【前半】ウィンターコンサート2023 脚本

 コンサートの映像や写真などは、整い次第、順次、アップしていきます。

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2023年 ウィンターコンサート

魔女 と 魔法使い と 魔術師【前半】

幕が開く

演奏『Oblivion』―Sia

 魔女の使いネコが数頭、出てきて、やや上手よりの前方で、会話

魔女の使いネコ1

ねえ、ねえ、近頃、私たちの島に行く女の子、増えていない?

魔女の使いネコ3

たしかに! 確かにそうだわ。増えてる、増えてる。
瀬戸内(せとうち)の小豆島とか、直島(なおしま)じゃあるまいし、女の子に人気がでてきた島、っていうんじゃあ、ないよね。

魔女の使いネコ3

そうよ。あの島は、行きたくて行ける島では、ない。
この身が引き裂かれるような辛さ、生きていけない辛さに打ちのめされたとき、
初めて見えてくる島……。
それなのに増えてるって、ことは、……どーゆーことなの?!

魔女の使いネコ2

ほんと、どういうことなんだろう?!
あなたなら、知っていそうね……

魔女の使いネコ1

だから、あの島に行く女の子が増えているということは、
この世界がどんどん生きにくくなっているということよ。
なぜならば……。

魔女の使いネコ2、3、4

なぜならば?!

魔女の使いネコ1

私たちの島は、
傷付いた女の子を、魔女に作り替えてしまう島だから!!

魔女の使いネコ2と3

傷付いた女の子を、……

魔女の使いネコ2、3、4

魔女にしてしまう島!!

魔女の使いネコ1

3人とも、なにをとぼけたこと言ってるの?
あんたたちだって、元をたどれば現世からはみだして、
魔女の使いネコになって生き延びてきたクチじゃないの。
ほらほら、島への案内人が、また油を売ってるよ。
そういえば、案内人があの仕事をはじめたのは、たしか……
あの人の妹さん、ほら、昔……
あの人を探して島に来たきれいな妹さん。
魔女になったとか、ならないうちに……。

魔女の使いネコ3

そうそう、たしか子供がいたはずなんだけど、
子供を残して亡くなってまったって話さ。それからずっと、あんな風さ。

 魔術師(案内人)がだるそうに下手から歩いてきて、
 ベンチでごろりと横になり、手枕で寝てしまう。
 使いネコ1が、そんな魔術師(案内人)に近づいていく。

魔女の使いネコ4

あ、お客さんが来た! (うその声かけ)

 魔術師(案内人)が飛び起きて、もみ手をしながら

魔術師(案内人)

お嬢さん、お嬢さん……、て、誰もいないじゃないか……。
おい、使いネコ、そんな、いたずらばかりしてたら……

魔女の使いネコ3

いたずらばかりしてたら、なんなんだい?」

魔術師(案内人)

……悪魔に言いつけて、島から追放してしまうぞ!!

魔女の使いネコ1234

「あ、それだけは、やめて」 と4匹とも上手に逃げていく。

 魔術師(案内人)、やや疲れ気味。下手前方に歩いて止まり台詞。

魔術師(案内人)

(独白)悪魔の手先になって、傷付いた女の子を案内する。
……そして魔女に変えてしまう。
……こんなことやっていて、いいのかなあ。
いや、仕方ない。仕方ないんだよ……。

 

演奏『Señorita』―Camila Cabello & Shawn Mendes

 

〈ここまでのシーンのビデオを観る〉

 

 効果音 都会の雑踏の雑音 車の警笛、電車の音、ざわめき
 通行人が舞台を左右に歩いている。

 洋子とライスが上手から、出てくる。酔っているのか、足下がおぼつかない。
 2人とも片手にボトルを持ち、ラッパ飲み。
 舞台上手の奥でしゃがみ込み、通りを見ている。

 1人の男が立ち止まり、何か声をかけている。
 洋子は手を振り払って、あっちへ行け、というしぐさ。
 男はその場を離れる。離れ際に、女の子たちを蹴るそぶり。

 洋子とライスはひと口、またひと口を酒を飲んでいるが、
 やがて、横になり、眠ってしまったふう。
 (この間、ずっと人通りは続いている)

