第２８４ 回 　「大人と子どもの境界線について」

　大人と子供の違いについて、もう一度詳しく教えていただきたいのと、大人と子供の間の境界線はあまりないかとも思うんですが、何をきっかけに子供が大人になっていくのでしょうか。
自分がほとんど高校生の段階で、心の成長が止まっている感じがしていて、何をきっかけにどうやって大人になっていくものなのか、教えていただけたら嬉しいです。

【お父さんの答え】

　大人と子供、それは年齢だけではないのかなと思います。
わかりやすく言えば、親を頼っているのが子供で、親を頼ってないのが大人、です。

　でも、摂食障害の女性は、５、６歳の幼い段階で親に対して不安を持ちますから、親を頼るというよりも、親を庇わなければならない、という気持ちが働いて親を助けようとして、半分は大人になってしまったようなものです。
　アダルトチルドレンという言葉がありますが、ちょうどそれです。本来は子供であるべき時期に、妙な大人の気遣いをしながら生きてしまい、それが成人して本当の大人になると、子供ときのアンバランスの反動が出て、年齢的に大人になると、今度は大人になりきれずに心のバランスを崩してしまいます。
　子供のときに母親は頼れないな、自分がしっかりしなければならないと思うわけですが、子供ですから本当に大人の気遣いができるわけではなく、ただ大きな不安を我慢しながら平静を装っているというだけです。

　アダルトチルドレンはともかく、親は頼れないと思う、あるいは親を頼るのはやめようと思う時点で、人は大人になると思います。
　自立するまでの期間、もしも経済的に頼っていたとしても、精神的に自立していて、親の考えに左右されない自分のプランを持っていたら、それはもう大人になっているといっていいでしょう。
　そういう人は、親には経済的に頼れない状況になったとしても、別のプランを自分で考えて前へ進めることができます。人を頼らないというのではなく、血縁関係にとらわれずに自分の考えを理解してくれる支援者を見つけることができます。人は誰も１人で生きていくわけでもなく、また血縁関係を頼って生きているわけでもなく、社会を構成する一員として広い意味で互いに助け合いながら生きています。
　その社会の一員であるという自覚が大きくなって、親子関係に代表される血縁関係を構成する一員であるという要素を、社会を構成する一員であるという要素が越えたとき、大人になるということもできるでしょう。

　質問者は、高校までで心の成長が止まってしまっていると感じるということですが、親御さんからの教えというのが、中学高校で勉強して、偏差値の高いどこの大学に入るかということだけに終始したため、大学に入った時点でその先の生き方が見えなくなってしまったということでしょう。
　勉強を懸命にする生き方は教わった、しかし人生をどう生きていくか、社会にどう貢献していくか、という教えはまったく欠落していたので、高校までの生き方しかわからなくなり、それも全力を尽くして頑張ったので、心の柔軟性が失われて消耗しきってしまった、それ以上は生きる元気さえもなくしてしまった、そして摂食障害の症状に翻弄されるだけになったというのが実際のところだと思います。

　いま、なのはなファミリーに入って症状も抜けて、元気を取り戻したけれども、年齢に見合った大人の感性を全く持ち合わせていないことに気付いて愕然としている、ということではないでしょうか。
　思えば年齢的にはとっくに大人の仲間入りをしているが、果たして自分はちゃんと大人の分別をもった人間になれるのだろうかと不安になる、その気持ちはよくわかります。
　中学高校の思春期には、勉強だけに明け暮れて過ごし、その後は摂食障害の症状に翻弄されて無為の時間を過ごし、ようやく症状から抜け出たものの、自分が空っぽで中身が何もないような大きな欠落感を感じているわけです。

　そういう時には、いまからでもいいのでまずは小説をたくさん読むことです。小説には様々な人生の一面が切り取られていて、これから自分が出会うであろう喜怒哀楽の感情を事前にシミュレーションすることができます。小説の中の主人公の体験を、自分の仮の体験として、空っぽのなかに詰め込んでいくのです。２、３日で１冊くらいのペースで読んでいけば、しばらくすると空っぽだった自分の心に情緒が少しずつ甦っていくのを感じることでしょう。

　あとは、いつも言っていることですが、「夢、智慧、勇気（何を実現して世の中に貢献していくかという夢、それを着実に実現するための智慧の獲得、そこに向かって踏み出して行く勇気）」の３種の神器をしっかりと持って人生を歩きだせば、１つひとつの経験が少しずつ大人の自分を形作っていくはずです。
　社会で経験を重ねていくと、やがて大人としての自分を成長させてくれるのは親ではなくて、親とは無関係の厳しい大人だったり、優しく助けてくれる見ず知らずの大人だったりすることに気付くでしょう。
そのとき、あなたは子供から大人の仲間入りをしたといえるでしょうね。

（２０２２年６月２７日　掲載）