第272回「楽しませる人、発信する人になりたい」


【質問】

 私は、すごく、発信する人とか、話をできる人になりたい。楽しませられる人になりたいという気持ち、願いはあるんですけど、ほんとうの自分はすごくそことかけ離れていて、自分はもう、小学校5年生――学校へいけなくなったくらいから、ほとんど母親としかずっと何年も話していなくて。母親とバトルするか、自分の中で話すか、という感じで。会話をどうやって楽しんだらいいのかとかよくわからなかったりしました。

 あと、なのはなに来て、何が楽しいことなのかというのが、お父さんお母さんの話を聞いたりして、わかってきたんです。でも、今のところ、野菜を育てること以外は、あまり熱意を持って話せることがなかったり、本当は、1日中、何も喋らないで今でも過ごせてしまうなと思います。
 朝から晩まで、畑とか当番でリーダーしたりしてると、ものすごく無理してると感じるときもあります。自分はそういうリーダーシップを取ったり、発信できる人では、まだ、ないなと思うんです。それで月に1回位、休みがほしいなとか思っちゃったりします。ちょっと、リーダー役になりきれない感じがしていて。
 それができるようになるのは、訓練なんですか。もっと、自分の心で、楽しいとか、好きだって思えるようになりたいなって感じます。

【お父さんの答え】
お父さん:

 この前の別なハウスミーティングでも、切り口は少し違う質問だけど、
「私は、好きな人とおしゃべりを楽しみたいですけど――女性同士の、人間として好きだなという人――そのときに、緊張したりして、自分がいいなと思ってる人とは、会話が弾まないというか、話をどうしていいかわからなくなるんですが、どうやって上手に話をしたらいいんでしょうか」
というんだね。
 僕は、話しのための話しとか、おしゃべりのためのおしゃべりはあまり好きだと思わないし、そういうおしゃべりはしたいと思わないし、そんな暇つぶしは若いうちはする必要がないんじゃないかな、ということを言ったのね。
 僕は今までも話しのための話しはしてないし、今もしていない。時間がもったいないので、これからも、おしゃべりのためのおしゃべりは、するつもりがない。
 ただ、必要なことを伝えるとか、何か目的があって相手を楽しませるとか、相手にサービスするという意味で、面白がらせるという意味で、しゃべることはありますよということなんだよね。

 でね、人と人との付き合い、というのは、すべてお互いに価値を感じるお付き合いだけが残る、というのが基本だと僕は思ってるのね。
 変な話、なのはなに何かで訪ねてきて、ちょっと遊びに来た人とか、ちょっと話があってきた人が帰るときに、桃ジャムや野菜をお土産に持って帰ってもらったりするよね。少しでも、なのはなファミリーに行ってよかったなと、思ってもらいたいからです。

――野菜で、ですか。

お父さん:

 そうそう。ゼロじゃない。何かちょっと得した、というね。少しでも感謝の気持ちとか、ここまで来てくれた人に対しての敬意を形にしたいわけ。
 それは、ここに入所している人が、トントンとノックして来て、話したときに、あ、お父さんと話してよかったと思って、部屋を出るときにはお父さんと話して得したなと思って帰ってもらわないと、僕はその話しは失敗だったなと思うわけよ。
 だから、ありとあらゆる人と付き合うときに、全部、どんな相手に対しても、お父さんと会って得したと思ってもらいたい、というのが基本だと思うのね。これはお父さんだけでなくて、人としての基本だと思う。
 時間つぶしは、お互いにね、ああ時間を損したと思っちゃうでしょ。
 だから変な話だけど、「得した」も、例えば15分喋って帰って行くとき、ああ15分以上の価値があったなと思ったらいいんだけど、2時間一緒にいて帰ったときは、2時間分以上の価値がないとだめだと思うわけ。だからもっと大変だね。2時間だったら。
 少なくとも、僕と会った人、とか、僕とお母さんと一緒に何かした人は、ああ一緒にあえてよかった、喋ってよかった、なにか得した、そういうことを思ってもらうというのは、これはどんな付き合いでも、必要なことだと思うわけ。

