第87回「統合力を高めるには」
私は統合力が低くてそれを自覚しているのですが、統合力を高くするには何を訓練し、日々何を意識して生活していけばいいでしょうか。
そうですね。摂食障害の人には、統合力が弱い人が多いですよね。
ここでいう統合力というのは、頭の働きのことで、頭で考えるという働きは、記憶する、認識する、考えるという3つの機能に大きく分けられます。
この3つの機能をうまく連携させれ、それを統合して判断する力が統合力です。
それがうまくいかないと、記憶するのはできても、適切なときにその記憶を引き出せないとか、認識はできるけれども、過去の記憶と照合してその認識をもとに考えるといったことができない、などの不都合が出てきます。
統合力の高い人は、いま見たことを認識力でしっかりと分析し、過去の記憶を引っ張り出してその記憶と現在の認識の擦り合わせを行ない、それを元に自分の行動を判断するとか、自分の考えをまとめる、という一連の脳の働きがスムーズに運びます。
そういうことができにくいのが統合力の低い人です。
一概に、頭が悪いということはありません。記憶力はしっかりありますから、学校のテストなどでは抜群の成績を収めることも多くあります。
ただ、日常生活の場や仕事の場で、応用が求められたり、状況が刻々と変化する環境で変化への対応を次々に求められるといった場合には、とても困ったことになってしまいます。
そうでなくても、行動がワンパターンになってしまったり、ジョークが通じなかったり、視野が狭くなってしまうなど、困ることがあるので、統合力を高められるのであれば、できるだけ高めたほうが、何かと都合がいいです。
ところで、実は統合力は何もしなくても、年々上がっていくものなのです。
およそ32歳くらいになるとかなり社会性がでてきて、統合力がないために何の仕事もできないということはなくなります。
意外に統合力が弱い人は多いです。東大生の7割は統合力が弱いとも言われています
「僕ね、雑談が苦手なんですよ」これね、「私は統合力が弱いです」って告白してるようなものなんです。
実際に「私は雑談1つするのが苦手でしてね」という人には何人も会ってきました。年配の人もいれば若い人もいます。そう聞くと、あ、この人は統合力が弱いのかな、と思います。
みんなに質問します。雑談するのが苦手だ、と自分のお父さんが言っていた人は手を上げてください。あるいは聞いてはいないけど、自分の父親は人と雑談するのが苦手そうだなという人……。いっぱいいますね。
そうなんです、雑談が苦手、これ統合力が弱い人なんです。でもお父さんくらいになると、そういう人でも、社会人としては立派に成立しています。おそらく、本人の中には年がいってからでも雑談は苦手だなという意識はあると思います。
……あの、僕は、物書きをやっていたときには、今思い返すと、統合力を高める訓練を毎日やってたようなものだと思うんですね。
どういうことかというと、取材の場が統合力を鍛える場なのです。
取材の日と原稿書く日は分けていましたから、取材のある日は1日3人くらいに会います。午前中1人、午後1時半に1人取材。3人目が4時から取材となる。
で、取材するときというのは、同時に、3つのことをするんです。
1つ。相手の話を聞く。聞いて理解する。それで、その聞いたことをメモに取る。
ところが、聞くスピードとメモするスピードではどっちが速いです? 相手が喋るほうが速いんですよ。だからメモが遅くなる。一時的に、暗記して、記憶をしていなきゃならないんです。その記憶を追いながら、必死でメモを続ける。ところがそうしながらも、リアルタイムで相手の話しをきいて、相づちを打っているわけです。
更にその話をふまえた上で、次の質問を考えています。相手の話が終わった途端に次の質問をしなければならない。場合によっては、質問しながらも、前の話しの書ききれてないメモを書いてるわけです。これは、統合力をつけるのにすごく効果があったのではないかなと思いますね。だいたい、1人に取材しただけで、確実に1キロは痩せます。
