第267回「相手に喜んでもらいたい気持ちと、自分が幸せを感じることの怖さ」


【質問】

 小さい頃からずっと、相手に喜んでもらいたいと思ったら、自分が幸せになってはいけなくて、自分が我慢しなければいけないと思ってきました。自分に何か良いことがあると、それは妬まれることで、誰かを不幸にすることでした。友達から、不幸になることを望まれました。だから、幸せになることは怖くて、幸せになってはいけませんでした。
 でも、それはノーマルではなく、ひどいことで、競争の世界だからそうであっただけで、自分が幸せを感じても、それは自分だけのものではなくて、一緒にいる人との間に幸せがあると思って良いのでしょうか。

【お父さんの答え】
お父さん:

 これを読んでいて、一瞬、思い出しました。
 自分の話になって恐縮ですけど、子供が中学受験した時のことなんです。
 その学校は、うちから自転車ですぐ行けるところです。息子と2人で行って、発表を見に行ったんですね。
 校門を入ってしばらく行ったところの掲示板に、合格者の受験番号が貼り出してある。2人して行って、「あった!」と僕が言って、「よかったな!」って喜んだんです。すると、「しーっ!」って子供が言うんですよ。
「お父さん、他の人がいるんだよ。他の子がもし落ちてたらどうすんの。可哀想でしょその人が」
 って。ああそうかと思った。
「だから嬉しそうな顔しないで」って言うんですね。
 優しいな、と思いました。ああ、ほんとに他の受験生の気持ちを考えたら、手放しで喜んではいけないな、という感じですよね。

 

 で、その時、すごく印象的なことがあってね、変なおじさんが一人やってきたんです。一人、校門に入ってくる前から、大きな声で携帯電話で話しながらくるんです。どうやら家族に合格発表を見に来た様子を実況中継してるんですよ。
「ただいま校門に入りました。一歩ずつ掲示板に近づいております」みたいなことを言っている。僕は離れていたけど、みんなしーんとしてるからよく聞こえるわけです。
「今、掲示板の前に立ちました。今、見ております。あ……残念、ありませんでした」
 誰に実況中継してるんだと思いましたけどね。
 どっちにしても、大喜びするものじゃない。よく有名大学の合格発表の掲示板の前で胴上げしたりしてる絵柄がありますけど、ちょっと違和感ですね。やっぱり受かる人もいれば落ちる人もいる。そういう中ではやっぱり、喜び過ぎるのは違和感がありますね。

 

 

 僕自身も中学受験したんです。嫌な思い出がありますね。
 その頃は中学受験の走りですから、全ての親が、まあ子供を受験会場に送ってきて、親の控室があって。そこに問題が貼り出されて、親も試験問題を見るんです。解いてたりするんですよ。全員の親が。それくらい熱心でね。

 

 午前と午後が終わって、午前に算数か、理科か、例年とは違って難しい問題があった。
 いやあ、今年の問題は難しかったな、って親同士で言ってるわけです。
 で、僕は帰り道で、父親に、
「健坊、どうだった。今年の問題は難しかったみたいなこと聞いたけど」
 って聞かれました。
「そうだね、難しかったね」
 僕は、大体できたとは思っていたけど、落ちてたら親をガッカリさせるからまずいなと思って、
「まあ午前の理科がちょっと難しかったので、午後の試験は流しちゃった。もうダメだなと思って適当に午後は書いておいた」
 と言ったら、
「馬鹿野郎! なんでお前、最後までしっかりやらなかったんだ!!」
 それからもう、ずっと怒鳴られてるわけですよ、延々と。

 

 その学校まで、バスの乗り換えの都合もあって、バス代を惜しんでけっこうな距離を、3停留場分くらいを延々と歩いたのです。そこの途中に小鳥屋さんがある。僕は小鳥が子供の時から大好きでしたから、小鳥屋の前まで来た時、
「お前、最後までしっかりやれば、毎日だってこの小鳥屋に寄れたのに」
 ってまた父親に延々と言われてるわけですよ。
 僕は小学校6年生ですよ。
「ちゃんとやったよ」って言いたかったけど、今更、あまり言えない。でも、最後までやることはやったよとか言っても、ガミガミガミガミ怒られててね。もう嫌んなっちゃった。もう本当に、是非そこの中学に僕を入れたかったんでしょうね、父親はね。

 

 で、そのことがあるから、僕は、自分の子供が中学を受けるときは、そういう思いだけはさせたくないと思ってたわけです。
 だから発表を見にいった時も、どうでもいいよっていう感じだった。試験のときも、受かっても落ちてもどっちでもいいよっていう感じでした。どうでもいいよ、といいながら受かっていたらやっぱり嬉しくなっちゃって喜んだら、「喜ばないで! 他の人もいるのに!」って子供に怒られて。
 そうだったな……僕は子供の時もだめで親に怒られ、親になってもだめで子供に怒られる。難しいね。喜ぶのって難しい。中学受験、難しいですね。

 

 