 それで、この質問でも、そういう考え方が基本にあるんですね。
 例えばこの5人でグループで作業したとして、「ああ、この作業をやってよかった、価値ある作業をした、◎◎ちゃんがリーダーで楽しかった」と言ってもらいたいという思いがどこかしらあるはずです。
 だから、そういう願いが強いほど、うまく行かなかった時には、残念だという思いが強くなるわけです。それでみんなにやりがいを感じてもらう作業を提供するために、リーダーとして緊張するのだと思います。

 1か月に1日くらい休みが欲しくなるとか、ちょっと辛くなる時があるというのも、そういう緊張が続くからですね。
 楽しんで作業をしてもらうときに、楽しんでもらうための材料を豊富にもっていると、比較的に余裕をもって取り組むことができます。
 野菜の知識とか、作業の合間のちょっとしたゲームとか、参加者に価値を感じてもらうことの材料がいっぱい自分のストックヤードにあって、飽きてきたらこんなのはどうだ、とやって、みんなが十分、リラックスしながら作業を効率的に楽しむことができて、◎◎ちゃんリーダーの作業はとても楽しかったと言ってもらえたら成功――。そういうふうにしたいという美意識が高いわけです。美意識が高い割に、このくらい楽しんでほしいというときに、このくらいしか材料がないというときは、苦しくなってしまいます。
 だから2つ、方法があって、このくらい楽しんでもらおうという高い美意識をちょっとだけ下ろすのか、あるいは、材料をちょっと増やすとちょうど美意識と手持ち材料がマッチするわけです。

 まあ、なかなか、高い美意識を下に下ろすというのは難しいむしろ、材料を豊富にしておくというのが大事なことかもしれないね。
 僕もみんなと話す機会が多いです。毎夜の集合も、みんなに集まってよかったと思ってもらいたいわけだよ。ああ何のために集まってるかわかりゃしない、つまらないと思われたら、みんなは集まるのが嫌になってしまう。僕と会うのが嫌になったり、価値を見いだせなくなったら、つまらなくなる。それをいつも思っているから、僕は仕入れをしています。いつも、意識的にね。
 言ってみたら、集合でみんなにしゃべるのは、手持ち材料の放出だよ。
 放出する一方で、仕入れがなくなったら、在庫ゼロ、すっからかんになって、みんなを楽しませられない。
 そういう、材料というのは何かと言ったら、ニュースだと思うんだよね。価値あるニュースをどのくらいみんなに提供できるか、ということです。
 そのニュースも、価値が高いものと低いものがある。みんなが知らない話で、新しい話を用意するというのは、これは人間としてのね、基本だと思う。
 家族を楽しませる、子どもたちを楽しませるというのも同じだよ。家庭で「子供」というギャラリーは2人か3人しかいないんだけど、その2人か3人のギャラリーを楽しませる。僕は父親としてそういう心がけで、ずっといたつもり。だから、父親とか母親というのは、子供に向けてのエンターテイナーでないといけないんだよ、いつもね。子供を楽しませる人じゃないといけないんだよね。今もなのはなファミリーのみんなを楽しませるエンターティナーであるという側面はあると思っている。

 その意識を持っていたならば、リーダーをするのは難しいと感じるはずです。リーダーが簡単だという人、リーダーの難しさを感じない人は、材料がなくても平気でつまらない時間潰しの話をしたり、つまらない作業をさせてしまったり、相手が楽しんでいなくても平気でいる。意識が高い人ほど楽しませられなかったら苦しくなる。そういうことなんじゃないかな。