 カオルが、下手から段ボール箱を開いたもの(布団のように)3枚をもって出てくる。
 (家出用の粗末な)リュックを背負っている。
 舞台の奥で段ボールを三角形に組み上げるが、ふと2人に目が止まる。
 考え直して2人にそれぞれ1枚ずつ段ボールをかけて、
 自分も段ボール1枚をかぶって横になる。

 下手から、魔女の使いネコ3匹と、2人の魔女がしずしずと出てくる。

まなか魔女

おや、まあ。こりゃ、まるで行き倒れだよ、若いのに。

ひろ魔女

ねえ、あの子たち、素性は一体、どんな子なんだい。
あなた、お得意の術であの子たちの中に入って、見ておいでよ。

まなか魔女

ふんふん、それなら、そうしてみようか。(と近づく)
まずは、この子から(カオル)。

 手をかざして、急にうなだれる。
 少しして、ガバッとおきる。2、3歩、前にでて、女子3を振り返る。

ひろ魔女

どうだったんだい?

まなか魔女

両親が毎日、喧嘩ばかり。いや、同居の祖父母も参戦して、
ものが飛び交って、流血騒ぎ、こりゃすさまじいや……。
母親は毎晩、酔いつぶれるまで飲んだくれ……。
この子のいる場所がない……。

ひろ魔女

ふうん、家族の関係が悪過ぎか……。でも今頃じゃ、珍しくないよ。

まなか魔女

次はこの子(洋子)を見てみよう。

 手をかざして、ガクッとうなだれ、少ししてガバッと起きる。

ひろ魔女

どう、どう、どんな感じ?

まなか魔女

頭はいい、性格もいい。だが、ちょっとした発達障害があって、
それで親からひどく差別され続けたことがもとで、
自尊心がスカスカになっている。何をするにも自信がない。
もう死んでもいいって。

ひろ魔女

もう、死んでもいいって?
あっちの子(ライス)はどうなんだい?

 まなか魔女は同様にライスを見る。

まなか魔女

こちらも頭脳明晰。ただ、家庭環境がバラバラすぎて、
心の土台を作りそこなってしまった。
この地球の上にはもう、この子が安心して居られる場所がない。

ひろ魔女

ふうん。やっぱりそうかい。
このままじゃ、死んでしまうんじゃないかい?

まなか魔女

そうね、すでに死にかけてるよ。

ひろ魔女

じゃあ、この子たちも、……。

ひろ魔女・まなか魔女

(声を揃えて)魔女になるしかないわねえ。おっほっほっほっほ……。

 舞台がゆっくり暗くなるにつれて救急車の効果音.
 ピーポー、ピーポー、ピーポー、ピーポー……(次第に近づいてくる)
 音がやみ。暗くなって。全員、闇のなかではける。

 

演奏『Bad Habits』―Ed Sheeran

 

〈ここまでのシーンのビデオを観る〉

 

 舞台はブリンゲン島となる。
 上手から、魔術師(案内人)。いつもの場所で待っているふう。

 舞台下手から、女の子3人が出てくる。倒れていたときと同じ服装。

魔術師(案内人)

ようこそ、この島へ。
あ、私は怪しいものではありません。
ここは、イギリスで言えば、ハリーポッターのホグワーツみたいなものですよ。
この世と『あの世』の4分の3のところに浮かんでいる、ブリンゲン島です。

洋子

あの……。私は、誰で……、誰でしょうか。あ、わかるわけないですよね。
私、自分の名前、忘れてしまったんです。
それと、この人たちとどんな関係なんでしょうか。

ライス

私も、自分が誰なのか、
どうしてここにいるのか、わかりません。

カオル

それなら、私も、同じです。

魔術師(案内人)

大丈夫、大丈夫、だいじょうぶ、ですとも。
では、あなたから。名前は、東雲洋子、23歳。趣味、YouTube鑑賞。
そちらの方は、林田ライス、18歳。趣味、家出。
そしてそちらの方は、五月雨カオル、19歳。趣味、おや、こちらも趣味は家出。
で、3人の御関係は、……。
東京・新宿歌舞伎町の同じ場所で行き倒れになっていた、という御関係です。
以上。

ライス

いい加減なこと言わないでください。
私だけ、ハヤシライス、ですって?!

