第57回「書けないとき」


〈質問者〉

質問

日記を書くとき、あっという間にスラスラ書けるときと、まとまらない文章になって、その日の日記が途中になって出せないことがあります。
お父さんは、文章が書ける日、書きたいと思うとき、筆が進まないという日は、ありましたか。
書けないときは、気持ちがまとまっていないということでしょうか。また、途中の日記を次の日に書いて、提出しても良いでしょうか。

 

〈お父さん〉

答え

ええと、僕は書ける日と書けない日が、かなりはっきりありますね。
で、書けない日は、気持がまとまっていないということじゃないです、頭が書ける状態になっていないということですね。
脳みそが動かない。考えが集中できない。
熟成していないというよりかは、文章を作るようなコンディションにない、ということですよね。僕の場合にはね。良い考えがあるんだけどまとまらないという感じはないですね。疲れ切って書ける気もしないし、書く気もしないし、書けない、っていう感じですよね。

たとえばね、こないだ、僕が講演する機会がありました。で、早くにね、何を話すか書けば良いんですけど、講演って聴衆によって聞きたい話が違うんですよね。微妙にお客さんが違うので、その人に合わせて話をまとめ直さないといけない。どういう順番で、どんな話をしようかな。コンテを、A4に1枚でも2枚でも、作っとかないと話にならないんです。

3回か4回、結婚式に出ると、だいたいいますよね。新郎の側の代表の挨拶とかで、だいたい新郎の会社の社長あるいは大きい会社だったら営業所長が出てきたりします。
その時、凄く喋り慣れた人がね、いい話するのかなと思ってたら、話が行ったり来たり、自分でもまとまってないなと思ったら、途中で急に切り上げて、何が言いたかったんだという。人生の教訓いっぱい持ち出してみたものの、尾ひれがつかなくて、しょうがなくて色んな話を並べておしまい、という困ったことになることがあります。

それとは反対に、自分は話べたなので、用意したものを読まさせていただきます、というふうに――本日は、新郎の何々君、新婦の何々さん、ご結婚おめでとうございます……から始まって、タタタタと読んで、きちんとまとまって、ああ、聞きやすいな、良い話だな、というときもあります。

講演でも同じなんです。言いたい気持ちはわかるけど、筋道立てて来いよって言いたくなる人がいるでしょ。自分がそうならないように、前もって筋道を立てたいわけですよ。

ところが前日の夜に……、なんかいろいろごたごたしてて、12時過ぎたくらいの夜中に家に帰ったのね。
それで、なんかこう精神的にも身体的にも疲れててね、それから翌日の講演の話の筋をまとめようかなあと思ったけどね、机の前に座れない。疲れすぎててパソコン開けないんだよね。疲れちゃって、眠いというよりくたびれて。
で、すぐに、次の日講演だというのに風呂にも入らないで寝ちゃいました。
そういう時には電気、点けっぱなしですよ。だって書かなきゃいけないんだから。
身体が休まるか、頭の考えがまとまったら、何時でもいいから起きようという感じで寝た。

ところが、お母さん、僕が知らないうちに電気を消しちゃうんですね。電気点いてた方が熟睡しないで済むんですけどね。まあまあ、大人ですからそれでも寝ながら考えてた。何を話そうかな、と眠りながら考えているんです。
やっぱり5時間くらい寝ると身体が少し楽になってきて、頭も静かになるので、朝方の5時半くらいに起き出して、書き始める。コンテをね。
1回寝ればリセットされているので、午前中、朝方のうちは書けるですよ。あれ、なんかこんなふうに疲れてくると言葉もおかしくなってくるんですけどね。

で、朝、たしか10時半までに来てくださいと言われてた。なんとか間に合わせないといけない。だいたい、そういう日に限って、朝方電話しなきゃいけない用事があったりして。
8時にはだいたい話の筋の見通しがたって8時半から少し電話。8時半くらいになるとちょっと焦ってきて、20分くらい書いて、やや未完成だけどお母さんに見せて。
いいでしょうか。

どうも未完成だと思ったら、お母さんが、こんな話を最後にしたらいいよと。ああ、それはそうだな。でもそれは、もう書かないで頭に入れて、出発。そんな感じですよね。そんなふうに、書けるときは書ける。書けないときは書けない。あるんじゃないでしょうかね。誰にでもね。
だから、疲れているとき、頭がまわっていない時は、書こうと思わないことですよ。

日記ですけどね、みんなも過去に経験したと思うし、僕も経験中ですけどね、仕事とか作業は、8割できても、最後までいかないと仕事にならないっていうことがあるでしょ。
ね。
つまりね。いい? つまり。手紙を書かなきゃなんないとしますね、手紙なので、最後の2行1行まで書いてないと出すに出せないでしょ。あと3行で終わるんだけどな、日にちと名前と。でも仮に9割そこまで書いてて、いい言葉思いつかない、って仕上げないで置いとく。
すると、その手紙は出せずに終るでしょうね。
ああ、そうだこっちの人に書かないと……9割書いて、また最後まで仕上げずにやめる。
あ、こっちも出さなきゃ、でやめる。

