幕が開く
演奏『Oblivion』―Sia
魔女の使いネコが数頭、出てきて、やや上手よりの前方で、会話
魔女の使いネコ1
魔女の使いネコ3
瀬戸内(せとうち)の小豆島とか、直島(なおしま)じゃあるまいし、女の子に人気がでてきた島、っていうんじゃあ、ないよね。
魔女の使いネコ3
この身が引き裂かれるような辛さ、生きていけない辛さに打ちのめされたとき、
初めて見えてくる島……。
それなのに増えてるって、ことは、……どーゆーことなの?!
魔女の使いネコ2
あなたなら、知っていそうね……
魔女の使いネコ1
この世界がどんどん生きにくくなっているということよ。
なぜならば……。
魔女の使いネコ2、3、4
魔女の使いネコ1
傷付いた女の子を、魔女に作り替えてしまう島だから!!
魔女の使いネコ2と3
魔女の使いネコ2、3、4
魔女の使いネコ1
あんたたちだって、元をたどれば現世からはみだして、
魔女の使いネコになって生き延びてきたクチじゃないの。
ほらほら、島への案内人が、また油を売ってるよ。
そういえば、案内人があの仕事をはじめたのは、たしか……
あの人の妹さん、ほら、昔……
あの人を探して島に来たきれいな妹さん。
魔女になったとか、ならないうちに……。
魔女の使いネコ3
子供を残して亡くなってまったって話さ。それからずっと、あんな風さ。
魔術師(案内人)がだるそうに下手から歩いてきて、
ベンチでごろりと横になり、手枕で寝てしまう。
使いネコ1が、そんな魔術師(案内人)に近づいていく。
魔女の使いネコ4
魔術師(案内人)が飛び起きて、もみ手をしながら
魔術師(案内人)
おい、使いネコ、そんな、いたずらばかりしてたら……
魔女の使いネコ3
魔術師(案内人)
魔女の使いネコ1234
魔術師(案内人)、やや疲れ気味。下手前方に歩いて止まり台詞。
魔術師(案内人)
……そして魔女に変えてしまう。
……こんなことやっていて、いいのかなあ。
いや、仕方ない。仕方ないんだよ……。
演奏『Señorita』―Camila Cabello & Shawn Mendes
〈ここまでのシーンのビデオを観る〉
効果音 都会の雑踏の雑音 車の警笛、電車の音、ざわめき
通行人が舞台を左右に歩いている。
洋子とライスが上手から、出てくる。酔っているのか、足下がおぼつかない。
2人とも片手にボトルを持ち、ラッパ飲み。
舞台上手の奥でしゃがみ込み、通りを見ている。
1人の男が立ち止まり、何か声をかけている。
洋子は手を振り払って、あっちへ行け、というしぐさ。
男はその場を離れる。離れ際に、女の子たちを蹴るそぶり。
洋子とライスはひと口、またひと口を酒を飲んでいるが、
やがて、横になり、眠ってしまったふう。
(この間、ずっと人通りは続いている)
カオルが、下手から段ボール箱を開いたもの(布団のように)3枚をもって出てくる。
(家出用の粗末な)リュックを背負っている。
舞台の奥で段ボールを三角形に組み上げるが、ふと2人に目が止まる。
考え直して2人にそれぞれ1枚ずつ段ボールをかけて、
自分も段ボール1枚をかぶって横になる。
下手から、魔女の使いネコ3匹と、2人の魔女がしずしずと出てくる。
まなか魔女
ひろ魔女
あなた、お得意の術であの子たちの中に入って、見ておいでよ。
まなか魔女
まずは、この子から(カオル)。
手をかざして、急にうなだれる。
少しして、ガバッとおきる。2、3歩、前にでて、女子3を振り返る。
ひろ魔女
まなか魔女
ものが飛び交って、流血騒ぎ、こりゃすさまじいや……。
母親は毎晩、酔いつぶれるまで飲んだくれ……。
この子のいる場所がない……。
ひろ魔女
まなか魔女
手をかざして、ガクッとうなだれ、少ししてガバッと起きる。
ひろ魔女
まなか魔女
それで親からひどく差別され続けたことがもとで、
自尊心がスカスカになっている。何をするにも自信がない。
もう死んでもいいって。
ひろ魔女
あっちの子(ライス)はどうなんだい?
まなか魔女は同様にライスを見る。
まなか魔女
心の土台を作りそこなってしまった。
この地球の上にはもう、この子が安心して居られる場所がない。
ひろ魔女
このままじゃ、死んでしまうんじゃないかい?