魔術師(案内人)

いやいや、林田、ライス、と申し上げました。
しかし、あなたのご両親は、ちょっとシャレがキツ過ぎる……、そう私も思います。

カオル

あなた、YouTube鑑賞が趣味って合ってる?

洋子

そう言われると、そんな気もする。あなたたちの趣味はあってる?

カオル

家出……。

ライス

家出……。(2人で顔を見合わせて)合ってるような気がする。

洋子

その……、私たちは、どうして……、どうして、ここにいるんですか?

魔術師(案内人)

ああ、それなら大丈夫。私に会って、私に案内されて、ある人物に会う。
そのためにここにきたんですよ。

洋子

ある人物って、誰なんですか?

魔術師(案内人)

なんていうか、世間では、……悪魔、なんていわれていますね。
あ 私がご案内します。心配、要りません。
いいですか、あなたが生きるため、です。

 舞台下手から青年が恐竜に乗ってでてくる。

青年

ちょっと待った。きみたち、その魔術師についていっちゃ、いけないよ。

ライス

魔術師?!(と魔術師(案内人)を振り返る)

洋子

(青年が乗っている恐竜を見て)そ、それは、恐竜?!

青年

いかにも。僕は恐竜だ。いや、違った、僕が乗っているのは恐竜だ。
心配しなくていい、噛み付いたりしないよ。
これは僕が飼っているから、慣れている。

魔術師(案内人)

どうして、お前はいつも私の邪魔をするんだ。
魂を売るのか、売らないのか、
それはこの子たちが判断すればいいだけじゃないか。

青年

お嬢さん、この人はね、悪魔の手先だよ。悪魔の手先。
君たちの魂を悪魔に売り渡そうって魂胆だ。
絶対に、魂を悪魔に売っちゃいけない。

魔術師(案内人)

そんなこと言ったって、魂を売るから、死ななくてすむんじゃないか……

青年

お嬢さんたち、こんな魔術師はほっといて僕と一緒に行こう、
僕の恐竜牧場を見せてあげるよ。たくさんいるんだよ。さあ。

洋子

ちょっと待って。私は洋子。あなたは?

青年

僕はヤマト。

 青年と洋子たちは下手に去る

魔術師(案内人)

きみたち、魔女になれるチャンスなんだよ!
(と4人が去ったほうに向かって叫ぶ)
(振り返りながら上手にはける)

 

演奏『How Far I’ll Go』―Alessia Cara

 

〈ここまでのシーンのビデオを観る〉

 

 4人。ヤマトは双眼鏡を見ている。

洋子

恐竜牧場、すごかったわ。(以下、ヤマトがでてくるまでの時間稼ぎ台詞)
トリケラトプスが列をなして歩いていて、
ステゴザウルスが子育てをしていた。
そして、イグアノドンは高いところの木の葉を食べていたわ。
まるで、ジュラシック・パークね。
でも、あんなに沢山、飼っていて、どうして共食いしないんだろう。

ヤマト

ああ、ほとんどは草食恐竜だけなんだ。

カオル

この海にも、恐竜はいるの?

ヤマト

海は普通の魚しかいないよ。それと、普通の渡り鳥。

洋子

ね、いまその双眼鏡で何を見ているの?

ヤマト

ほら、覗いてごらん。メリケンキアシシギが見えるよ。

洋子

どこ? メリケン……?

ヤマト

メリケンキアシシギ。シギの仲間だ。足が黄色い小型の鳥が見えるだろ。
黄色い足のシギだから、キアシシギ。
アラスカ南部で繁殖し、冬はカリフォルニアやオーストラリア、
南太平洋の島で過ごしているんだ。
ハワイではこの鳥をウリリと呼んでフラダンスにしている。
いま、見えているのは、ちょっと日本で休憩しているところだよ。
渡りの距離はアラスカから、南太平洋まで1万キロ以上……、
脂肪1gのエネルギーを使って90km飛ぶことができると言われているよ。
あ、メリケンキアシシギのダンスがはじまるよ!

