬や蒸米が不完全だと、糀菌の繁殖が不完全な、不良糀になるので、蒸米は芯まで蒸気が通るように、十分に蒸します。

🟡冷却

P1280049

 米が蒸しあがったら、種付けの最適温度40〜42度(人肌よりやや高め)まで冷却します。
 50度以上だと、糀菌が死んでしまいます。蒸米表面の水分を適度に蒸発させて、外側が固く、内側が柔らかい蒸米にして、種糀をつけてやると、表面が締まって、米粒の内側に糀の菌糸がよく入った糀、「突きはぜ」になりやすくなります。

🟡種付

P1280056
蒸米に、粉末状の種糀を振りかけた様子

 種糀を蒸した米に散布することを「種付け」といいます。
 糀菌の胞子が蒸米の1粒1粒にまんべんなく付着するようにします。

✎【ひと口メモ】
 種麹は、BF1号菌(米糀用の種麹。プロテアーゼが最も高く、糀の香りが優れている。増殖は緩やか。色は純白)を使っています!

 糀づくりでは、「糀は1人で歩かない」と、言われます。
 納豆菌は粘りがあり、どこへでも移動できますが、糀菌は自分で移動することができないので、種付けの際にムラができると、種麹の胞子が付着しない米粒には、糀菌は育つことができません。
 種付けは、蒸米1粒1粒に、よく付着するように、蒸米の塊をほぐして、十分にかき混ぜます。この作業を、床もみ(とこもみ)とも言います。

P1280062
〈十分に床もみをできたら、糀箱の中央に米を寄せ、ナマコの形にします〉
20240211_085630
〈湯で殺菌し、絞った布巾を上からかぶせます〉

🟡引き込み

20240204_210656

 蒸米を、糀室(こうじむろ)の中に入れることを、「引き込み」といいます。
 糀室の中で、種付けした糀菌の胞子が発芽して、菌糸が繁殖しやすい環境を保ちます。

 糀菌の繁殖最適温度は、31度〜33度。湿度90%です。
 25度以下になると、糀菌は繁殖できなくなります。
 40度以上になると、糀菌の酵母と乳酸菌が死滅してしまいます。

P2050014

 この環境下で、蒸米についた胞子は水分を吸収して発芽して、菌糸を伸ばし始めます。
 菌糸の増殖にともない、熱と二酸化炭素を出し、品温(糀の温度)は、徐々に上昇します。
 二酸化炭素を逃すために、密封はせず、糀室の上に煙突状に取り付けているペットボトルの口を開けて、空気が逃げるようにしておきます。

✎【温度管理】
次の切り返しまで、31〜33度、湿度90%をキープします。

P1280067

🟡切り返し

20240204_211218

 引き込み後10時間経つところで、米粒をよくもみほぐして、全体によく混ぜ、床もみをします。

 米粒がくっつき合っている部分は、糀菌が繁殖できません。糀菌をまんべんなく繁殖させるために、米の塊をほぐして、全体を撹拌します。

 この時、種付けのときよりも、米全体に“うるみ”が出て、しっかりとした手触りになり、ベタつかない状態になってきます。この状態を、「さばけがよくなる」と言います。

✎【温度管理】
次の盛り込みまで、31〜35度、湿度90%をキープします。

🟡盛り込み

 ナマコ型を崩して薄くする、「盛り込み」。
 引き込みから18〜20時間くらい経つと、米粒に白い斑点が見えてきます。これが糀菌の菌糸です。

20240219_070222 - コピー

 糀菌が米の表面に繁殖することを、糀屋で、「はぜる」と言います。
 繁殖の状態を「はぜまわり」と言って、この時点では、はぜまわりは3割くらいになるのが理想です。はぜまわりが遅い場合には、盛り込み時間を少し遅らせます。
 品音が36度まで上がっていなくても、34〜35度くらいで糀の菌糸が白い斑点として見られたら、盛り込みを行います。
 切り返しと同じように、全体を混ぜて、糀菌がまんべんなく繁殖するようにします。