まなか魔女
ひろ魔女
ひろ魔女・まなか魔女
舞台がゆっくり暗くなるにつれて救急車の効果音.
ピーポー、ピーポー、ピーポー、ピーポー……(次第に近づいてくる)
音がやみ。暗くなって。全員、闇のなかではける。
演奏『Bad Habits』―Ed Sheeran
〈ここまでのシーンのビデオを観る〉
舞台はブリンゲン島となる。
上手から、魔術師(案内人)。いつもの場所で待っているふう。
舞台下手から、女の子3人が出てくる。倒れていたときと同じ服装。
魔術師(案内人)
あ、私は怪しいものではありません。
ここは、イギリスで言えば、ハリーポッターのホグワーツみたいなものですよ。
この世と『あの世』の4分の3のところに浮かんでいる、ブリンゲン島です。
洋子
私、自分の名前、忘れてしまったんです。
それと、この人たちとどんな関係なんでしょうか。
ライス
どうしてここにいるのか、わかりません。
カオル
魔術師(案内人)
では、あなたから。名前は、東雲洋子、23歳。趣味、YouTube鑑賞。
そちらの方は、林田ライス、18歳。趣味、家出。
そしてそちらの方は、五月雨カオル、19歳。趣味、おや、こちらも趣味は家出。
で、3人の御関係は、……。
東京・新宿歌舞伎町の同じ場所で行き倒れになっていた、という御関係です。
以上。
ライス
私だけ、ハヤシライス、ですって?!
魔術師(案内人)
しかし、あなたのご両親は、ちょっとシャレがキツ過ぎる……、そう私も思います。
カオル
洋子
カオル
ライス
洋子
魔術師(案内人)
そのためにここにきたんですよ。
洋子
魔術師(案内人)
あ 私がご案内します。心配、要りません。
いいですか、あなたが生きるため、です。
舞台下手から青年が恐竜に乗ってでてくる。
青年
ライス
洋子
青年
心配しなくていい、噛み付いたりしないよ。
これは僕が飼っているから、慣れている。
魔術師(案内人)
魂を売るのか、売らないのか、
それはこの子たちが判断すればいいだけじゃないか。
青年
君たちの魂を悪魔に売り渡そうって魂胆だ。
絶対に、魂を悪魔に売っちゃいけない。
魔術師(案内人)
青年
僕の恐竜牧場を見せてあげるよ。たくさんいるんだよ。さあ。
洋子
青年
青年と洋子たちは下手に去る
魔術師(案内人)
(と4人が去ったほうに向かって叫ぶ)
(振り返りながら上手にはける)
演奏『How Far I’ll Go』―Alessia Cara
〈ここまでのシーンのビデオを観る〉
4人。ヤマトは双眼鏡を見ている。
洋子
トリケラトプスが列をなして歩いていて、
ステゴザウルスが子育てをしていた。
そして、イグアノドンは高いところの木の葉を食べていたわ。
まるで、ジュラシック・パークね。
でも、あんなに沢山、飼っていて、どうして共食いしないんだろう。
ヤマト
カオル
ヤマト
洋子
ヤマト
洋子
ヤマト
黄色い足のシギだから、キアシシギ。
アラスカ南部で繁殖し、冬はカリフォルニアやオーストラリア、
南太平洋の島で過ごしているんだ。
ハワイではこの鳥をウリリと呼んでフラダンスにしている。
いま、見えているのは、ちょっと日本で休憩しているところだよ。
渡りの距離はアラスカから、南太平洋まで1万キロ以上……、
脂肪1gのエネルギーを使って90km飛ぶことができると言われているよ。
あ、メリケンキアシシギのダンスがはじまるよ!
演奏『Uriri』
〈ここまでのシーンのビデオを観る〉
カオル
ライス
ザザーッ という波が打ち寄せる効果音 波を数回。
ライス
こんな気持ち、……生まれて初めて、かもしれない。
カオル
ねえ、私たち、生きてるの? ひょっとして死んでる?
ライス
洋子
私も、この島の住人になりたいな、一緒に恐竜を放牧して……。
なーんていったりして……。
どうして、さっき、私があの変な人についていこうとしたとき、止めたの。
悪魔とか、魂とか。本気で言ってるの?
ヤマト
魂を売った女の子は、……魔女になってしまうんだ。
本当のことだよ。きみは、魔女になっていいと思う?
