私は自分の家がそんなにお金持ちじゃなかったことが、ずっとコンプレックスになっています。自分より豊かな生活をしてきた人を見ると、すごく悲しくなっちゃって、自分のアイデンティティが不幸であることに傾いてしまいます。
私は生まれたときの生育環境が自分と違って豊かだなと思う人がいると、その人にすごく壁を作ってしまいます。心が虚しくなったり、寂しくなったりしてしまうのです。
こういう寂しさとか、負の気持ちはどうやったら取れると思いますか。
【お父さんの答え】
それは一般的に、誰もが陥る心境ではあります。生まれ育ちを、コンプレックスに思うことは誰にでもあることです。
どんな立派な親の元にうまれても、上をみたらいくらでも立派な家柄もあるし、お金持ちも限りないほど上には上がいるものです。要は、誰かと比較して自分の生まれを残念に思ったら、誰でも全ての人が同じコンプレックスを持つことができるのです。
そして、自分ではどうしようもないところで、不幸な環境に産まれおちたと思いたい、というと語弊がありますが、ちょっと壁にぶつかったときには、それは自分のせいではなくて環境のせいにしたいというのが本音なのです。
これは、大昔からそうなのです。日本でも『山椒大夫』という小説がその代表格ですが、自分は不幸な身の上になっているけれども、元々はやんごとなき生まれで、いずれ高貴な方の家来が自分をお迎えにくる、というパターンが好んで読まれてきました。
自分が不幸であることは、生まれた時に決まってしまったことが理不尽に思えて残念だという思い、元々は高貴な生まれだったということが判明して、努力しなくても不幸が解消してしまうという展開にならないかという願い、その2つは自分の不幸を嘆く人の定番の考え方ということができるでしょうね。
例えば、現代版のストーリーで繰り返すと、自分は飛び抜けて不幸な生まれであることが残念で、残念でたまらない。とくに貧乏な育ちであることが惨めで、悔しいし、人から蔑まれていると思う。ところがある日、自分の家の前に、ロールス・ロイスが横付けされて、スーツ姿の男性がぞろりと降りてきて、玄関の前に立つ。
「お嬢さま。お迎えに上がりました。お嬢様は、やんごとなき高貴な方の落としだねで、事情があってこれまで身分を伏せてこちらで育ててもらってきましたが、いよいよその時が来ましたので、お迎えに上がりました。宮殿までお車でお送り申し上げます」
そういうことが現実に起きてほしい、と心の中で願っている。
こういう話しの展開が万人受けするのは、誰もがそういうコンプレックスを持っているからなのです。
それで、自分はお金持ちの生まれでなくて残念だというコンプレックスから抜け出るにはどうしたらいいか、ということですが、どんなお金持ちに生まれたとしても、おそらくは同じコンプレックスを持ちますよ、と知ることです。
どうしてかというと、どこまでも上には上がいて、欲望には限りがないからです。
仮にそういうコンプレックスを持った人が、何かのはずみで大金を手にしたとすると、それこそ高級品を買いあさって、贅沢の限りを尽くします。そういうことをしても、これでいいということがないので、何十億あってもあっという間に使い尽くしてしまいます。
どんなにおカネを積み上げたところで、コンプレックスがなくなるということはないし、贅沢をしてもコンプレックスはなくなりません。
だから、誰もがそういうふうに自分の生まれ育ちコンプレックスに思ったり、悲しく思ったり、虚しく思ったりする。しかし、実はそれは逃げであって、実際に不幸になるか幸福になるかは、その人の努力次第だ、ということをしっかりと思い定めることです。
もしも、自分は人生のスタートをするに当たって、条件が悪いなと思ったとしたら、目の前にある最善の手を尽くして、少しでもその悪い条件を良くしようと努力していく。その努力の積み重ねが、自分の自信になり、いずれ条件の悪さを克服することもできていく。自分が不幸になるか、幸せになるかは、自分の生まれおちた条件の違いで決まるものではない、ということを自ら実践して見せていこうという気概を持つことです。
最近、亡くなった女優で歌手のジェーン・バーキンという女性がいます。
この人は、大成功した人ですが、どこまでも気さくな人で、いつも弱者の立場に立てる人でした。
東日本大震災があったとき、同時に原発の事故も起きたため、世界の人たちは放射能に汚染された日本には近づきたくないという空気がありました。ところが、大災害に見舞われた日本の人を元気づけようと、震災の1か月後にはジェーン・バーキンは日本に来て、チャリティーコンサートを開いたのです。その売上げを被災者に寄付しました。
エルメスのバーキンというモデルは、ジェーンバーキンがいつも買い物かごを下げてスーパーに買い物に行っていたので、その買い物カゴをモチーフにしたバッグです。そのブランドバッグがバーキンにプレゼントされると、バーキンはそれでスーパーに買い物に行き、スーパーの食材でブランドバッグをいっぱいにしたほど、気取りのない人でした。
お金持ちになろうが、貧乏になろうが、気持ちはいつも同じ。いつも同じところに立って、ただ精一杯で自分のできることをする。そういう姿勢でいることだけが、自分に幸せを呼び込むコツではないでしょうか。
(2023年7月28日 掲載)
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