 

演奏『Uriri』

 

カオル

ふうん、鳥にもとっても詳しいのね。

ライス

なんか、物知りって、カッコいいね。

 ザザーッ という波が打ち寄せる効果音 波を数回。

ライス

なんて広々としているんだろう。ああ、気持ちがいい。
こんな気持ち、……生まれて初めて、かもしれない。

カオル

私も、こんな気持ち初めて。
ねえ、私たち、生きてるの? ひょっとして死んでる?

ライス

死んでるかもー。

洋子

本当に不思議な島。
私も、この島の住人になりたいな、一緒に恐竜を放牧して……。
なーんていったりして……。
どうして、さっき、私があの変な人についていこうとしたとき、止めたの。
悪魔とか、魂とか。本気で言ってるの?

ヤマト

ああ、本気さ。あの魔術師は、悪魔に女の子を紹介して、魂を売らせて、
魂を売った女の子は、……魔女になってしまうんだ。
本当のことだよ。きみは、魔女になっていいと思う?

洋子

魔女……、わからない。
だけど、ちょっと魅力的にも、思うな。だって魔女っていうくらいだから、
魔法を使えるんでしょ。それもいいな、って思う。

ヤマト

ダメだよ、魔女になっちゃ。

ライス

でも、わたしたち、ニンゲンをやっていると、普通に生活するのが難しいから。

洋子

そう。私たち、どうしても人間関係がとれなかったり、
仕事をうまく覚えられなくて、すぐ仕事をやめることになってしまう……。
どうやって生活していったらいいか、智慧を貸してほしいわ。

ヤマト

きみ、YouTube鑑賞が趣味だとかいってたけど、
ほかに何か特技とか、できることってないかな?

洋子

……、うーん、強いていえば唐揚げをつくるのが好きかな。
唐揚げを、食べるのも好きよ。

ヤマト

そうか。この島は、時空の交差点にもなっている。
過去に行ったり、未来に行ったり、簡単にできるんだ。
きみたちの5年後を、見に行くことはできるよ。
ただ、5年後を見て、ガッカリしてしまうかもしれない。
見ないほうがよかった、なんて。

洋子

どっちの結果になっても、きっと後悔しない。
連れていってくれる?  5年後に。――私、どうなっているか確かめたい。

ヤマト

わかった。ちょっと怖いけど、見に行こうか。

 洞窟の入り口に立つ。
 「五年後の3人を見に行く!」
 効果音と共に暗くなる。

 

演奏『金太郎囃子』

 

 看板。「魔女の唐揚げ 本店」
 「トリケラトプス味、イグアノドン味、ステゴサウルス味」
 賑わって行列ができている。
 客のほとんどはブタだ。

客1

この店の唐揚げ、うまいよね。毎日、食べたくなる。

客2

トリケラトプスって、恐竜だろ。恐竜の唐揚げって、ほんとうなの?

客3

そんなわけ、ないだろ。
トリケラが醤油味、イグアノが塩味、ステゴがニンニク醤油味。
鶏の唐揚げの味付けを変えて、恐竜っていってるに決まってる。
だけど、うまいよな。味に野性味がある。

 客、買っていこうか、と列に並ぶ。

カオル

いらっしゃいませ! ステゴサウルスを2人前ですね。ありがとうございます。

ライス

そちらのお客様、ご注文を伺います。
トリケラトプス3人前と、イグアノドン5人前、ありがとうございます。

 魔女(ひろ)と魔女(まなか)がしずしずと上手から出る。

ひろ魔女

おや、まあ。これはあのシマの肉を使った唐揚げじゃないのかい?

まなか魔女

ひょひょひょ、あのシマの肉がここでも味わえるなんて、うれしいねえ。
でも、本当なの?  なんでここでシマの肉が食べられるのかしら。
しかもチェーン展開するほど流行っているよ。

ひろ魔女

これが悪魔に見つかったら、たいへんだよ。シマから恐竜を持ち出して……。
もっとも、誰も告げ口なんてしないだろうけど。
あなた、言う?

