第289回「ここぞというときに失敗してしまうこと」

私は子どもの頃から、スポーツ大会とかピアノの発表会で、ここぞというときに必ず失敗してしまいます。強いプレッシャーを感じると、絶対に失敗してはいけないときほど、失敗してしまうのです。
強いプレッシャーを感じると必ず失敗してしまう、というのはなぜですか。
【お父さんの答え】

誰でも、そういう公の場でプレッシャーを感じるとか、緊張感を感じるというのは同じでしょうね。
ただ人によって違うことが1つあります。ピアノの発表会でのことを言うと、日頃、家庭でピアノを練習している時の気持ちと、ピアノの発表会のときの気持ちで、ギャップが大きい人と、ほとんどギャップがない人との違いです。ギャップが大きい人は、緊張したときに失敗しやすくなります。もしもギャップがないという場合には、緊張してもほとんど失敗しません。
古い話しになりますが、オリンピックでスピードスケートの選手だった人がいて、もう金メダル間違いなしって言われていたのに、本番では銅メダルで終わってしまいました。
それは練習のときと本番ではあまりに環境が違ったからです。
練習のときはにシーンと静まり返ったスケートリンクで練習していました。それがオリンピックの本番になったら、満員の客席のものすごい歓声の中でスタート地点に立つことになったわけです。走る前からカーッと頭に血が昇って舞い上がってしまった。何をやってるかわからないまま、スピードスケートを滑って、平常心を失ったまま滑り終えると、いつものタイムは出せず、不完全燃焼のまま終わり銅メダルになってしまった。
その選手がその後、どうしたかというと、この失敗を反省して練習方法を変えて、もうピークアウトしてメダルに届かないと言われていた4年後のオリンピックで、銅メダルに輝いた。
その選手がした練習というのは、ヘッドホンでうわーっというオリンピックの時の大歓声を聞きながら、誰もいない観客席に満員のお客様をイメージして、それでオリンピックと同じ環境を自分の中で作って練習していた。
つまり本番と練習のレベルを一緒にしちゃったということです。そしたら、次の大会で銅メダルを取り、この銅メダルは自分にとって金メダルと同じ価値がありますって本人が言った。
それはオリンピック選手という高いレベルの話なんだけど、実は家でピアノ練習しているときの環境つくりも同様で、イライラしてたり、あるいは雑念があるまま練習していると、本番と全く違う環境なので、本番で気持ちが作れなくなることが多い。
普段着で、気持ちも緊張感がないまま練習している人が、ピアノ発表会で取ってつけたように綺麗な衣裳を着て、お上品なお嬢様のふりをして、素晴らしい演奏をしようと思っても、それはできるほうが不自然です。
いま、大谷選手が素晴らしいと言われていますが、大谷選手がみんなに好かれるスター選手になろうと思ったときに、一番必要なのはみんなに好かれる心、他の人を思いやる心だと思って、ずっと実践してきたからその通りになったのだと思います。
みんなに好かれる心というのは、廊下を歩いていても、グランドで練習していても、ゴミが落ちていたら、すぐに拾うというような地味なことを懸命に続けることで養われました。そして、それを大谷選手は今も続けているわけです。
野球で4球になりファーストに歩くときにでも、目についたゴミを拾ってポケットに入れる。これはしたほうがいいなと思うことは、全部していく。優しい気持ちでいつでも心を磨くことをやめない。どんなに賞賛されても、優しい言葉かけを欠かさず、決してうぬぼれた発言はしない。普段から周りの人を立てるような言動、行動に徹している。
注目される選手になっても、自分はそうやってみんなを立てながら生きていくんだっていう気持ちがあるから、いくら称賛を浴びても、うぬぼれるということがない。
彼にはおそらく自分はずっと正しい心を作ってきたという自負があるから舞い上がらないし、インタビューを受けてもインタビューをした人が彼を好きになるという現象が起きている。絶対に人のことを悪く言うこともないし、WBCでアメリカに勝ってもアメリカを持ち上げる。
だからみんな大谷ファンになる。敵地で大谷がバッターボックスに立つと、ブーイングが起こるところでも、拍手が起きてしまう。そういう多くの人に注目されて緊張している状態でも、打つべきときには打てる。だから、やっぱり、作るべきは心だろうと思います。
(2023年3月30日 掲載)