洋子
だけど、ちょっと魅力的にも、思うな。だって魔女っていうくらいだから、
魔法を使えるんでしょ。それもいいな、って思う。
ヤマト
ライス
洋子
仕事をうまく覚えられなくて、すぐ仕事をやめることになってしまう……。
どうやって生活していったらいいか、智慧を貸してほしいわ。
ヤマト
ほかに何か特技とか、できることってないかな?
洋子
唐揚げを、食べるのも好きよ。
ヤマト
過去に行ったり、未来に行ったり、簡単にできるんだ。
きみたちの5年後を、見に行くことはできるよ。
ただ、5年後を見て、ガッカリしてしまうかもしれない。
見ないほうがよかった、なんて。
洋子
連れていってくれる? 5年後に。――私、どうなっているか確かめたい。
ヤマト
洞窟の入り口に立つ。
「五年後の3人を見に行く!」
効果音と共に暗くなる。
演奏『金太郎囃子』
〈ここまでのシーンのビデオを観る〉
看板。「魔女の唐揚げ 本店」
「トリケラトプス味、イグアノドン味、ステゴサウルス味」
賑わって行列ができている。
客のほとんどはブタだ。
客1
客2
客3
トリケラが醤油味、イグアノが塩味、ステゴがニンニク醤油味。
鶏の唐揚げの味付けを変えて、恐竜っていってるに決まってる。
だけど、うまいよな。味に野性味がある。
客、買っていこうか、と列に並ぶ。
カオル
ライス
トリケラトプス3人前と、イグアノドン5人前、ありがとうございます。
魔女(ひろ)と魔女(まなか)がしずしずと上手から出る。
ひろ魔女
まなか魔女
でも、本当なの? なんでここでシマの肉が食べられるのかしら。
しかもチェーン展開するほど流行っているよ。
ひろ魔女
もっとも、誰も告げ口なんてしないだろうけど。
あなた、言う?
まなか魔女
しばらくは、楽しませてもらうよ。
2人
2人の魔女は下手に去る。
上手からヤマトと洋子
洋子
なんか、頭が混乱する。店にならんでいたのはブタだったような気がする。
ヤマト
もう、魔女と魔法使いが、ウヨウヨしている時代になってる。
秘書
洋子
秘書
こちらの横瀬産業の横瀬社長が、洋子さんにお話があってまいりました。
横瀬
食用肉の販売をしておりまして……。
ちょっと小耳にはさんだのですが、
こちらの恐竜の肉は、本物の恐竜肉、ですよね。
鶏肉じゃなくて恐竜肉……、ああ、知ってます、知ってます。
そこで、私と一緒に、大儲けしてみませんか。私にも肉を売ってほしいんです。
もちろん謝礼といっては何ですが、
インスタフォロワー100万人をプレゼントします――。
(と洋子の顔をドヤ顔で見る)
洋子
横瀬
あなた、もうそれだけで、成功者の証し。
あなたの後ろを、ゾロゾロ、ゾロゾロ、ゾロゾロ……。
100万人の国民がついて歩くんですよ。
そしたらもうどこで唐揚げ店を開業しようが、長蛇の列。
大繁盛まちがいなし!!
そのフォロワー100万人を、プレゼントしますよという夢の条件をお付け……。
洋子
横瀬
あなた、これ秘密ですよね。実はファーマーズの裏山で恐竜を飼っている。
それが世間に知られていいんですか。
誰も知らない肉の出所。唯一無二の独創的なお肉ちゃん。
だ、か、ら、私と組んで、一緒に儲けましょう。
洋子
横瀬
いただき秘書
こう見えても、私は、魔女。(黒い帽子をかぶっているので誰にもわかる)
あなた、やたらヤマト君に近づいていくなー、と思ってみてたけど、
ふん、ふん、ふん、ふん、そういうご関係というわけなのね、ヤマト君。
ヤマトくん、君が恐竜を放牧していたのを、私も知ってるんですよ。
とぼけたって、無駄です。
お互い、ウィンウィンでいきましょうよ。
横瀬
月に百トンほどでいいですよ。お願いしますよ。
ヤマト
……私を怒らせると、困ったことになりますよ。
ヤマトが一歩、前に出る。
ヤマト
(即座に恐竜のかぶり物をかぶる)
横瀬
いただき秘書もあわてて下手に追ってはける
演奏『DANCE MONKEY』―Tones and I
〈ここまでのシーンのビデオを観る〉
洋子
ヤマト、あなたは、人間なの? 人間じゃないの?!