 相手に喜んでもらいたい気持ち、周囲の人に喜んでもらいたい気持ち、それはありますよね、ずっと。
 ただ、喜びと不幸が対になってるということはないんです。
 喜びと喜びというのもある。不幸と不幸というのもある。自分にいいことがあると妬まれると思うかもしれませんが、人から妬まれるかどうかよりは、自分が思い上がることの方がよっぽど害が大きいでしょうね。
 思い上がってはダメですね。
 僕は、「願いはなんでも叶います」って言います。でも、願いが叶ったとしても、手放しで喜んだ途端に必ず足元を掬われますよ。自分の慢心が、何か間違った、人として間違った行動を取らせてしまうからです。

 

 やっぱり、こう言うとおかしいかもしれませんけど、僕はやっぱり、生きてるということは、ずっと修行をしているようなものだと思ってるんです。そうとしか思えない。
 修行みたいなもので。それは人格を高めるための修行なんです。だから、どんなに立派になったとしても、思い上がったとしたら、途端に、だんと叩かれます。それは、世間から叩かれるんじゃなくて神様から叩かれる。人から妬まれるんじゃなくて神様をこそ恐れるといいです。自分自身の驕りこそ恐れて、それにさえ気をつければ、幸せになっていいんです。

 

 ただ、幸せというのは、ほとんどの人が思ってるのと形が違う。ほとんどの人は、お金があったら幸せになれるとか、大きい車、いい車に乗ったら幸せとか、好きな物があると幸せとか、あるいはこういう状況になったら幸せになる、と思いがちです。
 そういう幸せの条件を思い描くんですよ。例えばドリームジャンボ宝くじとか、12億円あったら幸せになれるんじゃないか、と。
 でも、そういうことと全然関係ないです。逆に幸せになるのが難しくなるかもしれないね。そんなこともあって、僕は宝くじ買わないんですよ。1億円あったって上手に使えません。100億円あったって困っちゃいます。桃の霜対策には使うかも……。いや、使えないですよ。

 

 なんていうんだろうな。ものとかなんかじゃなくて、自分に見合ったことをやって、自分に見合った生活をして、自分に見合った喜びを噛み締めてる時が幸せなんじゃないですかね。
 だから、貧乏な人で幸せな人はいっぱいいるんですよ。お金持ちで不幸な人もいっぱいいるんですよ。経済的なことと幸せは関係ないからね。
 変なことを願っちゃダメですよ。
 欲をかいてたらダメですよ
 幸せの条件つけたらダメですよ。
 むしろ、流れを見る。
 幸せというのはね。流れを読む。何かその幸せの流れに乗るという、そういう気持ちが大事なんじゃないのかなと僕は思います。
 そして幸せは常に、人と人との間にあるもの、です。
 単発的な、良いこと、悪いことに一喜一憂しない。
 どんないいことがあっても、人格に見合っただけしかいいことは残りませんから。喜んだって残りませんから。じゃあ、どれだけ悪いことがあっても、人格に見合ったことしか火の粉はかかってきません。本当に悪いことがあったら、それは人格が悪かったんだと諦めるしかない。

 

 自分とか人の存在を軽く考えて、自然の摂理とか、何か人の力ではない神様の力が働いてるような、そんなことをなんとなく感じて、その手のひらの上で踊らされている。そう言いつつも、大きな目標はちゃんと見据えながら、自分に与えられた役割を果たそうという、そういう意識を常に持っていると、自分がやるべきことは自ずと見えてくると思うんだよね。自分が果たすべき役割が自ずと見えてくる。
 果たすべき役割を果たしている中で、確かな自分の幸せが見えてくるはずです。

(2021年3月25日 掲載)









第1回~第100回(クリックすると一覧を表示します) 第1回「縦軸と横軸について」
第2回「神様は何をしようとしているのか」
第3回「本で涙を流すことについて」
第4回「本を読んでも内容を忘れてしまうことについて」
第5回「時間をうまく使えるようになるには」
第6回「太宰治について」
第7回「摂食障害の人が片付けが苦手だったり、約束の時間に遅れてしまうのは何故ですか?」
第8回「自分のことを『僕』『おいら』と言うのをやめられなかったのは、なぜか」
第9回「おいしいカレーと、おいしくないカレーの違い」
第10回「楽しんで走る」
第11回「死ぬことへの考え」
第12回「『聞く』と『教えてもらう』」
第13回「頑張るフルマラソン」
第14回「他人の成功」
第15回「『今』という時間」
第16回「不安の先取り」
第17回「良い協力関係」
第18回「急に悲しくなる」
第19回「夢の持ち方について」
第20回「心の許容範囲」
第21回「疲れるのが怖い」
第22回「スポーツの勝ち負け」
第23回「人といること」
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第26回「舞台鑑賞が怖かったこと」
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第31回「行きたいところ」
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第37回「心配されたい」
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第40回「涙腺が弱い」
第41回「子供が苦手」
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第45回「身長は伸びますか」
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第49回「強さについて」
第50回「自分の出し方」
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第52回「何のために変わるか」
第53回「痛みを知る」/a>
第54回「投げやりな気持ち」
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第69回「山を登ると」
第70回「リーダーをすると苦しくさせる」
第71回「自分から人を好きになる」
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第73回「お姉さんのような存在を」
第74回「作業に対して気持ちの落差が激しい」
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第77回「夢について・集中力について」
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第81回「高いプライドをつくるには」
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第87回「統合力を高めるには」
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