スプリングコンサートの時や、その後のみんなのライブで、ステージや大勢の人の前で役者をやったり、歌を歌ったりできる人がすごいと思いました。
のびのびとしていて、なんかキラキラしていて、そういう人たちは普段の生活でも、口調がはっきりしていたり、自分にこもってる面がなかったりすると思いました。
それに較べると、自分は人前に出ると誰よりも極端に緊張してしまうタイプで、普段の心持ちから、ちょっと内向きすぎるのかなと思いました。もっと外向きでなければならないと思うし、もっとはっきり喋るとか、意識して変わっていかなくちゃいけないと思いましたが、お父さんはどう思いますか。
人の心は、やはり外に向かって開いている人と、閉じ気味の人とがいるでしょうね。
心の間口が100%あるとすると、3%ぐらいしか外に開いていないとしたら、心の97%は内向きになっているという感じですよね。
目は心の窓、という言葉があるけど、人の心を1軒の家に例えるとすると、玄関のドアを開いている人、廊下のガラス戸も開いている人、二階の窓も開け放って、家の中がまる見えに見えるくらいの人もいると思います。
そんなふうに、外に向かってドアというドアが開いてる家に住んでいる人と、閉め切っている家に住んでいる人もいる。
玄関のドアも閉じて、廊下の引き戸も窓も閉め、雨戸も引いて硬くガードをした上に内側ではカーテンも閉めてみたりする。家の中は窺えず、真っ暗で、なかに人がいるのかいないのか、それもわからないという家もある。
心を開いている人と、心を閉じている人は、そんなそんな違いだと思うんだよ。
そこで、普段から自分の心は絶対に人には見せたくないという人が、ステージで役をもらったとして、感情的な台詞、情緒的な台詞を舞台の上で言おうとしても、自分の心を人に見せようと思ったことがないから、それは緊張するでしょうね。
雨戸を閉め切って、家の中で一人芝居をしている人は、人前でやるとなれば緊張する。
そういう人とは反対に、心をいつもオープンにしていて、家の前を通る人に、いつも家の中から声をかけたり、通りを行く人から声かけられたりしている人は、人との感情のやりとりを常にしているので、ステージの上で役をもらって人前で演じるとなっても、普段の生活とそんなにギャップがないから、やりやすいと思います。
そういう違いでしょうね。
そういうふうに周囲の人を見てると、何%ぐらい心が開いてる人か、それとも心を閉じてる人かって、およそわかると思いませんか。
誰が見ても、はっきり外向きの人と、内向きの人って、わかることがあると思うよね。そういうものだから、意識して外向きになるってことが、大事なんじゃないのかな。
この前、俺は駄目だって落ち込むのは簡単。反対に明るく楽しく前向きに生きて行くぞっていうのも実は簡単だ。しかし、この二つを同時に持つのは強靭な精神力が要るという向上心の話しをしたんだけど、誰だって一生懸命やっていたり、目標を持って生きているひとは、その目標が達成できなかったということも度々、出てきます。
だから、前向きな人ほど必ず、うまくいかなかったという悩みや、私は駄目だっていう気持ちを持つ場面が出てくるんです。
心をオープンにしたら、悩みがなくなるということではないですからね。
だから心を開いている人というのは、そういう落ち込んだ時にでも、悩んだときにでも、オープンに悩むということなんですよね。
でも、いつも明るい人でも、悩みをすっとばして明るく振る舞っている人もいる。
開け払っているのは玄関だけで、玄関先で暮らしている。しかし、家の中には開かずの間というのがいっぱいあって、自分もその部屋には入らない。
いつも玄関先に座って、明るい笑顔を道行く人に見せているけど、浅くしか生きていないんだね。辛いこと、苦しい事は、部屋に閉じ込めて、絶対に見ない。
こういう明るさというのは、人生を上滑りさせるだけなので、意味のない明るさだということになります。大きな家に住んでいても、開かずの間だけで、実は玄関を入ったところしか使っていない、ということですから。
どの部屋もちゃんと使っていて、しかもオープンにしていく、というのが難しい。
何もかもが全て順調です、という人生って、どこにもないと思います。
とてもうまくいっていて、人から羨ましいと言われるような人には、それだけ大きなハードルが必ず用意されています。誰もハードルを越えながらの人生で、例外はないですから、それぞれのハードルを越えながら、その越える部分もオープンにしながら生きていく、という志をもったならば、人前で役を演じたり、歌を歌ったりというのも、堂々とすべてを見せていい、とできる。その覚悟がキラキラとして奇麗に見えるのではないでしょうか。
ちなみに、ハードルというのは思いがけないところにあるものだと思います。例えば、物書きをしていた頃に、人からは「いい文章を書く苦しみ」が物書きのハードルであり、そこを越えるのが物書きの才能ですよね、と思われていました。しかし、実際には物書きに一番、必要とされる才能は「取材が捗っていないのに迫り来る締切に耐えて逃げない精神力」なんです。人からは想像できないところでいつも苦しんでいましたね。
(2022年5月18日掲載)
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