ヤマト
魔女にも、現世だけで生きる魔女と、
この島の住人とがいる。パラソル魔女や魔女の使いネコはこの島の住人さ。
地鳴りの効果音 ゴゴゴゴッ 4人は地震で揺れる様子。
洋子
洋子
ヤマト
この世界で本当の魔法使いはそんないいものじゃない。
悪魔に魂を売り渡す、ということは、
人間の持っている、一番いいものを失うことなんだ。
洋子
悪魔との契約って、どんな内容なの?
ヤマト
魔術師(案内人)
あなた方が来ないならば、こちらから出向こうと……。
ここで契約をするというのはどうでしょうか。
ヤマト
魔術師(案内人)
(振り返って)あなたたち、魔女になりたいでしょう?! じゃまな青年がいなくなったところで、
早いところ、話しを進めましょう。
洋子さん、ライスさん、カオルさん、
あなたは、悪魔に魂を売るのです。
どうして、売るのか。話は極めて、簡単ですよ。
あなたは……、「もう、私は生きていたくない」「あまりにも辛過ぎる」
「いっそ、死んでしまおう」、そこまで追いつめられていた。
そこで着いたのが、この島です。
いまのあなた方の選択肢は、2つに1つ。
ひとつ! 悪魔に魂を売り渡して、魔女となって生き延びる、という選択。
ひとつ! 悪魔に魂を売り渡さない。けど、本当に死んでしまう、という選択。
さあ、どちらにします。
洋子
カオル
ライス
魔術師(案内人)
3人、顔と見合わせて迷う様子
魔術師
わたしも、無理やり魔女にしてしまおうなんて、思ってはいませんよ。
まずはお試し1週間、仮契約でも結構です。
仮契約にお申込みいただきますと、
今なら特別に「変身の魔法」の力をプレゼントいたします。
限定3名様、ワン、ツー、スリー、
なんと奇遇な! ちょうど、3名様、いかがですか。
ライス
カオル
洋子
魔術師
演奏 管楽器アンサンブル
『ホーンテッド・ハウス 「アミューズメント・パーク」より』―高橋宏樹
病院らしいところ。
洋子が横になっている。白衣の医師(案内人)と洋子の母親
母親
もう1週間も意識がもどらないということは……。
このまま、あの子を失うなんて、……それはそれでいいんですが。
あの子には、ずいぶんとからかったり、バカにしたり、
私は、あの子をストレスの犠牲にしたかもしれないと、
自責の念が、少しだけあるんです。
あの子がこのまま亡くなったら、なんとなくバツが悪いような……。
医師
いまは薬で強制的に生かしているだけ、です。
お母さんのいう、ストレスとは、何ですか。
もし、よかったら……。
母親
夫もいたし、子供たち家族もあり、仕事もあったけれども、
何か満たされなくて、私は家庭を顧みることはありませんでした。
医師
母親
任せられる限り、ベビーシッターや家事サービスに任せて、
私は自分の幸せ探しを懸命にしていました。
それと、私は子育てに夢を持っていたんです。
(正面を向いて)ところが、(ここまで言ってから、ベッド前、洋子足下に移動する)
(正面を振り返って)
この子に発達障害があるかもしれない、とわかってしまって……。
(よよよ、と崩れてから)
それ以来、この子に対しては、腰が引けてしまいました。
こんなこと、言いたくはないですが……。
ガバッと、洋子が起き上がる。
母親
(と、引っ繰り返る。)
医師
洋子
あら、あなたは案内人の魔術師?! どうしてここに?!
医師
(医師はそそくさと、上手に去る)
母親
洋子
おかげで、私、魔女になっちゃった。
母親
いいのよ、いいのよ。魔女になってもいいの。何も、心配しないで。
洋子
(その呪文で、母親の衣裳が一瞬で変わる)
母親
洋子
母親
洋子
演奏『O Vai』―Vaiteani
〈ここまでのシーンのビデオを観る〉
魔術師
洋子
魔法みたいね。いや、魔法なのか。
でも、これって、魔法の力を使って、辛いことを見て見ぬふりをしてるだけよね。
魔術師
それでは、本契約を―――
洋子
悪魔は、……どうして悪魔になったんですか。
魔術師(案内人)
まず、魔法には、黒魔法と、白魔法があります。白魔法は横に置いておきましょう。
黒魔法のパワーを借りる相手こそが、「悪魔」です。
で、この悪魔というのはね、もとはといえば天使も天使、
天使のなかでもシュープリーム・エンジェル。
一番、神様に可愛がられていた天使だった。(と天を仰ぎ見る)
洋子
ライス
カオル
魔術師(案内人)
人間が生まれるまで、神様を助けるのが、天使の役割りだった。
ところが、人間がこの世界に生まれてからというもの、
神様は、未熟な人間を、一番、可愛がるようになった。
自分が一番、神様に近いと思っていた天使は、心底、ガッカリした。
だってそうですよね。
人間というのは、欲にまみれ、
人を羨ましがったり、妬んだり、
勝手に勝ち誇って、成果をみせびらかしては喜んでいる。
そんなことばかりしているのが人間……。
なぜ? どうして? そんな人間を可愛がるの?
