お父さんがスティーブ・ジョブスの話しをしたときに、「ステイ・ハングリー、ステイ・フーリッシュ」という言葉を教えてくれました。
ハングリーでいろ、ということは、まだまだ求める気持ちを強く持つということだと思います。その一方で、以前、お父さんは「幸せのその日暮らし」をするようにということで、日々の生活を大切に、1日、1日を楽しむようにとも話しています。
その2つを両立させるのが難しいなと思うんですが、そこはどう考えたらいいのですか。
【お父さんの答え】
なるほどね。ハングリー精神を持てということは、現状に満足しないように、ということですね。そういう気持ちと、その日その日を幸せだなと思う気持ち、つまり「幸せのその日暮らし」をするようにというのは、確かに矛盾しているように見えますね。
要は志を立てるということと、同時に1日1日を大切にしていく、ということなんですよ。
要するに、ここにパイナップルが5つあるとします。いやそれじゃ足りない、あと5つパイナップルが欲しいというのがハングリー精神じゃないんです。そういう現世利益的な追求がハングリー精神じゃなくて、もっと自分は高いところを目指して生きていくんだというハングリー精神です。
時間軸でいうと、かなり遠いところを見据えたハングリーなんです。世間一般の幸せを目指せ、というのとはちょっと違う。
自分にとっては、これが自分の目指すところなんだという遠くの目標をぶらさないで持ち続け、1ミリでもいいからそこに近づいていくんだというハングリー精神の持ち方なんです。
で、実際に今日1日、頑張って、そして今日の成果は今日の成果として楽しみましょう。まだまだ、発展途上でできていない自分だけど、できていない自分を楽しむ、ということ。
そういう今を楽しむ自分、今日を十分に幸せと思う心、というのが大事なんですよ。
もうすぐ田植えで、ちょうど田んぼに例えると、わかりやすいです。
いいですか。水持ちが悪いのに、水はけが悪い田んぼというのが一番、始末が悪い。これ駄目な田んぼなんですよ。
いい田んぼというのは、水持ちがいいのに、水はけがいいという田んぼ。
これ田んぼの話しなんですが、矛盾すると思いませんか? 矛盾してないんですよ。
さあ代掻きだ、水を溜めようと言って入水する。いいくらいに入ったなと思って水を止める。翌朝、代掻きに行ったら、みずがすっかり引いてしまっていたということがある。これを水持ちが悪い田んぼといいます。どこかから漏れてしまうんですね。反対に、水を溜めたら、そのまま何日でも同じ水量を保つのが水持ちがいい田んぼです。水がまったく漏れない。
そうやって水持ちのいい田んぼと悪い田んぼがあるのですが、水持ちが悪い田んぼほど、水はけが悪いということがあります。
中干しのときと、稲刈り前は、田んぼを乾かしたいわけですが、水を抜こうとすると、さっぱり水が引かない田んぼがあります。これは水はけが悪い田んぼです。溜めようと思えば漏れるのに、水を抜こうとすると、そっちこっちに水たまりができていてグジグジ、グジグジとさっぱり乾かない。するとコンバインが進まないので上手く稲刈りができないわけです。
ところが、水持ちのいい田んぼほど、排水口を開くとサーッと水が流れていって、すぐに田んぼが乾きます。
だから、水持ちがいいのに、水はけがいい田んぼになりなさいというのと、ハングリー精神を持ってるのに幸せのその日暮らしができるようになりなさいというのは、同じなんですよ。すごくわかりやすいよね。そういうことなんですよ。
ものすごく高い希望と志を持っているのに、そこには遥かに及ばない今を楽しむこともできる人になるっていうことですね。
だから夢も全然もっていないのに、今に不満タラタラの人、というのはいけませんね。
人の後をついて歩いてばかりで、自分で何かを生み出そうとしてはいないのに、現状に何となく不満を感じていたりする、それが駄目なことですね。だから今を上手に楽しむことのできる人は、意外と高くて上品な希望をしっかり持ってる人だったりしますよね。
それはわかるかな。まさにそういうことなんですよ。どのぐらい高い希望を持っているか、ハングリー精神を持っているか、それは大事ですね。
ただ、そのハングリー精神は人に見せなくてもいいんです。人に見せるのは、今を楽しむ姿だけでいいかもしれませんね。
あの人すごいな。もういつも大満足みたいな顔しているかと思ったら、カナダに行っちゃったよ、みたいな感じですかね。それでカナダで楽しんでるのかなと思っていたら、宇宙に行っちゃったよ、みたいなハングリー精神と今を楽しむ心の両立ですね。
そういう野心を持っていたんだ、というのが後から周囲の人にわかるような、踵を引きずらない飛び方をするのがいいのかなと思います。反対に、こんな所は嫌だといつも不満ばっかり言っているけど、もう30年同じところにいるよね、というのはどうかな、と。それはね水持ちが悪いのに水はけの悪い田んぼと一緒ですよね。
だいたいわかってきた? そんな感じなんですよ。今を楽しむことができる人が、希望も正しく持つことができる人なんですよ。今を楽しめない人は、正しい希望も持てていないんですよ。
今の自分に満足するというのも大事なこと。今の自分の満足できないところ、才能のない部分にも、今は今で認めて満足する。だけど、同時に高い希望も持っているということ。
今の自分に対してすごい不満。自己否定感が強い、それなのに理想の自分像を持ってないというのがいけませんね。
自分には超満足だって言っているのかと思ったら、実はもっと高いところを心の中でずっと希望していて次々に実現していく、みたいな人が美しいですよね。
(2023年5月26日 掲載)
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