ブドウにイチジク、秋の果物。どちらも今まさに結実し、果実の赤ちゃんが成長していく最中です。まだ小さくて、青く硬い実だけれど、日に日に大きくなっていくことが目に見えます。
私は、今まで担当してくれていた人から引き継いで、新しくブドウを担当させてもらうことになりました。ブドウ、イチジク、と夏から秋にかけて実る美味しい果物を育てていけることは、とても嬉しいのですが、果たしてちゃんと育てられるだろうか、と心配も大きかったです。
予想していた通り、いや、それ以上に、ブドウは繊細な果樹であることを、実際に手入れしながら思い知るのでした。
引き継いで初めて行った作業は、一巡目のジベレリン処理。
ジベレリン処理は、ジベレリンとフルメット液剤というホルモン剤を用います。ジベレリンは果実の種を抜く効果、フルメット液剤は着粒を促進する効果があります。
一巡目の適期は、花が満開になってから三日後まで。それも、湿度のある条件で処理し、液がゆっくりと乾くようにする必要があります。
限られた期間と、条件。うまく噛み合わせなければ、ホルモン剤の効果が得られず、いいブドウの房ができない。ジベレリン処理は、そんな風にとても繊細な作業でした。
透明のプラスチックコップに液を入れて、先端まで花が満開になっている房を、液に浸していきました。
ブドウの花は、咲いたかどうか、よくよく見なければ分かりません。蕾の状態から、覆いが浮いて、しべが現れた状態。これが開花時の状態です。蕾の覆いが取れると、小さな果実の赤ちゃんが見えます。
でも、そのすべてが黄緑。目を凝らして、房の全体の花が咲いているかを見て、判断していきました。
液に浸けた房は、軽く余分な液を指でトントンと落とし、一回目が終わった印として、前回の花穂成形で房の上部に残しておいた花穂を、切り落としました。
開花にずれがあったため、二回に分けて、一巡目のジベレリン処理を終えました。
古畑のシャインマスカットは一本で、約百房。池上ブドウ畑のオーロラブラックは四本で、約百房がついていました。
ただジベレリン液に、房をチャポンと浸しただけで効果があるのだろうか……そんな風に感じていましたが、日数が経過すると、その効果が歴然としました。
一巡目のジベレリン処理から十日。次の手入れに入るころには、細い軸に心もとなく咲いていた花が、もう大きい物は一粒が白大豆ほどの大きさがある、れっきとしたブドウの実になっていました。一部、開花が遅れていたためジベレリン処理をせず、試しに残しておいた房があったのですが、その房は花ふるい(整理落花)をして実が少なくなった上に、とても貧弱でした。
ホルモン処理をした房は、しっかりと実を房に留めて、安定して大きくなっていました。恐るべし、ホルモン処理の力です。
次に行った手入れは、果房整形、摘粒、ジベレリン処理二巡目、摘芯……。
果房整形では、オーロラブラックは果軸を六センチほど、シャインマスカットは八センチほどになるよう、房を調節。摘粒では、房を四十~四十五粒目安になるよう粒を間引きしていきます。
この摘粒、本当に細かい作業でした。ブドウの摘粒専用の、先が細いハサミを用いて、一粒一粒、間引きをしていきます。下を向いている粒、肩以外の上向きの粒、小粒、傷のある粒を優先して間引く。房が穴あきにならないように、混みすぎないように……。
初めての摘粒だったため、実際に実が大きくならなければ、どういう結果になるかは分かりません。どうか、ほどよい綺麗な房になってくれますように。
二巡目のジベレリン処理は、実の肥大を促すためです。一巡目は湿度のある環境が適切でしたが、二巡目は、なるべく乾いた環境で行う必要がありました。液が速く乾かないと、ジベレリン焼け、といって果皮に跡が残ってしまうためです。
梅雨に突入する直前、最後の晴れ間に二巡目を終えることができて、ほっとしました。
