(第171回からの続きです)
僕は、若い20代のころ、月刊誌の取材で一流企業の社長にインタビューする機会が多かったんです。そのときに僕はどうしたらいいだろうかと悩みました。駆け出しの、自信のない、取材経験もない自分が、どうやったらいいインタビューができるんだろうかな、というふうに思ったときに、考えたことがいくつかありました。
まず、身なりです。そのときにかけられる最高くらいのお金で――大したことないですけどね――伊勢丹でスーツ、ワイシャツ、ネクタイ、靴を買いました。自分の趣味に合ったもの。トラッドなんですけど、それなら選択眼に自信があるので、服装では気合い負けしないと思いました。
一番最初は、髪型にも自信がなかったので、アイパーといって、パーマじゃない七三のきちっと整った髪型をポマードみたいな油で固めてびくともしないようにした。髪の毛の1本も乱れのない髪型。服装もきちっとした上で、下調べ。その社長に関する記事はすべて読み尽くして、質問もきっちり準備してね。それが、2つ目ですよね。
3つ目。偉そうな顔して言ったんです。相手は50代か60代。こっちは20代です。そのときに、「あ、どうも、こんにちは」って行ったら、絶対気合い負けする。顎を突き出して偉そうに入っていく。その態度ですよ。あと表情。これを心がけたんです。それでなんとか乗り切ったんですけどね。
極端に言うと、外に出て誰か人と会うときというのはそれだと思うんですよ。おしゃれじゃない。相手に、気合い負けしないだけの、あるいは相手に見合った服装をする。自分が困らない服装をする。困らない持ち物をする、困らない調べ物をして準備をしておく。そして相手に見合った表情を作っていく。
きれいかどうかじゃない。僕が企業へ取材にいくと、広報の人がまず、「小野瀬さんよくいらっしゃいました、社長のところへ案内します」というとき、「小野瀬さん美男子ですね」なんて言えないくらいの、ここで口聞いたら怒られるかもしれないと思うくらいの厳しい顔をしていく。つまり隙を見せないという心構えだと思うんですよ。どこの誰に会うかによって違ってくるでしょうけどね。
僕、お母さんと出かけるときがありますけど、「お父さん、今日これ着て。あれ着て」って言われることがあるんです。いつも言わないのになんでかな。「グレーのこれ着て。私がグレー着るから。私の首飾りの色に合わせて」。
びっくりしちゃうんですよね。お母さんは自分のコーディネートをするだけじゃなくて、僕のコーディネートも考えている。2人で歩いたときにどうか、と。
そういうことなんですね、良いバッグを持つかじゃなくて、いい男を持つかじゃなくて、良いコーディネート。2人が自然に受け入れられる。そういうことに気を使うのが大事じゃないかなというふうに思うんですよね。
そういう意味で、その場に見合った、適切な服装と表情、態度振る舞いがいかにできるかという、それでその人の、なんていうか品格とか質が決まってくるんじゃないのかなと、そんな気さえするんですよね。世の中には、いろんなレベルの品格が求められる場所とか相手とか、あると思うんです。
例えば、お見合いの話があったとします。
どこで会うかということになりますが、先方がありきたりの喫茶店を指定してきた場合と、この地域でも格式が高いホテルの喫茶室を指定してきた場合とでは、やっぱり印象が違いますよ。
まあ、お互いにどういう人かというのでも違うとは思いますが。
僕も若いとき、デートして気に入った人に会っている間中ずっと車の話ししかしてなかったということに後で気がついて、何ということだと思っちゃうんですけどね。でも相手に後で聞いたら、「いや、楽しかった」と言われて、(良かった)と思うんですけど。
楽しくなかったら二度と会うの嫌になっちゃうだろうなと。
そんなふうに、時と場合と人によって服装とか話題とか表情を変えると、やはりどの相手からでも喜ばれます。相手に違和感を与えない。そうすると、自分もいい気持ちで帰ってこられる。違和感なく帰ってこられる。そういうふうなことじゃないかなと思うんですよね。
だから要約して言うと、いいですか、高いバッグ、ブランドバッグ持ってるからどうこうじゃない。心ですよね。自分のほんとうのリアルな心の状態に合ったものを身に着けて、心の状態に合ったものを相手にプレゼンテーションする。相手にあって表現する。それ以外のことはそんなに大事じゃないんじゃないか。そんな感じがしますよ。
(2019年4月9日掲載)
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