まなか魔女

言うもんかね。神様にも悪魔にも言うもんかい。
しばらくは、楽しませてもらうよ。

2人

ひょーひょっひょっひょっひょ………

 2人の魔女は下手に去る。

 上手からヤマトと洋子

洋子

これが、私たちの唐揚げ店?! すごく流行ってる。
なんか、頭が混乱する。店にならんでいたのはブタだったような気がする。

ヤマト

店に並んでいた人たちは、魔法使いにブタにされてしまった人たちだよ。
もう、魔女と魔法使いが、ウヨウヨしている時代になってる。

秘書

洋子さん、……ですよね。

洋子

はい、私ですが、なんの御用でしょうか。

秘書

私は、イタダキと申しまして、横瀬産業の社長秘書です。
こちらの横瀬産業の横瀬社長が、洋子さんにお話があってまいりました。

横瀬

私は、横瀬産業の社長をしている横瀬と申します。
食用肉の販売をしておりまして……。
ちょっと小耳にはさんだのですが、
こちらの恐竜の肉は、本物の恐竜肉、ですよね。
鶏肉じゃなくて恐竜肉……、ああ、知ってます、知ってます。
そこで、私と一緒に、大儲けしてみませんか。私にも肉を売ってほしいんです。
もちろん謝礼といっては何ですが、
インスタフォロワー100万人をプレゼントします――。
 (と洋子の顔をドヤ顔で見る)

洋子

インスタフォロワー100万人ですって?!

横瀬

そう、そう。それが、心ばかりのプレゼントですよ。100万人。
あなた、もうそれだけで、成功者の証し。
あなたの後ろを、ゾロゾロ、ゾロゾロ、ゾロゾロ……。
100万人の国民がついて歩くんですよ。
そしたらもうどこで唐揚げ店を開業しようが、長蛇の列。
大繁盛まちがいなし!!
そのフォロワー100万人を、プレゼントしますよという夢の条件をお付け……。

洋子

いえ、私は100万人とか、要りません。

横瀬

は? 要らない?
あなた、これ秘密ですよね。実はファーマーズの裏山で恐竜を飼っている。
それが世間に知られていいんですか。
誰も知らない肉の出所。唯一無二の独創的なお肉ちゃん。
だ、か、ら、私と組んで、一緒に儲けましょう。

洋子

ああ、まだ、それは私の一存では決められないので。本当なんです。

横瀬

いただき!!(と秘書を呼ぶ)

いただき秘書

洋子さん、私、悪魔との契約をするブリンゲン島にいたんですよ。
こう見えても、私は、魔女。(黒い帽子をかぶっているので誰にもわかる)
あなた、やたらヤマト君に近づいていくなー、と思ってみてたけど、
ふん、ふん、ふん、ふん、そういうご関係というわけなのね、ヤマト君。
ヤマトくん、君が恐竜を放牧していたのを、私も知ってるんですよ。
とぼけたって、無駄です。
お互い、ウィンウィンでいきましょうよ。

横瀬

ああ、飼育者の方がこちらにいらっしゃる。それなら話しは簡単だ。
月に百トンほどでいいですよ。お願いしますよ。

ヤマト

いや、残念ですが、お断りします。
……私を怒らせると、困ったことになりますよ。

 ヤマトが一歩、前に出る。

ヤマト

ムー、「お前は、恐竜だ!」

(即座に恐竜のかぶり物をかぶる)

横瀬

(高這いをしながら)クォー、クォー(効果音)、と舞台下手へはける。

 いただき秘書もあわてて下手に追ってはける

 

演奏『DANCE MONKEY』―Tones and I

 

洋子

さっき、ヤマト
あの、悪徳商売人のような横瀬という人が、一瞬にして、恐竜に変わってしまった。
ヤマト、あなたは、人間なの? 人間じゃないの?!

ヤマト

(やや怯んで)あ、ああ、僕は、この島の住人で……、魔法使いのようなものさ。
魔女にも、現世だけで生きる魔女と、
この島の住人とがいる。パラソル魔女や魔女の使いネコはこの島の住人さ。

 地鳴りの効果音 ゴゴゴゴッ 4人は地震で揺れる様子。

洋子

地震だわ。

洋子

もし、私が魔女になったとして、……何か不都合なことってあるの?!

ヤマト

あのハリーポッターなんて、作り話だよ。小説の話し。
この世界で本当の魔法使いはそんないいものじゃない。
悪魔に魂を売り渡す、ということは、
人間の持っている、一番いいものを失うことなんだ。

洋子

人間の持っている、一番いいものを……?!
悪魔との契約って、どんな内容なの?