✎【温度管理】
 次の1番手入れまで、1時間2度ペースで、糀の温度が上がる予想です。
 33度〜37度、湿度90%をキープして、38度に持っていきます。

20240219_065113

⭐️1時間おきの見回りでは、そのときの糀の品音、糀室内の湿度、部屋の気温、行った手入れなどを細かく記録しています。

🟡一番手入れ

P1290026

 盛り込みから10時間前後が経過して、品温が38度ほどになった頃。
 はぜまわりは、おおむね4〜5割。
 ここから、糀の製造の後半に入ります。

P2120025
〈菌糸が伸び、目で確認できる長さになっています!〉
P2050017
〈菌糸がお米同士をつなぎ、板状になっています〉

 「手入れ」とは、蒸米を手で撹拌することです。撹拌することで、熱が放出されて品温が下がり、同時に酸素が供給されます。

 一番手入れでは、両手の指を使って、全体を撹拌していきます。
 最後は、糀箱の中身を、できるだけ平たく薄くし、真ん中を少し窪ませます。
 真ん中を窪ませることで、温度の上がり過ぎを防ぐことができます。

P2050004

✎【温度管理】
 最終日の「仕舞仕事」まで、33度〜39度、湿度90%をキープして、39度にもっていきます。

 夜中は、1時間に4度のペースで上がることが予想されます。
 温度を下げたい時は、
①糀室内の、2つある電熱器を1つ切る。
②糀室にかけている毛布をはぐる。
③部屋の換気扇を回し、窓を開けて、室温を下げる。
④糀室内で、糀箱の位置の入れ替えをする。(糀室内の高低や左右の位置によって、微妙に湿度・温度の差があるため)

 ……という対策を取っていきます。

🟡二番手入れ

 一番手入れから3〜6時間後、品温が40度に達したら、一番手入れ同様に、二番手入れを行います。糀の盛り方は、一番手入れのときよりやや薄くして、中央にくぼみをつけます。
 このころから品温が高くなり、水分の放出も盛んになります。
 二番手入れは、少し時間をかけてでも、よくかき混ぜて、熱を逃すようにします。

✎【温度管理】
 温度が上がることを予測して、毛布をはぐる、換気扇を回して、室内の温度を下げるなど、先回りして対策をします。

🟡仕舞仕事

 二番手入れから3〜6時間後、品温が40〜41度に達した頃に行います。
 目的は、二番手入れ同様に撹拌することで、熱が放出されて品温が下がり、同時に酸素が供給されます。最後の手入れなので、仕舞仕事と呼ばれます。

 この頃になると、糀菌はお米全体に繁殖していて、米粒はゆるい塊状になっています。

20240130_063732

 一度、糀箱の中央に集め、その後、糀箱全体に広げます。
 米糀の上に、指先で、川の字を書きます。これを、「花道をつける」と言います。

✎【温度管理】
 出糀をめがけて、品温39〜40度に持っていきます。
 33〜39度、湿度90%をキープします。

20240130_155618

 仕舞仕事のあとも、糀の放熱は盛んに続きます。
 糀菌が死滅しないように、くれぐれも、42度以上にならないようにします! 
 仕舞仕事から出糀までは、1時間3度ペースで上がる予想です。2時間おきに、糀箱の段の入れ替えをする心づもりでいきます。

P2060038

🟡仕舞仕事のあとにすること

 大豆を洗い、水に浸けておきます。
 味噌1樽を作るのに、22.5キロの大豆を使います。みんなで育てて、選別した、なのはな産の白大豆です。

P2060045

 台所の大鍋2つで煮るため、11.25キロずつに量り分けておきます。
 豆は、水が汚れなくなるまで洗います。
 大豆の2.5倍の深さの水に浸けます。翌朝には水を吸って、豆がプクプクに膨らみます。