 でもね、そうやって、人を楽しませるそのために材料を仕入れるというのも、それだけだったらつまらない話なんです。
 どっちかというと僕は、自分がもっと世の中のことを知りたいとか、自分がもっと人格を高めたいとか思って、そのためにいろんな話しや知識やニュースを仕入れている。自分を高めようとして吸収しているものの端っこをみんなに出しますよという感じかな。現実的にはそうなるよね。
 ただのエンターテイナーじゃつまらない。自分が高くなっていかなきゃね。面白がらせるだけだったら、何も残らない。みんなを面白く成長させ、面白く自分も成長するというのがないと、ただの漫才師になってしまう。

 僕も完成形じゃなくて、未完成です。みんなも未完成で、僕も未完成で、お互いに未完成なんだけど、成長する競争をしているのです。
 で、みんなと出会うでしょ。出会ったときが、スタートだとしたら、1年経ってみんなこのくらい成長するとしたら僕はもっと成長しないといけない、2年経ってみんなが成長したら、僕はもっともっと成長していなきゃいけない。
 だから、時々、卒業生が帰ってきたとき、なのはなファミリーは変わったと思う? と卒業生に聞くことがあります。だいたいの人は、「変わりましたね。お父さんが朗らかになりました。前はもっと怒ってましたね」みたいなこと言うよね。
 あと、「みんなリラックスしてますね」とか。「前は集合のとき、シーンとしてて、誰もくすっとも言わないし、集合の場で質問する人いなかったですよ。それがみんなどんどん質問する。なのはなは進化していると思いますね」といわれたりするけど、そんなときはしめしめという感じだよ。
 それは、この質問の人も自然に思ってるんじゃないかな。進化していたいと思ってるんじゃないかな。その進化の目標というか心の中の心づもりと現実が追いついてこないと、ちょっと焦ったり、ちょっと嫌になっちゃうというところが、あるかもしれませんね。

――自分には義務感の割合が多いかなと思っちゃう時があるんですけど、それはもう、どんどん、とりあえず――例えば新しいニュースを仕入れるということも、ちょっと畑に行っても、義務感の部分がまだあるなと思っちゃう時があるんですけど――やっていくうちに、本当に意欲的な人になれると思ったらいいですか。

お父さん:

 そうだね。実績が心のなかにできてきたり、畑で野菜の栽培が成功するという実績ができてきたりするとね、それが自信になって、もっとやろうかなという意欲につながるよね。
 それと、義務感でやっていたとしても、そのやっていることが自分を作るということがあるのよ。
 仕事で就職したならば、ちょっと今日は気分悪い、仕事に行くのやめた、今日は休みなんて言えないじゃない。義務的でも行かなきゃいけないでしょ。時間通りに。
 時間通りに仕方なしなしでも行って仕事をしたり、お客さんや先輩、上司から注意されて、大変な思いをしてもそれを乗り越えて実績ができたりすると、どんどん仕事を通して人間性が成長する。仕事をしながら成長するということは、誰にでもあることだね。

 むしろ、仕事をすることの最大のメリットは、自分が成長するということですね。自分の成長が楽しめる仕事になってきたら、なおいい。働いた結果として、給料がもらえるんだけど、それは結果であって給料が目的で働くのではないと思います。
 どちらかというと仕事は自分を鍛える場だったり、あるいは自分がその仕事を通じて世の中に奉仕する。みんなに貢献できるというものです。
 それが全部が全部、自分の楽しみ、喜びじゃなくて、時には義務感で仕方なくやるような場面があったとしても、それでも全部、やったことは自分に帰ってくる。全部楽しいことだけ、とは違うけど、必ず自分に返ってくるものだということは確かです。
 そして、それに慣れてきたり、自分に返ってくるものが大きいなと感じられるようになってくれば、自然に意欲的にもなってくると思いますよ。

(2021年5月2日掲載)









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第267回「相手に喜んでもらいたい気持ちと、自分が幸せを感じることの怖さ」
第268回「相手を幸せにするということについて」
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第275回「理解されたいという欲求が強かったこと」