仕事はしてるんですよ。で、全部、最後の2行3行書けないから、出せない。
仕事したことになってますか? どんなに頑張って9割、いいこと書いても最後の1割ができないので出せない、ということばかりやっていると、仕事した事にならないんですよ。
それで、あとでその手紙を取り出して、最後の1行2行、無理でも書いて出そうとします。改めて読み返してみると、「あ? 終わってるよ、この言葉」ってなって、結局は出せない。
時季外れだから出せないとか、出さなくてよくなっちゃった、みたいなことになってる。

何が言いたいかというと、最後まで、どんな小さい仕事も終わらせないと終わりにならないということ。特に書き物はそうです。
だから、終わる癖をつけといたほうがいいですよ、ということ。
これ、なんでかっていうと日記も同じなんですよ。
途中の日記を次の日に書いて……なんて、やってられないよ。質問した人の名前分かりませんけど、この人に言いたいですね。そういう風に思って、次の日に書いて、全部これまで出してきてますか? それができなくて、次の日、別な用事ができちゃって、というか別の書きたいことが出てきちゃって、とうとう前の日のは出さずじまい。
そういう日記がたくさんあるんじゃないですか、って言いたい。多分、そうだねこの人は。
だったら、日記ですからね、とにかく終わりにする。途中でもかまわない。消灯の10時になったら、もう寝ないといけない。

”途中ですが、時間なので終わりにします。おやすみなさい” で終わりにしてしまっていいんです。それで出してしまう。
で、翌日よっぽど時間があって、昨日の日記完成させようかなと思ったら、続きをダーって書いて、ちょっと時間があったので書いてみました。昨日、出したのとだぶってますけど、でもかまわないんです。で、また今日のと一緒に出したらいい。と思いますよ。

 

〈お母さん〉

それ、ちょっと意地悪な言い方だけど、戻っちゃうけど、未完成未完成未完成で、5日分くらいそれを完成させてからバーッて出されたら、もう読まないですお母さん。どんないい事書いていたって、読めないです。何日も前のことは終わっちゃってるから。次のこと、明日のこと出さないといけない。どんな良い日記書いてくれてあっても、読めないです、もう。それだけは言っときます。

 

〈お父さん〉

だいたい、僕やお母さんが日記読む時間というのは、深夜か早朝なんですよ。
仮に日中、校長室でお父さんが日記読んでるとするでしょ。途中まで読んで、「コンコン。お父さんいいですか?」って誰かしら話しに来る。
みんなは、僕が誰かと喋ってると、(お父さん忙しそう)と思うけど、お父さんがパソコンで書き物していたり、読んでいたりすると、(お父さん遊んでる)と思って堂々と話しに来る。

それで、日記を途中まで読んでパソコンを一回閉じちゃったりすると、どこまで読んだっけかな。あ、これ読んだよ。あ、これも読んでたよー。同じ日記、2回も3回も読んでね、エンドレスになっちゃうんです。読みかけの日記を2回も3回も4回も読んでね、とうとう最後まで読めない。だから、校長室では日記が読めない。深夜か早朝にまとめて読むしかない。

タイムリーに出してくれないと。例えば考えてご覧。これが今日出した日記だとしますね。僕が、夜、全部読んでから寝ようと思って読む。
今日は17日ね。今日の人は17日で日付書いていると、17日17日17日を読んでいて、14日と出てくると……あ、むかしー……15日、あ、昔……リアルじゃない感じ。
17日の中に、15日とか13日とかが混じってると、遙か昔の感じがしちゃうんですよ。
ましてや、リアルタイムで僕も読もうと思って読んでると、やっぱり、なるべくリアルに、いくら完成度の高い日記だったとしても仮に5日前の日記は、僕にとって1年前に等しい、ですよ。

だから、そういうのはなるべく、完結させた方がいいです。だからほとんどの仕事はね、何て言うんだろうな、60点でも良いから今日やっとくほうが、いい。明日80点の日記書くより、今日60点の日記書いた方が、価値が上かもしれない。なんでかっていうと、時間の価値があるから。
すごくいいとしても1日経つと鮮度が落ちるでしょ。たとえば鰯とヒラメがあるとする。まあ、いちおうヒラメでも高級魚だけど、これ10日前に取れたヒラメですっていうのと、これ今日取れた鰯ですというの。どっち買います? 10日前のヒラメ、どうかなって思っちゃうでしょ。鮮度も価値のうちですよ。新鮮さもね。

そういうことって、あるかもしれませんね。僕はなるべく、今は会った人とかお世話になった人に絵はがきを描くようにしてますね。3行で。
表が平山郁夫の絵なんですよ。宛名と、ちょっと書いたらおしまい。

