第47回「ぐっすり眠れない」


〈質問者〉

質問

 私はなのはなに来てから、よく眠れたと思うことがないのですが、ぐっすり眠ることは不可能ですか?
 いつも必ずトイレに起きることもずっと変わらず、まったく眠れていないわけではないのに、朝方すごく眠くて起きるのが辛かったり、日中眠気が強くなってしまいます。
 でも、いざ夜になって寝ようとしても寝つけなかったり、眠れた気がしません。
 これは、どのような気持の甘えですか?
 教えてもらうこと自体甘えかもしれませんが、もし良ければ教えていただけるとうれしいです。

 

〈お父さん〉

答え

 これね、いくつか理由が考えられるんですよね。無呼吸症候群の人にも、こういうことがあります。
 無呼吸症候群というのは、寝てるうちに呼吸が止まっちゃうんです。僕の知ってる人でも、いました。
 昼間いつも眠そう。夜は寝た気がしないようで。これは、本当に熟睡できない。
 精神的な理由で寝た気がしないっていうのもあります。ただ、精神的なものだったら、解決できます。
 それと、極端な場合には、思いこみって言うものがあるんですね。眠っているのに、眠っていないと思い込んでしまう。自分はほとんど寝てないと思ってるんですよね。そういう人もいます。

 しばらく前の入居者ですが、「私はいつも一睡もしてないんです。眠れないんです」っていう人がいた。
 それは大変だ、と僕が山小屋でその子のベッドのすぐ下に布団を敷いて横になり、一晩、観察することにしたんです。
 その人はベッドのすぐ上なので、下から様子がよく見える。しばらくは、もそもそしていたけど、時期に眠った。
 ところが、30分くらいしたら目をさまして時計見たりしてる。で、すぐにまた「カーッ」と寝息を立てて、明らかに眠っている。それからまた、3、40分もすると、これみよがしにもぞもぞして寝返りを打ち、腕時計を見てる。
 
 翌朝、その子に聞いたら、「いつも通り、一睡もできませんでした」
 それで言ってやったんです。
「お前、30分おきに目をさまして、腕時計を見ていたようだけど、その間は、よく眠ってたよ」
 そしたら、「えっそうですか」ってびっくりしていた。
 寝られてないと思い込むと、自分は寝てない寝てない、ってなっちゃう人もいるんです。
 
 で、この質問をした人の場合にはちょっといくつか理由があるのかな、って言う感じなので、いくつか試してみたいなと思うことがあります。
 でもね、まったく眠れていないわけではない、ということを自覚しているようなので、当面、そのまま寝といてもらえますか。
 あとで必ず対策を考えます。
 
 まず第1に、自分は寝られない訳じゃないんだ、と思うことが大事かなと思いますね。
 具体的にやることとしては、枕の高さ、枕の形状を変えてみる。枕を取ってみるとかね。枕でずいぶん変わります。
 いびきも、寝る姿勢や枕でずいぶん変わることがあります。
 まずは、すぐできることは、枕の高さを変えてみる。わざと高くしたり、枕をとったり、うつぶせになったり。いつもと違う姿勢で寝ることをまずいくつか試してみてください。

 

〈お母さん〉

 ……反感買うかもしれないけど、寝ないといけない? 寝なくてもよいのではないの? って。

 

〈お父さん〉

 そうだよね、眠れなければ寝ないことだね。

 

〈お母さん〉

 寝よう、寝ようとするから苦しくなるんで、そしたらね、そういう考え方でいると自然に眠れてくるし、寝なきゃいけないって思わない方が良いと思うんだよね。
 だから、じゅうぶん、目をつむって身体を横にするだけで、休むことはできます。これ本当です。ぐうぐう寝るから休めるって事じゃなくて、横にしてるだけで体力も回復します。

 

〈お父さん〉

 そうだよね、目をつむって横になってたら、脳も休むんだ。

 

〈お母さん〉

 立って寝てたらつらいけど。

 

