私は短大で保育の勉強をしているんですけど、いま発達障害とか、アスペルガーが増えている、とどの教科書でも書かれています。保育の中では、個別の配慮が必要なこととしてそれが取り上げられています。あと「小1プロブレム」って言って、幼稚園から小学校一年生に上がったときに、一番じゃないといけないって思ってた子が、背の順で並んでくださいと言われたときに自分が一番じゃないのが許せなくてパニックになるみたいなことを指すようです。これは例えなんですけど、幼稚園とか保育園から小学校に上がるときのその連携が大切ですよ、というのを習ったりしています。
今まで知られていなかった病名が知られるようになったから増えたと言われるのか、それとも摂食障害もそうですが、発達障害とかアスペルガーの子が実際に増えているのか、お父さんはどう思われますか。
【お父さんの答え】
摂食障害の場合には、2000年代に入ってから症状を抱える人が急増したというのが答えです。それまではほとんど患者はいませんでした。
ただ、発達障害とかアスペルガーの子も、今になって増えているのかというと、その答えは増えてはいないが、目立つようになったのだ、というものだと思います。
どうして目立つようになったのかと言うと、世の中が全体的に利他心の世の中から、利己心の世の中へと変化したことが1番の理由だと思います。
自分の経験で、こういうことがありました。長男が小学校に上がった途端、自分のことをそれまで「僕」と言っていたのが「俺」というようになり、言葉も行動も乱暴になって妹たちを虐めるようになりました。どうしてそんなに急に変わったのかと問いつめると、長男はこう答えました。
「小学校の友達はみんな意地悪なんだ。幼稚園に行くようなつもりで行ったら、やられちゃうんだ。もしもっと優しくしろと言うんなら、僕は小学校行く時には気持ちを取り替えて学校に行って、帰ってきたら玄関先で気持ちを入れ替えるよ」
それを聞いて、とても悲しくなりましたが、実際、よくあることとは言え、自分の子供達の教室で陰湿なイジメがあり、そして学級崩壊があり、と現実に巻き込まれてみると、本当に世の中は優しい利他心の日本的な社会から、利己心でも何でも強い者勝ちの社会へと、大きく舵を切ったのだと思いました。
それぞれの家庭で、子供を大切に育てるというのをはき違えて、自分中心にしか考えられない増長した子供が増えたので、もはや教師でも収拾がつかないほど我慢のきかないわがままな子供がたくさんいるということでしょう。
かつての利他的な要素が残っていた時代には、お互いにカバーしあうので、発達障害がある人も同世代の仲間のなかに溶け込んで、発達障害を問題にするほど目立たなかったのではないでしょうか。アスペルガーも同様です。
いま、60代、70代の年配の人の中に、アスペルガー傾向がかなり強い人を何人も見ます。私は多くのアスペルガーの人を詳しく知る機会を得てきたので、それとすぐにわかるのですが、その方々はおそらくはこれまで1度もアスペルガーだと言われることもなく、社会の一員として仕事を持ち、家族をもってやっている人ばかりです。
そういうことを思うと、いまはアスペルガーの人がかなり早い段階から、同世代のなかで弾き出されてしまうことが多いので、それでアスペルガーとか発達障害が目立つようになっているだけだと思います。
保育関連の教科書で、発達障害の子に個別の配慮をしていくことが大切とあるのは、そういう社会の変化を大きく見落としている印象もあります。というのは、発達障害の子をとりまく子供達に対して、利他心を持って人に接することが大切だという教育を徹底していく配慮のほうがむしろ大事ではないかと思うからです。
それが本当に実現して、お互いがお互いを大切にする人間関係を小学校のクラスのなかで作っていけたなら、発達障害やアスペルガーの多くはその関係の中で発達を促すことができて、ごく無理なく社会への自立へとつながったり、時にはアスペルガーの子の中には豊かな才能を持った子も多いので、その才能を遺憾なく発揮したら、極めて有能な職業人になっていくことも稀ではないと考えます。
おそらく、発達障害の子供が生まれる比率は昔も今も、そんなに変わっていないはずです。社会の許容力が狭くなり、親も子もみんなが頑張りすぎて、みんなが苦しく生きるような時代になってきたから、そういう子が目立つようになっただけだと思います。
中学受験とか高校、大学受験とか、はたまた超人気企業への就職とか、そんなことばかりで汲々と思春期を送らせないで済む社会、そんな社会になってこそ豊かな社会だと言えるのではないでしょうか。
(2023年8月26日 掲載)
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