第54回「投げやりな気持ち」


〈質問者〉

質問

私は、自分がよい人生を送るということに、なげやりな気持ちがいつも出てきてしまいます。
お父さんのお話をきかせてもらっている時も出てきてしまいます。
それは自分が怠けたいこと、まだ見ぬひとのために生きると心から思えていない、自分に真剣に向き合っていないから、不真面目だから、我が強いからだと思います。

余計なことを考えずにやるべきことに全力で向かっていったら直りますか。
どうして、よく生きようと思えないのですか。
私はどんなふうに、甘えてしまっていますか。
教えて頂けると嬉しいです。
私はちゃんと苦しんでこなかったと思います。

 

〈お父さん〉

答え

僕は高校1年でなげやりな気持ちになりました。一緒じゃないですか。

投げやりな気持ちが出てきてしまう、と言う割に「余計なことを考えずにやるべきことに全力で向かっていったら直りますか」って、真面目っぽいんだよね。
この頃、思うんですけど、だいたいこういうのは、同じような葛藤なんですよね。
真面目になりたいって言うのと投げやりな気持ちと両方あるのは分かるんですけど、ほんとに描くとね、これが脳だとします。
そうすると、ざっくり言うと人間の脳は、こういう二重構造になってます。

図1〈大脳新皮質と大脳辺縁系〉

これが大脳新皮質。表面、うわべっつら。
これが大脳辺縁系。旧皮質、古い皮質。こういうふうに。
で、昆虫なんかは、古皮質しかないです。昆虫は、新皮質がないですね。で、小動物もほんとに新皮質が少ない。新皮質が一番多いのが人間で、イルカとか猿とかは結構多い。といっても人間と比べると圧倒的に少ない。ほとんど本能で動いてるわけですね。これは本能みたいなもんです。人間の脳は、これとこれがもはや半々くらい。

みんな第六感とか、虫の知らせとか言うでしょう。それは全部、旧皮質、古皮質。
身体をコントロールする。心臓を定期的に打たせたりするのも全部ここだし、動物的な、寒くなったら身体が冷えないようにしたり、運動して汗をかいたら水を飲みたくさせるのもここだしね。新皮質で思ってるんじゃない。

ところが、良く生きたい、なんてことを思うのは大脳新皮質の方なんですね。
色々考えたりするの全部こっち。
夜は新皮質のほとんどが休んで、旧皮質、古皮質が活発に活動する。
昼、夜で主役が交代するんですけど、両方で補いながら生きてる。旧皮質に考える力がないかって言うと、そうじゃないんです。こっちにも考える力はあるんですね。

大事なのは、新皮質で考えることと、旧皮質で考えることが一致してることが大事なんです。摂食障害は、これの不一致の局地なんです。

下がね、古い大脳辺縁系の脳のグラフとします。
上が大脳新皮質のグラフだとします。
右がね、安心とかね、快。
左が不安、あるいはこっちが不快、とします。
するとね、ほとんど自分の今の感じが、快じゃなくて不快だと。

図2

ここまで。かなり旧皮質が不快の所にある。心配事
この時に、自分は安心だ、前向きに行こう、ってなってると、

図3

これだけ違いがあるでしょ。すると物凄いストレスが生まれるんですね。
この安心とか前向きとかね。なのはなに来て、前向きになろう、安心しよう、積極的に取り組もう、って大脳新皮質で思う。
ところが、自分は不安だとか、あるいは昔から引きずってる深い傷があって、大脳辺縁系がブレーキをかけて、前向きな気持ちになれない。
なれないときに、これだけギャップが生まれると、身体はついていけないから寝たい。苦しい。なんだか疲れる。整合性がとれない。

なのはなに来たばっかりの人にね、回復するためだから目一杯動いてなんでも楽しみなさいって言うと、こんなふうになるから言わない。
大脳辺縁系が、左のほうの局地にいるから。
あまり真面目にやらないで、ここに来て不安なことだらけなんだから、あまり頑張れないで、見学だけで働かなくて良いよって言ってて、ほんとは不安で不快なんだけど、一致してるので、自分の頭の中での葛藤は起きないんです。トラブル無く、そういう意味では、快適に過ごせるんです。
だから、これとこれが同時並行で少しずつこっちにいけばいい。

図4

大脳新皮質だけ先走っちゃ駄目なんです。
一見、不安なことは良くないこと。前向きになった方がいいんだけど、不愉快だ不安だと思ってる方が一致するからいいんです。ある意味で。
もちろん、旧皮質の線をちょっと引っ張って、持っていこうという意識が大事だけど、無理矢理、新皮質だけ先走ろうと思っても駄目なんです。
僕は、高校の時に決まりを守るのも、時間も守るのもやめた。
一番辛い苦しいところを舐めてやると思ったのは、ある意味正解なんです。
僕の背は低くて萎縮してて、やる気もなくしてて、頑張ってたんだけど、苦しくて生きられない。何の楽しみもないし、人から浮いている。一生懸命に勉強するのもやめた。