ヤマト

それはね、……あ、あいつが来た!

魔術師(案内人)

ハイホー ハイホー 魔女になろう。悪魔と契約 ハイホー ハイホー。
あなた方が来ないならば、こちらから出向こうと……。
ここで契約をするというのはどうでしょうか。

ヤマト

不愉快だ。僕は行く。

魔術師(案内人)

あ……(ヤマトを見送る)。
(振り返って)あなたたち、魔女になりたいでしょう?! じゃまな青年がいなくなったところで、
早いところ、話しを進めましょう。
洋子さん、ライスさん、カオルさん、
あなたは、悪魔に魂を売るのです。
どうして、売るのか。話は極めて、簡単ですよ。
あなたは……、「もう、私は生きていたくない」「あまりにも辛過ぎる」
「いっそ、死んでしまおう」、そこまで追いつめられていた。
そこで着いたのが、この島です。
いまのあなた方の選択肢は、2つに1つ。
ひとつ! 悪魔に魂を売り渡して、魔女となって生き延びる、という選択。
ひとつ! 悪魔に魂を売り渡さない。けど、本当に死んでしまう、という選択。
さあ、どちらにします。

洋子

魔女となって生きるか、魔女にならないで死ぬか、ということですよね。

カオル

それって選択肢が2つじゃなくて、1つじゃないの?

ライス

死にたくなければ、魔女になれ、ということ?

魔術師(案内人)

ああ、あなた方は3人そろってとても聡明な子たちだ。まさにその通り。

 3人、顔と見合わせて迷う様子

魔術師

迷うのもわかります、よーくわかります。
わたしも、無理やり魔女にしてしまおうなんて、思ってはいませんよ。
まずはお試し1週間、仮契約でも結構です。
仮契約にお申込みいただきますと、
今なら特別に「変身の魔法」の力をプレゼントいたします。
限定3名様、ワン、ツー、スリー、
なんと奇遇な! ちょうど、3名様、いかがですか。

ライス

えっ! 魔法が使えるの??

カオル

契約、してみる?

洋子

魔女になるか、死んでしまうか……(ライスとカオルを見て、うなずく)

魔術師

仮契約、成立です。ありがとうございます。

 

演奏 管楽器アンサンブル
『ホーンテッド・ハウス 「アミューズメント・パーク」より』―高橋宏樹

 

 病院らしいところ。
 洋子が横になっている。白衣の医師(案内人)と洋子の母親

母親

先生、どうなんでしょう。
もう1週間も意識がもどらないということは……。
このまま、あの子を失うなんて、……それはそれでいいんですが。
あの子には、ずいぶんとからかったり、バカにしたり、
私は、あの子をストレスの犠牲にしたかもしれないと、
自責の念が、少しだけあるんです。
あの子がこのまま亡くなったら、なんとなくバツが悪いような……。

医師

残念ですが、覚悟をしておいたほうがいいでしょう。
いまは薬で強制的に生かしているだけ、です。
お母さんのいう、ストレスとは、何ですか。
もし、よかったら……。

母親

やっぱり、自分が幸せじゃない、というストレスです。
夫もいたし、子供たち家族もあり、仕事もあったけれども、
何か満たされなくて、私は家庭を顧みることはありませんでした。

医師

だって、家事や育児はお母さんがしていたんでしょう。

母親

それが、経済的に恵まれていたこともあって、
任せられる限り、ベビーシッターや家事サービスに任せて、
私は自分の幸せ探しを懸命にしていました。
それと、私は子育てに夢を持っていたんです。
(正面を向いて)ところが、(ここまで言ってから、ベッド前、洋子足下に移動する)
(正面を振り返って)
この子に発達障害があるかもしれない、とわかってしまって……。
(よよよ、と崩れてから)
それ以来、この子に対しては、腰が引けてしまいました。
こんなこと、言いたくはないですが……。

 ガバッと、洋子が起き上がる。

母親

ヒエーーーーッッ、死体が起き上がったー!!!
(と、引っ繰り返る。)

医師

まだ、死体の手前……、でしたが。

洋子

ああ、あたし、どうしちゃったんだろ。
あら、あなたは案内人の魔術師?! どうしてここに?!