1時間インタビューして、それを原稿に起こすとします。相手が何を言ったのか。自分の質問と相手が言ったことを原稿に起こす。400字詰め原稿用紙換算で、1時間の取材で40枚から50枚は取材原稿を書きます。総合月刊誌の取材だったら、1つのテーマで最低でも10人くらいは取材しますから、400字詰めの原稿用紙にして500枚くらいは取材原稿を書きます。これを毎月、毎月、休みなくやるんですね。
その他にも、週刊誌の仕事で毎週、取材して書いてる記事があるわけです。
で、こういう仕事を、大小はありますが常時8本くらい抱えてるんですよね。
だから、自分が書いた原稿を並べていったら、地球を一周してるんじゃないでしょうか。それは大げさかもしれない。ともかく、連日、もう山のように原稿を書きました。
いまでもそうですが、僕のワープロを打つ速さと、みんなの中で1番速く打つ人とでは、きっと僕は負けてないですよ。一番速い人よりも速くパソコンを打てると思います。
あの、そういうことをしながら、すごく統合力を鍛えたんじゃないかなと思うんですよね。
まあ、それはみんなにやってくださいということができないので、みんながやれる方法ではどんなことがあるか、考えてみましょう。
まずは、走ること。これは統合力を鍛えるのに、いいと思います。一歩一歩を出すときに道路のコンディションを見て、風が吹いたりしたら倒れないように身体をキープしつつ、車を避けながら走る。……走るということはね、色んなスポーツのベースにありますよね。
それから、そうそう、逆立ちです。逆立ちは統合力を高めるのにすごく役立ちます。
ジャンプもそうです。
特に統合力の弱い人は、両足ジャンプが苦手です。両足ジャンプ。つまり、このくらいの(手で示しながら)低いバーでも、両足を揃えて飛ぶのが苦手です。
そういう、両足ジャンプをやるといい。縄跳びで、いいです。
体育館で縄跳びをやる、逆立ちをする。これはいいでしょうね。
逆立ちは朝と晩に必ずする。これは壁倒立でいいんです。壁倒立で、朝と晩、まあ、朝5分、夕方5分ずつやると、それだけでもかなり統合力が高まります。
それからソフトバレーですね。
ソフトバレーが上手になる。これは、先読みするんですよね。それで、どうボールに反応するか、考える。しかも相手のコートの状況を把握しておいて、自分の記憶をもとに、相手のどこにどんなボールを落とすとポイントが取れそうかと考えるスポーツです。
つまり、自分のコートの上に上がったボールを見上げながら、いざ攻撃のボールを打とうとしているその瞬間に、あの人はおそらくさっきの場所よりも前に出て、いまこのあたりでジャンプしてブロックしようとしているはず、と予測して、打つと見せかけてその後ろにフェイントのボールを落とす、というようなことを常にやっているわけです。
そういうことを常時予測しながら、状況に対応して、相手の裏をかくボールを出している。
つまり頭の中が、自分のボールを打つということと、相手の動きと、仲間の動き、仲間にこうやってもらって自分はこうする、同時に複数のことを頭のなかでイメージして、それもスピーディーにやらないといけないので、ものすごく早く統合して、今得られる情報と認識を統合して答えを出し、それに対して自分が反応しなきゃならないということで、大変忙しい。
統合力のない人には大変なスポーツがソフトバレーなんですよね。それをやってうまくなる、それが統合力を高める良い訓練になるんじゃないでしょうか。
まあそういうふうに統合力を高めるための訓練というのはたくさんあるかなというふうに思います。他にもあるかもしれませんけど、今パッと思いついたのでいうとそんな感じがします。
摂食障害から回復するのにも、逆立ちは有効だ、と僕は思っています。
よく器械体操の選手は、基本トレーニングとして逆立ちをします。なんでかというと三半規管を鍛えることができるからです。平衡感覚を養うのに役立ちます。統合力の弱い人は三半規管が弱く、平衡感覚も鍛えられていません。三半規管を鍛えると統合力は高まります。
(2018年6月5日掲載)