これからの管理は、しばらく摘芯などの副梢管理になります。枝葉の成長に使う養分を、なるべく実の成長に使えるようにするためです。
二巡目のジベレリン処理を終えて、少し一段落はしたものの、まだ収穫までやるべき作業はたくさんあって、油断せずにじっくり気持ちを向け続けたいです。
■イチジクの手入れ
イチジクは、水やりやカミキリムシの防除、という基本的な手入れの他は、芽かきや間引き剪定を行っています。日当たり、風通し、葉擦れの改善や、ブドウの摘心同様、実の成長に養分を使えるようにする目的があります。
イチジクは枝葉の成長が特に著しいです。青々とした新梢が、一メートル以上にどんどん伸びていき、生命力の強さを実感します。
葉が大きいため、葉の面積を含めて枝を円柱状に見て、枝と枝が重ならないように間引きました。密に茂っていたところを間引くと、かなりすっきりとしました。成長が旺盛な分、かなり大胆に間引くことになりますが、それでも大きな支障はなく、病気になる心配もまずない、というくらい、イチジクは強い果樹です。
バナーネに桝井ドーフィン、夏果をつける品種は、すでに夏果が大きく肥大しています。まだ固い状態ですが、七月には柔らかく熟していくため、鳥や獣、虫から守るための対策を早めに行いたいと思っています。
■講習会
手入れを実際に行いながら、あんなちゃんと一緒に、ぶどう部会の講習会にも行かせてもらっています。
場所は、石生田んぼの端にあるブドウ畑。初めてそのブドウ畑に入って、近くでブドウの木を見ると、幹が丸太のように太くて立派なことに、驚きました。規則正しく誘引され、枝を長く伸ばし、トンネルがけされたブドウが、広い畑にずらりと並んでいる光景が、圧巻でした。
手入れの行き届いたブドウ棚に、ブドウの房が数多く見られました。
講習会では、そんなブドウ棚の下で、十数名の方が集まり、円になって先生のお話をお聞きします。
ブドウ栽培の詳しい資料に沿って、その時々のブドウの手入れについて、先生が教えてくださり、気になったことはその場で質問もできる場でした。
初心者向けの講習会とはいえ、来られている方はブドウを本格的に栽培している方がほとんどで、私は本当に何も知らないところから飛び込んだため、気おくれする思いもありました。けれど、先生もブドウ農家の方々も、とても暖かい空気感があり、初歩的な質問にも丁寧に教えてくださいました。
先生が果樹全般に詳しいということで、講習会後にイチジクについての質問をさせてもらったところ、先生がなのはなファミリーがすぐそこということを知ってくださっていて、「じゃあ、畑に見に行きましょうか」と言っていただきました。
先生に金木犀畑を見ていただき、主に樹形に関して今後の課題を、親身になって教えていただきました。
ただ趣味で育てるのではなく、ちゃんと果樹農家として生計を立てる視点で、先生からなのはなのイチジク畑を見ていただき、新たな気づきが多くありました。
こんな風に、利他心で教えてくださる方に出会えたことが、本当にありがたいと思いました。これからも、ブドウの講習会に通わせてもらい、先生やブドウ農家の方から学びを得ていきたいです。
■いい収穫に繋がるように
今のところ、規模は大きくはないブドウとイチジク。これは個人的な予感ではあるけれど、きっと、これから、なのはなにとって、より大切な果物になっていくと思っています。
今できることは、今ある五本のブドウ、四十五本のイチジク、それらをいいふうに育てて、いい実を収穫していくノウハウを、確立していくことです。
なのはなファミリーの果物として、誇りを持って、まだ見ぬ誰かへ味わってもらえるような、甘くて美味しく、美しい実を、安定して作れるようになる。それが今の目標です。
まずは今年、今できる限りでのいい収穫に繋がるように、緊張もあるけれど、ブドウとイチジクの手入れに向かって行きたいです。