***少し前のことです***
今日も永禮さんと、もう1人の……。

 

〈お母さん〉

広瀬さん。

 

〈お父さん〉

ああ、広瀬さん。という人がね、耕耘機をくれたので。

 

〈お母さん〉

あっ言い忘れた……。

 

〈お父さん〉

いや、もう既にね、ハガキを出したわけですよ。ところが2か3日したらすぐね、永禮さんから電話が。
「小野瀬さん、今日、帰ったらハガキが! 感動してつい、電話してしまいました……!」
そういうことがある。
今日も、封書で来たね。封書は82円。僕は、52円。
で、封書は12行ぐらい書かないといけない。絵はがきの僕は3行。やっぱり早い者勝ち。
厳密に言うと絵はがき代がちょっとかかってますね。……まあ、お金の問題じゃないけど。
そういうやりとり。
******

しかも、ハガキ、記念切手風のを貼ってて、それをね、季節にね、合わせてね、出したりするんですよね。
何度も言うけどね、見てもらえないことがあるんです。
あの……僕は、国立博物館で買った蝶の絵はがき。アサギマダラという綺麗な蝶々の絵はがきに、実に、同じアサギマダラの蝶のデザイン切手を手に入れたんです。切手を見てもアサギマダラ。絵はがきを見てもアサギマダラ。それで、当然気がつくだろうと思って絵はがきを描いて、出したんです。この人(お母さん)に。

 

〈お母さん〉

……。

 

〈お父さん〉

気がついてくれたんだろうな、と。あとで聞いたら、「え、そうだった?」
特別な僕の思い入れで、そのセットでハガキを書いたんだけど……。

 

〈お母さん〉

今は、ちゃんと写真立てに入れて玄関に飾ってある。

 

〈お父さん〉

そうなんだよ、それが、写真立てに入れてあった。――ああ、これ、知ってくれてたんだね。切手も同じチョウチョの切手なんだよって言ったら――えっそうだった?って。
でも、僕の愛情のこもった絵はがき、焼却炉で焼かずにね、とっておいてくれたんですね。
ありがとうございます。

ということで、できるだけ仕事ははやく簡潔に終わる。
僕の先輩は、ハガキを持って取材に行く。大体ね、その場でやらないと忘れるんです。
だから、取材が終わるでしょ。終わったら事務所とか家に帰る前に、どっか途中で良いから会社を出たら、宛名を書いて、後ろに御礼を書いて、帰りにポストに入れる。
僕、それをしばらくやったことある。抜群ですよ。こっちは忘れても、向こうは忘れないというくらい。僕は、そのうち、その近くの樹とかスケッチしてね、手製絵はがきですよ、チャチャチャ、ほんとにミミズののたくったような絵で良いんですよ。オリジナルの味がでも出るからね。それで一言二言。上手い下手の問題じゃない。

あの、なんていうのかな、やっぱり心ですよ。みんなもそれをやった方がいいんじゃないかな……。
あ、何の話だっけ。
日記だよね。日記。途中で良いから、愛情を込めて終わればいいんじゃないですか、途中でもね。
ぜんぜん話のつじつま合わなくても、いいんです。
お父さんお母さん愛してます。お休みなさい。
なんか途中だけど、いっかーってなるでしょ。
書けないときは、ちょっとだけ書いて出す。そんなふうにしてください。









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第3回「本で涙を流すことについて」
第4回「本を読んでも内容を忘れてしまうことについて」
第5回「時間をうまく使えるようになるには」
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第7回「摂食障害の人が片付けが苦手だったり、約束の時間に遅れてしまうのは何故ですか?」
第8回「自分のことを『僕』『おいら』と言うのをやめられなかったのは、なぜか」
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第52回「何のために変わるか」
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第245回「友達について その②」
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▶第251回~
第251回「アメリカンドリーム」
第252回「悲しむこと」
第253回「限界までやってみる」
第254回「リーダーの向き不向きについて」
第255回「悲しくならない求め方」
第256回「人前に立つ緊張」
第257回「野菜の見方」
第258回「プライバシーについて」
第259回「寝相について(前半)」
第260回「寝相について(後半)」
第261回「変わっていくことについていけない恐ろしさ」
第262回「速く書く事」
第263回「利他心について」
第264回「集中力について」
第265回「読書について 解釈と鑑賞」
第266回「年齢、役割に見合った振る舞いについて」
第267回「相手に喜んでもらいたい気持ちと、自分が幸せを感じることの怖さ」
第268回「相手を幸せにするということについて」
第269回「シンプルであること」
第270回「人のために動くとき」
第271回「周囲の人や家族のなかで浮いている感覚があったことと、個性について」
第272回「楽しませる人、発信する人になりたい」
第273回「目の前のことに集中できない・利他心と利己心について」
第274回「仕事への心配と、自分が空っぽの人間だと感じることについて」
第275回「理解されたいという欲求が強かったこと」