そう。未熟な人間がそんなに可愛いなら、……いいですよ……。
(ちょっと間をおいて)
私は天使をやめて、悪魔になる――。
3人、顔を見合わせる。
ライス
魔術師(案内人)
そして、魔女になりたいという人間たちと次々に契約をして、
黒魔法の力を与えている、というわけです。
世界に目を向けても、
東ヨーロッパでは、大国が小国を踏みつぶそうとして、小国が必死に抵抗している。
中東でも、一方的に攻撃して1万人以上の戦死者を出しても
まだまだ足りないと攻撃が続いている。
1つの国の中でも、生きにくさがあり、
国と国との間でも、何万人という単位で人を殺し合う。
優しさを持っていたら、正気ではいられない。
だから、そこで正気を保つためには、
悪魔の論理で、人間の未熟さを肯定してしまえば、生き伸びることだけはできる―――。
洋子
カオル
ライス
魔術師(案内人)
では、悪魔さんとの契約式にいきましょう。
演奏 管楽器アンサンブル
『ブエノスアイレスのマリア』―A.Piazzolla
悪魔との契約式。
3人はイスに座り、魔術師は上手側にたって演技。
魔術師
断っておきますが、悪魔さんは強いティラノサウルスに身を変えていますが、
びっくりなさらないように、お願いします。
(効果音 グルルル、グァオー!
3人はビックリして、イスから飛び上がり、腰を屈めてかくれる)
洋子
魔術師
よろしゅうございますか? 悪魔さま。
悪魔(声)
魔術師
第一条 神様への忠誠を撤回し、
自分たちは目に見えないものの力によって生かされている存在なのだ、
とは決して思わないこと。
ライス
カオル
魔術師
第二条、悪魔に忠誠を近い、損得勘定だけで物事を考え、
自分さえ得をすればいい、と思うこと。
カオル
魔術師
自分のほうが幸せでよかったと確かめ、
高く評価されている人がいたら必ず足を引っ張ること。
カオル
魔術師
必ず羨望の眼差しで見守ること。
ライス
カオル
魔術師
第五条 医師、弁護士、公認会計士など、「し」がつく職業の人を見たときは、
必ず深い嫉妬と、妬みと、悔しさをもって、すれ違い様に臭いをかぐこと。
洋子
魔術師
第六条 アパート・マンションを何棟か建てて、
不動産収入で一生、楽に遊んで暮らす、それこそが最高の人生である、と信じること。
カオル
魔術師
口を開けば、必ずお互いを非難し合うのをやめないこと。
ライス
魔術師
カオル
ここまでの条文は、全部、お母さんの信条そのものです。
魔術師
カオル
魔術師
カオル
魔術師
第八条、魔女は生きるつらさを逃がす術として「依存の術」を使えるが、
その代わりに、人としての幸せは放棄すること。
洋子
人としての幸せを放棄するとは、どういうことですか。
魔術師
立派な魔女となって、みんなに嫌われながら生きていけばいいんですよ。
そうでございますよね?悪魔様。
悪魔
3人は顔を見合わせ、うなだれる。
魔術師
第九条 魔女となる者は、悪魔より魔法を使う術を授ける。
そして最後の第10条が、魔女を下りるときは、命をもって購う。(あがなう)
悪魔(声のみ)
左腕の手首下の内側に、+印の判子を押す。魔女の印。
押すときに、効果音で「ジューッ」と焼き印を押す音。
悪魔
魔術師
使い猫が出てきて、帽子を3人に渡す。
3人は前に1歩出てその印を見つめ、(腕を上げ)
手首を観客席に見えるようにして、正面上を仰ぎ見る。
魔術師
演奏『Creepin’』―Metro Boomin, The Weeknd & 21Savage
前半 幕