医師

もう、大丈夫のようですな。では、私はこれで。
(医師はそそくさと、上手に去る)

母親

ようこ、お母さんもう死んだかと思った。よかった、意識が戻って。

洋子

あの人、医師じゃなくて、悪魔の手先よ。
おかげで、私、魔女になっちゃった。

母親

そう、魔女になったの。だいぶ、熱が出ていたからね。
いいのよ、いいのよ。魔女になってもいいの。何も、心配しないで。

洋子

ムムムム、「ルエガキ!」
(その呪文で、母親の衣裳が一瞬で変わる)

母親

え、どうなってるの?!

洋子

だから、わたし、魔女になったって言ってるでしょ。

母親

ああ……。(失神して倒れる)

洋子

変身の魔法……魔女の契約は、本当だったんだ。

 

演奏『O Vai』―Vaiteani

 

魔術師

いかがですか、魔女を体験してみて?

洋子

不思議と、心の痛みを忘れることができた。
魔法みたいね。いや、魔法なのか。
でも、これって、魔法の力を使って、辛いことを見て見ぬふりをしてるだけよね。

魔術師

いいんです、それでいいんですよ。死なないこと、それがなにより大事だ。
それでは、本契約を―――

洋子

あの、質問していいですか?
悪魔は、……どうして悪魔になったんですか。

魔術師(案内人)

えっ?! ああ、ああそうですね。確かに。良い質問です。
まず、魔法には、黒魔法と、白魔法があります。白魔法は横に置いておきましょう。
黒魔法のパワーを借りる相手こそが、「悪魔」です。
で、この悪魔というのはね、もとはといえば天使も天使、
天使のなかでもシュープリーム・エンジェル。
一番、神様に可愛がられていた天使だった。(と天を仰ぎ見る)

洋子

悪魔が天使だった、ですって?

ライス

シュークリーム天使?

カオル

シュークリームじゃなくてシュープリーム。最高の天使だって。

魔術師(案内人)

そう、そう。天使も天使、天使のトップ。立派なものです。
人間が生まれるまで、神様を助けるのが、天使の役割りだった。
ところが、人間がこの世界に生まれてからというもの、
神様は、未熟な人間を、一番、可愛がるようになった。
自分が一番、神様に近いと思っていた天使は、心底、ガッカリした。
だってそうですよね。
人間というのは、欲にまみれ、
人を羨ましがったり、妬んだり、
勝手に勝ち誇って、成果をみせびらかしては喜んでいる。
そんなことばかりしているのが人間……。
なぜ? どうして? そんな人間を可愛がるの?
そう。未熟な人間がそんなに可愛いなら、……いいですよ……。
(ちょっと間をおいて)
私は天使をやめて、悪魔になる――。

 3人、顔を見合わせる。

ライス

天使が悪魔になったって?!

魔術師(案内人)

そうです。
そして、魔女になりたいという人間たちと次々に契約をして、
黒魔法の力を与えている、というわけです。
世界に目を向けても、
東ヨーロッパでは、大国が小国を踏みつぶそうとして、小国が必死に抵抗している。
中東でも、一方的に攻撃して1万人以上の戦死者を出しても
まだまだ足りないと攻撃が続いている。
1つの国の中でも、生きにくさがあり、
国と国との間でも、何万人という単位で人を殺し合う。
優しさを持っていたら、正気ではいられない。
だから、そこで正気を保つためには、
悪魔の論理で、人間の未熟さを肯定してしまえば、生き伸びることだけはできる―――。

洋子

わかりました。私は、契約します。魔女になります。

カオル

私も、契約します。

ライス

私も、します。

魔術師(案内人)

非常に頭がいい方々だ。
では、悪魔さんとの契約式にいきましょう。

 

演奏 管楽器アンサンブル
『ブエノスアイレスのマリア』―A.Piazzolla

 

 悪魔との契約式。
 3人はイスに座り、魔術師は上手側にたって演技。

魔術師

ただいまより、悪魔との契約式を執り行います。
断っておきますが、悪魔さんは強いティラノサウルスに身を変えていますが、
びっくりなさらないように、お願いします。

(効果音 グルルル、グァオー!
 3人はビックリして、イスから飛び上がり、腰を屈めてかくれる)

洋子

えっ、本当に? ティラノサウルスの中に悪魔が?!

