摂食障害から回復したという状態は、どういうことをいいますすか。摂食障害を経験していない健全な普通の人になるというのとは違う、と感じています。
またどこまでが本当の自分で、どれが症状で、どれが症状ではないのか、とてもわかりにくい気がしています。
【お父さんの答え】
一般的な病気だったら、身体の検査をして、病気ですねとわかったり、治りましたとわかったり、病気と治癒後が、はっきりとわかるものです。
それに対して、摂食障害の人は症状を出さない丈夫な前向きな心の状態をキープし続けることを回復した状態と言います。
しかし、利己的な気持ちになってしまったり、利他的なスタンスで生活していくことが怪しくなってくると、とたんに症状めいたこだわりが出てくる可能性があります。
どこまでが本当の自分かわからない、そういう気持ちは症状を激しく出していた頃に、理性でコントロールできなかった苦い経験がそう思わせてしまうのだと思います。
それでも自分が希望を持って生きている時、それも利他的に生きていると言う気持ちをキープすることが大切です。
どんな健康な人も、病気の人も、「本当の自分」というのは考えても意味のないことだと僕は思います。人の心は、常に変化しているもので、それを固定的なものとして考えようとすることには無理があるからです。
充実した体力、気力で、やる気満々の時もあれば、辛いことがあって弱気になってしまうときもあるのが人間で、どちらが本当の自分かといえば、どちらも本当の自分に違いないのです。だから、そういうことは考える意味がなくて、ただ大事なことは「こういう自分になりたい」という前向きな希望を、いつも持ち続けることだけだと思います。
過去を分析したり、今を分析して自分を評論しても、何の意味もなくて、ただこれから、今、この瞬間から、こんなふうに生きていく自分でありたい、ということを考えるだけでいいのです。
そして、症状についてですが、摂食障害の人が回復の最初のほうの段階で迷いがちなのが食欲です。「お腹が空いた」という感覚と「過食したい」という感覚が、とても似ているので、どっちなのかわかりにくいのです。お腹が空いたというのは正常だけど、過食したいというのは症状です。これが症状かそうでないかがわかるのは食べ始めてからのことです。目の前の食事を食べ終わることができたら正常だし、食べ終わってもむしろ食欲に火がついてもっと、もっとと止まらなくなってしまったら症状です。それが食べ始まる前にはわかりにくいので困ってしまう、ということはあるでしょう。
ただ、この空腹感はどっちなのかな、と迷う場合には、だいたい過食衝動ではないです。過食が止まらない怖さがあるだけです。過食衝動のときは、もっと脅迫的な強さで食べたいという気持ちが涌き上がってきます。
そしてわかりにくいのが過活動です。どうしてもカロリーを消費する方向に身体を使ってしまいます。それが日常的になってしまうので、見えにくいです。
こんなふうに症状めいた行動をなかなか消せない人は、ほとんどが両親のどちらかから継続的に強い抑圧を受けて育った人に多いように感じます。強い抑圧とは、母親の躾が厳しくて、もし本人を強く叱ったりしなかったとしても、周辺の人に対して厳しく断罪する言葉を出して「あんなふうになってはダメ」ということを言ったり、兄弟姉妹を強く叱責したりということをするというのが代表的なものです。
他に強い抑圧としては、学歴や職業に対して上昇志向が強い母親が、学習塾や習い事に執着して連れ回すというものもあります。
あるいは親の夫婦仲が悪く、いつ離婚するかわからないという喧嘩をしていたり、喧嘩はしていなくても冷えきった関係だったり、暴力があるなどのほか、母親が一方的に父親を嫌悪したり蔑む言葉を出し続けるというのも、子供にとっては大きな抑圧になります。子供のころにそういう抑圧を受けた人は、成長しても自分の人生に希望を持ちにくくなるので、症状めいた気持ちが永く尾を引きがちです。
それでも、親との関係にある程度距離を置くことができて、さらに自分はこんなスタンスで生きていくという希望を具体的に持てたならば、そしてその希望をキープできたならば、症状を出すことなく、生活を律して自立していくことができるようになります。
(2023年6月26日 掲載)
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