〈お父さん〉

 夜、寝ない魚もいるんだよね。
 渡り鳥で、30日くらい飛び続ける鳥がいる。
 寝なかったら、ふつう死んじゃうでしょ。
 
 それがね、どうしてるか知ってます? 右脳と左脳、片方ずつ休みながら飛んでるんです。左脳だけで飛んだり。それで、右脳が、起きたーなんつって、左脳が、カカカって寝る。
 片方ずつ。それで、眠ったことになってるんです。
 だから人間も、片方だけ。右脳だけ寝てみようとかすれば、眠らなくていいかも。

 

〈お母さん〉

 笑い話じゃなくてほんとに、寝なきゃいけないと思うのはやめときな。

 

〈お父さん〉

 何かっていうと、もしも目をつぶってじーっと横になってたら、少なくとも脳の運動機能は休むし、視覚を分析する脳も休まるし、聴覚で判断するのも休まるし、ほとんどの脳は休んでると思ったら良い。
 眠れないーと思ってる脳だけが起きてる。みたいなね。

 

〈お母さん〉

 そう、楽しい事をどんどん考えてたら、そしたらね、眠らんとこう、と思っても寝てしまったり。
 そういうこともあるね。それも試してください。
 目をつぶってね、つぶれなかったら、飛行機でもらって来たアイマスクがあるから取りに来てください。

 

〈お父さん〉

 アイマスク……、でもねえ。

 

〈お母さん〉

 いらないけどね。なんかいっぱい集めて ちがうか。
 まあ、寝ようと思わない。そしたら眠れるから。ほんとの話。

 

〈お父さん〉

 僕、今朝、思ったんだけどね、キジバトがばたばたっと飛んで上がるのを見てね、
 だいたいキジバトは夫婦でいるんだけど、これから老夫婦になったらどうするのかなあって。
 
 朝来るときにさ、飛んだじゃない。
 瞬間的にね、あそこに、下に狐が住んでるのよ。例えば人間で言うと、夫97歳とか、妻93歳とか。老夫婦で、キジバトで、まあ車が来たら飛び上がったんだけど、それが飛び上がれないくらい、「ああワシも歳だー」みたいな。
 キジバトの死骸ってないでしょ。
 飛び上がれないと思ったら、車にひかれるんじゃなくて畑でうずくまって、 狐に喰われるわけだ。
 何を思うのかなと思ったら、狐の口に入った途端、(ああ、あったかいなあ。良い湯だな)みたいな、そんな気持ちで、死んでいくんじゃないかなと。

 

〈お母さん〉

 良い死に方するね。

 

〈お父さん〉

 なんでそんな話を今するか。
 僕は、子供のとき、昼寝を絶対にしたくなかったんだね。
 昼寝するっていうのは、気を失うということでしょ。死んでしまうに等しい。眠ったら起きる保障もない。なんか自分が寝てるうちにみんなが楽しいことをしちゃったらどうするの。
 寝るのが嫌だった。絶対に正気を失いたくなかった。
 眠るという行為は僕にとって死に等しい。正気を失うということ。
 でもそれと、死ぬということの境目が僕にはあまりない。
 
 だから、良い湯だなあ、いいなあ、と思いながら死んでいくキジバト。
 それと、眠たいなあって昼寝するのと、夜眠るって言うのは、一緒なんだよね。
 だから、眠れない人は、気を失うのを怖がってる。
 目が覚めないかもしれないとか、自分が寝てるうちに何か良いことが起きるかもしれないし、悪いことが起きるかもしれない。それを知ることができないのは嫌だと。
 
 で、傷ついた人は案外そうだと思う。
 気を失いたくない。
 みんなが酔っぱらってても自分は寝たくない。
 兄妹が昼寝してると、こいつら、呑気に寝やがって、と思ってしまう、そういう人は夜眠れない。
 どこか自分に、眠りたくないという願望があるんじゃないかな。
 正気を失いたくない、死にたくない。
 それだから寝てもぱっと目が覚めて、「世の中はどうなってる!」
 
 それを諦めて、もう2度と目が覚めなくても良いです。僕は、私は、いいです、諦めます! 寝ます。ぐう。みたいな。
 私も狐に食われるキジバトみたいに、あったかくて良い気持ちで寝ようと思えばいいんだよね。
 死ぬ事を怖がらない。正気を失うことを怖がらない。そうなったら、眠れます。









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第52回「何のために変わるか」
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