第60回「オオイヌノフグリ」
イエスキリストは、
重い十字架を背負わされ、
ゴルゴタの丘に向かって、
一歩、一歩、
歩を進めていた。
額に幾筋もの汗が流れ伝っていた。
見かねた聖女ヴェロニカは、
自らのベールで、その汗を拭った。
その後、聖女ヴェロニカのベールには
イエスキリストの顔が
映し出されたという。
この小さなコバルトブルーの花にも、
そのベールと同じ
イエスキリストの顔が
映るといわれ、
学名は聖女からとって
ヴェロニカ・ペルシカ
と名付けられた。
ありふれたなんでもないこの雑草に、
なぜ、イエスキリストを
見たのだろうか。
なぜ、聖女の名を冠するのか。
原野をいち早く
一面のコバルトブルーに染め、
夜には零下にもなる
早春の気候をものともせず、
たった1日で散る花を、
ここぞとばかり、
惜しみなく咲き散らかす
このオオイヌノフグリに、
祝福を与えたくなったのだとしたら
それはいい考えだ、
と同意するしかない。
〈 撮影場所: 池上桃畑 〉