私は音楽がとても好きですが、自分が演奏するとき、認められたいとか、目立ちたいなどと言った我欲が混ざっているように感じて、それがすごく嫌です。
楽器を、認められるための手段にしているのではないかという疑問がいつもあります。いっそ、今担当している楽器から離れたらその気持ちから解放されると思いました。今担当している楽器をしばらくお休みして良いですか?
【答え】
お休みしては、ダメです。
「楽器を演奏するとき、認められたいとか目立ちたいなどと言った我欲が混ざっているように感じて、それがすごく嫌です」
そうですかね。あのね、楽器を演奏する人が、認められたくない、目立ちたくないと思いながら楽器演奏してたら、その人の演奏は聞けたものじゃないです。
楽器を演奏するときは、必ず、ここでこの音を目立たせようとか、この音は聞かせたいとか、ここは静かに、と一音、一音、心を込めながら演奏します。
管楽器でも、ギターでも、ドラムでも、そうです。もしも、ドラムの人が「目立ちたくない、目立ちたくない……」と思いながら、トントコトコトコ……「みんな聞かないで!」とやってたら、どうしようもないです。
ガシャーン、ガシャーン、ドンガラガッターン! ドッカーン!ってシンバルやら太鼓やら叩いているからいいリズムになるのであって、目立ちたくない、と言ってるドラムなんて聞けたものじゃないですよ。
歌うことだって、「ああ、目立ちたくない……」とコソコソ歌っても、何やってんだろうってなる。なんだこのバンドはってなっちゃいますよ。目立ちたくない人のバンドなんて、ね。
目立ちたい、この音を聞かせたい、このメロディを聞かせたいと思って、みんな聞いて、聞いて、という気持ちがなかったらね、演奏にならないですよ。
だからなんて言うんだろうな、目立つと言っても「私」が目立つじゃないんですよね。音が目立つんであって、まあその音は私が出してるんですけど、私はちょっと仮に音を出してますけど、それは、誰か何かが自分に乗り移って出してるくらいのもので、自分の音だと思わなきゃいいんですよ。だけど思い切り音を出す、そういうことなのです。
ぜひ、みんながそういうふうに思って、この音が目立ってほしい、この音を聞いてほしい、というふうに演奏してくれなかったら困ります。メリハリのない人はただ音を出してるだけになっちゃいます。それは雑音とあまり変わりがない。楽器を奏でるから音楽になるとは限らない。意志のない音、意図しない音というのは雑音と同じです。本当にメロディを聞かせたいと思ってください。
僕の先輩にジャズギタリストがいたんですけど、その人の家でギターを弾くのを見せてもらったことがあるんですね。エレキギターなんですけど。その人は、弾いてるあいだじゅう、んんん……ってメロディを鼻で歌いながらやってて、その鼻歌がぴったり音と合っている。頭に楽譜がきっちり入ってて、鼻歌でも何でも思った音が出せるから、エレキギターでこんな綺麗な音が出るんだなと思いました。
その人は調弦するときに、声で調弦するんです。フーンという声が音叉の音と同じなんです。もう音が入ってるんです、頭にね。これ、かっこいいですよ。本当にね。
そういう、なんていうんだろうね、聞かせたい音、出したい音がしっかり頭に入ってて、それをスムーズにヒュウっと出したいように出せたらどんなに気持ちがいいでしょう。それは我欲とかそんなこととはぜんぜん違う世界、それこそ音楽、音を一緒に楽しみましょうということだと思うんですよ。
よくなのはなファミリーではステージに出演する機会があります。大きな場では、大きなホールでウィンターコンサートをやりますけど、コンサートが成功するかどうかというのは、ステージの人が良い演奏をするかどうかだけじゃだめなんですよね。観客がどう聞くかなんです。観客が、いや良いなあと思って聞く。演奏する人と、聞いてる人、このステージと客席の間に音楽があると思ったらいいでしょうね。
だから、ラッパならラッパを吹いてるところに音楽があるんじゃない。観客と楽器演奏者の間にある。だから我欲と関係ないんですよ。いいお客さんの入ったコンサートはものすごい楽しいですよ。こっちも楽しい、観客も楽しい。だいたいなのはなファミリーのコンサートは、なのはなファミリーにシンパシーを感じている人達が入ってくれて、拍手してくれたり口笛を鳴らしてくれたり声をかけてくれたりして盛り上がります。だから僕らもやってて楽しいというところがあるんです。
いくら我欲で演奏をしても、観客が応えてくれなければ、良い演奏にならない。観客と演奏者が共感して、お互いを思いやらないといい音楽が成立しないんです。
だから、我欲と音楽は無縁ですね。本当に出したい音を出しましょうよ、と言うことです。それもきれいに出して、思い切り伸びやかに出して、それは共感するためのものですから自分だけのものと思わないでください、って僕は言いたいですよね。
だからそのことと自分の、なんていうかこの目立ちたいという欲望を重ね合わせちゃうというのはいかがなものかな、というふうに思いますね。大きな音を出すから我欲だ、というふうに思わなくていいでしょう。
(次回に続きます。)
(2019年5月3日掲載)
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