🟡出糀 

 引き込みから48〜54時間程度。出糀を行うかどうかは、糀菌がまんべんなく繁殖したかどうかで判断します。

 米粒を割ってみると、米粒の中心まで糀菌が食い込んでいます。
 糀菌は米粒の内外まで十分に繁殖すると、それ以上、繁殖はあまり進まず、むしろ胞子を作って、糀がだんだん黄緑色になってきます。これを、糀「老(ひね)」と言います。そうなってしまっては、いい味噌にはなりません。
 逆に糀のはぜまわりが悪かったら、出糀を延ばすこともあります。

20240206_164321

 出糀のやり方……糀箱を糀室から出して、菌の活動を止めることが目的です。
 冬は外気温が低いので、糀室から出すだけで済みます。温度が高い室内などでは、糀は活動を続けて老化してしまいます。出糀後は、10度以下で、風通しの良いところに出します。

 この後は片付けをして、翌日の味噌の仕込みの準備をします。

20240130_163307
米糀の完成!

🟡大豆を煮て、ミートチョッパーにかける

DSCF3610
〈ミートチョッパーでミンチ状にした大豆〉

 大豆を煮る際に重要なことは、豆を踊らせない火加減にすること。アクをよく取ること。
 一鍋に一人ずつついて、アクを取りながら煮続けます。
 白大豆を煮る時間の目安は、2時間程度です。
 出来上がりの目安は、親指と人差し指で大豆をつまみ、ぐっと力を入れて、簡単に潰れる柔らかさです。

 煮上がった豆を運び、ミートチョッパーにかけます。

🟡仕込み

 大豆、塩、米糀を合わせて樽に詰め、味噌の仕込みをします。
 このときは、米糀を作ったメンバーだけでなく、多人数で作業をします。

DSCF3622

種付け台で、糀箱3枚分の米糀と、塩1.5キロを、まんべんなく混ぜます。
 これを、塩切り糀と言います。

P2144197
〈塩をまとってキラキラと輝く、塩切り糀〉

ミートチョッパーにかけた大豆を種付け台にあげて、塩切り糀と混ぜます。

大豆が熱すぎると、熱で糀は死んでしまいます。
大豆が人肌程度に冷めていない場合には、うちわであおいで、冷ましてから糀と混ぜます。

米糀と大豆が均一に混ざったら、ボールのように丸めていきます。
これを味噌玉と言います。
この際に、雑菌が入らないように、できるだけ空気を抜くようにします。

P2144191
DP2Q0002
DSCF3637re

樽にビニールを被せておき、その中に味噌玉を並べます。

DP2Q0007

味噌玉が一段並んだら、げんこつで空気を抜きながら、押し潰していきます。

20240207_123158

これを繰り返し、1樽分の材料大豆(大鍋2つ分)、糀(糀箱18枚分)、塩(9kg)】がすべて詰まったら、最後にカビ予防のために、振り塩として、塩818gを上から振ります。
特に、ふちの部分に、しっかり塩を振ります。

ラップをかけます。

できるだけ空気を抜くようにして、ビニールの口を紐で縛ります。

P2144211

アルコール消毒した中蓋、重石を乗せ、蓋を閉めます。

メンバーの名前、日付を記入した紙を樽に貼って……

番外編

塩糀作り

 味噌作りの様子、お楽しみ頂けたでしょうか? 米糀から生まれるのは、味噌だけではありません。毎年、最後に作った米糀は、「塩糀」に変身します。

 タッパーに塩切糀と水を入れ、毎日かき混ぜながら2週間、熟成させて出来上がるのが塩糀です。

11P3080040
P3080036

 塩糀は、発酵が進むにつれ、バナナのような甘みのあるフルーティな香りになります。そして、全体にとろみが出てきます。そうした変化を日毎に感じながら手入れをし、およそ14日経ったら瓶詰めをして完成です。

 塩糀は、お肉を漬け込むことで柔らかくして風味を加えたり、野菜料理など、たくさんの場面で活躍します。