図5

真面目なのやめた、ってこっちにしちゃった。
遅刻するの分かってて、NHKの朝ドラマを見てから学校に行く。こっちにしちゃったんです。
オートバイに乗って人に嫌がられるようなことばかりやって、こっちとこっちと一致させちゃった。そしたら背が伸びたんです。

はっきり言って、ある意味環境も良かったかも。
高校の時、家に友達連れてきて自分の部屋で酒盛りした。
離れだったんですね。母屋から酒をとってきて――父親の酒ですけどね、大騒ぎしてた。4、5人で。
そしたら裏側の家から苦情がきた。
そしたらびっくりしたことに、親が文句を言ってきた人に「ふざけたこと言うな」って。1回ぐらい騒いだくらいで文句言ってんじゃないって、文句言って来た人を怒鳴りつけちゃった。
あれ? って。
そういう意味で親も、僕が荒れているということに理解があった。

僕は快適に、わりと不良っぽい方向に行けたというのが良かったと思う。
これが大事なのかなあと。
だけどここで不良やらないでくださいよ。
私はここで安心するんだって言ってるときに、旧皮質が中間くらいでも苦しいよね。だからフルスロットルにしないで、このぐらいかと思ったら

図6

このぐらいにしようよって話。
だから、自分のここはどうなのかな。
矢沢永吉がね、イベントの主催者のプロモーターにこう言われました。
「すいません、この町でいちばんいいホテルのスイートルームをとれなかったんで、ビジネスホテルのワンフロアを借り切りました」
矢沢永吉「俺はいいけど、矢沢は何て言うかな」

理性的に考えるとね、プロモーターに対して、理性的な1人の人間として、大脳新皮質で言うと、俺はビジネスホテルの最上階を借り切ってくれたのなら納得する。
だけど、エンターテイナーである矢沢永吉は、旧皮質側の活動なので、そういう理屈を超えた情熱を観客に伝えることで売りにしてる。アーティストの部分の、「矢沢永吉」は何て言うかな、ということなんです。大脳新皮質の矢沢はオーケー、しかし旧皮質の矢沢はオーケーと言わないんじゃないかな、ということ。

ビジネスホテルに泊まらせられたら、矢沢はステージに立てないんじゃないか。
それはほんとでしょうね。
そういう事情を大脳新皮質は理解するけど、エンターティナ―の矢沢永吉は不快と言うでしょうね。駄目でしょうね。そう言っていいんだよということです。
本能と現実を一致させることが大事なんです。ビジネス的には納得したとして、じゃあアーティストの部分も納得させましょう、これは無理よって話です。

だから、みんなそれぞれ、自分の本能のやる気度数は今どれくらいですか、意識の度数はどれくらいですか、合わせましょうよということです。
そしたら身体は良く動きますよ、疲れませんよ。
不良的になってても、やさぐれてたら、やさぐれたレベルのやる気を出してくださいよ。一致させつつこっちに持ってくる。そういう意識が大事じゃないかなと僕は思いますよね。
そういうことですね。
それを意識したら、甘えもへったくれもなくなると思います。

投げやりな気持ちは、本能的な気持ち。それも大事にして、投げやりな気持ちの時には、投げやりな気持ち(旧皮質の荒れた気持ち)に見合った、荒れた行動をとりましょうよ、そういう旧皮質の気持ちを新皮質も理解してやりましょうよ、ということです。
やがて、旧皮質も満足、新皮質も満足、という双方が満足した行動がとれるようになったら、真面目に精一杯、動いても何のストレスも感じませんよ。









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第3回「本で涙を流すことについて」
第4回「本を読んでも内容を忘れてしまうことについて」
第5回「時間をうまく使えるようになるには」
第6回「太宰治について」
第7回「摂食障害の人が片付けが苦手だったり、約束の時間に遅れてしまうのは何故ですか?」
第8回「自分のことを『僕』『おいら』と言うのをやめられなかったのは、なぜか」
第9回「おいしいカレーと、おいしくないカレーの違い」
第10回「楽しんで走る」
第11回「死ぬことへの考え」
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第28回「一番感動した景色、美しい国はどこですか?」
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第50回「自分の出し方」
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第52回「何のために変わるか」
第53回「痛みを知る」/a>
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第56回「相手を許す」
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