魔術師

では、悪魔とあなた方3人との魔女になる契約式を行ないます。
よろしゅうございますか? 悪魔さま。

悪魔(声)

(効果音グルルル) よし! 始めろ!!

魔術師

契約条項は全部で10か条、あります。では、読み上げます。
第一条 神様への忠誠を撤回し、
自分たちは目に見えないものの力によって生かされている存在なのだ、
とは決して思わないこと。

ライス

私はもともと、「仏教徒」で……。その場合は、どうなるんですか?

カオル

つまり、「てやんでぃ、神も仏もあるもんか」ってことですよね。

魔術師

おおむね、そういうところでしょう。
第二条、悪魔に忠誠を近い、損得勘定だけで物事を考え、
自分さえ得をすればいい、と思うこと。

カオル

なんとか、やれそうな感じ。

魔術師

第三条、困っている人がいたら喜んで近づいていって
自分のほうが幸せでよかったと確かめ、
高く評価されている人がいたら必ず足を引っ張ること。

カオル

そんな人、どこかにいそうな感じよね。

魔術師

第四条 大きくて新しい家、大きくて立派な外車に乗っている人をみたら、
必ず羨望の眼差しで見守ること。

ライス

せんぼうのまなざし、というのはどういうことですか。

カオル

あーっ、うらやましー、って感じの目線ということじゃないの。

魔術師

素晴らしい!完璧です。
第五条 医師、弁護士、公認会計士など、「し」がつく職業の人を見たときは、
必ず深い嫉妬と、妬みと、悔しさをもって、すれ違い様に臭いをかぐこと。

洋子

臭いをかぐ? なんで?

魔術師

魔女の習慣だから、です。運気を少しでも吸い込むためには仕方がありません。
第六条 アパート・マンションを何棟か建てて、
不動産収入で一生、楽に遊んで暮らす、それこそが最高の人生である、と信じること。

カオル

ええっーーー!!

魔術師

第七条 夫婦というものは、基本的に無視し合う関係であり、
口を開けば、必ずお互いを非難し合うのをやめないこと。

ライス

ええっーーー!!

魔術師

なんですか、その「ええっーー」というのは。

カオル

あのー。私のお母さんは、もう魔女になっていると思います。
ここまでの条文は、全部、お母さんの信条そのものです。

魔術師

では、魔法は使えますか? 

カオル

(カオルは首を横にふる)使えません。

魔術師

使えない……。それは「ほとんど魔女」という新しいタイプだと思います。

カオル

「ほとんど魔女?!」 やっぱり!!……。

魔術師

第八条 ここが、一番大事なところです。
第八条、魔女は生きるつらさを逃がす術として「依存の術」を使えるが、
その代わりに、人としての幸せは放棄すること。

洋子

ちょっと待ってください。
人としての幸せを放棄するとは、どういうことですか。

魔術師

なーに、人として幸せになることはできないが、
立派な魔女となって、みんなに嫌われながら生きていけばいいんですよ。
そうでございますよね?悪魔様。

悪魔

(グルルルル) そうだ!!

 3人は顔を見合わせ、うなだれる。

魔術師

(とりなすように)次の第九条が魔法についての条文です。
第九条 魔女となる者は、悪魔より魔法を使う術を授ける。
そして最後の第10条が、魔女を下りるときは、命をもって購う。(あがなう)

悪魔(声のみ)

よし、お前たちが魔法を使えるように、魔力を与えよう。腕を出せ。

 左腕の手首下の内側に、+印の判子を押す。魔女の印。
 押すときに、効果音で「ジューッ」と焼き印を押す音。

悪魔

これで、魔女となる契約ができた……。

魔術師

では、魔女になった証の、帽子を。

 使い猫が出てきて、帽子を3人に渡す。

 3人は前に1歩出てその印を見つめ、(腕を上げ)
 手首を観客席に見えるようにして、正面上を仰ぎ見る。

魔術師

命は、救われた。

 

演奏『Creepin’』―Metro Boomin, The Weeknd & 21Savage

 

前半 幕

 後半へ続く