【2月号⑬】「イエローファミリー ただいま糀中! ―― 味噌造りの始まりはじまり ――」 ひろこ

味噌造り第1弾が始まりました。なのはなファミリーでは米糀から全て手作りで味噌を仕込みます。今年の味噌造りは全4弾に分けて行う予定で、7樽分の味噌と塩糀を造ります。

 

 味噌造りが始まりました。
 今年は、全四回に分けての糀作りを行います。今年は、味噌を合計七樽、仕込むことになります。最後の回には、味噌に加えて塩麹も作る予定です。
 なのはなの味噌造りは、糀を作るところから始まります。
 糀は、子育てに、とても似ています。私達は糀のお母さんとなり、夜中も一時間おきに見回りをし、見守り、育てていきます。
 第一回目のメンバーは、ゆりかちゃん、なるちゃん、よしえちゃん、どれみちゃん、しなこちゃん、なつみちゃん、りんねちゃんと私の八人です。
 チーム名は、わりと早い段階で決定しました。そのお話は後ほど。
 お米は、みんなで作った、なのはな産のお米『ミルキークイーン』です。ミルキークイーンは、もちもちしているので、糀を作るには難しい品種ではありますが、味は良いです。ミルキークイーンを使っての糀造りを重ねてくる中で、改善点を見つけ、より良くしていけているように感じています。

 

■三十升

 一日目は、お米研ぎをしました。味噌一樽に使うお米の量は、十五升。一回戦で二樽分を仕込むため、三十升のお米研ぎを六人で行いました。お米に糠が残っていると、菌が繁殖しにくくなるため、普段のお米研ぎよりも、回数を多く、しっかりと研ぎます。
 研ぐ量も、回数も多かったけれど、お米研ぎのベテランメンバーで、とてもスムーズに、手早く、とてもキレイに研げました。
 お米は最低十五時間、水に浸ける為、十六時までに研ぎ終える目標でしたが、十五時三十分前には、研ぎ終えることができました。

 

 

 並行して、道具の準備も進めてくれていて、せいろや茶こしなど、種つけに使う道具のほか、ポットや柄杓、小物類を準備し、お米研ぎの後からは、育苗箱の熱湯消毒と、育苗器や作業台のセッティングを手分けして行いました。
 私は、育苗器のセッティングをしました。床にビニルを張り、土台としてコンクリートブロックを六つ置いて、その上にベニヤ板を置きます。そのベニヤにもビニルを張りました。
 糀を育てるときには、湿度を保つため、どうしても湿気で周りが濡れてしまうので、ビニルを敷きます。そして、育苗器の下にも空間を空けます。

 

■糀のお家

 糀の育苗器は、なのはなファミリーオリジナルで手作りです。ベニヤの上に、ラックをセットします。そして、そのラックをビニルで覆います。このビニルは、糀作りのラック専用で、型ができていていて、上からそのまますっぽりと被せて使うことができます。上には水蒸気を逃がす、煙突の役目を担うペットボトルを通せる穴が空いています。何年も前に先輩方が作って下さったものですが、今も大切に残って、使わせてもらっています。
 湿度や温度が外に逃げないよう、ビニルは裾もしっかり留めました。

 

 

 そして、その上から布を被せます。この布も育苗器専用のもので、上に煙突を通す穴が空いています。さらにその上から、四枚の毛布で覆います。温度を保つ、保温の為の毛布です。温度調節で、毛布を掛けたり、はぐったりします。
 毛布をセットしたら、外観は完了。後は、育苗器内部のセットです。保湿の為、電熱器を置いて、その上にお湯を入れた小鍋を置き、加湿します。
 それから、糀の温度を測るための温度計をセット。左右共に上段、中段、下段、計六カ所にセットしました。同じ空間であっても、糀は、ラックの棚の位置によって、温度の違いが出ます。温度計が六箇所にあることで、温度の変化が分析しやすくなったり、対策がしやすくなりました。

 さぁ、これで準備完了です。これで、糀を迎える準備ができました。
 翌日の段取りをメンバーと確認し、解散しました。

 次の日、二日目。
 お米を浸漬してから十五時間以上経った、朝七時すぎから、お米の水切りを行いました。お米に水がついていると、その部分がべたつき、蒸しが均一にならないためです。
 均等になるように、お米をザルに上げ、水気が切れやすいように、ザルを斜めにして、たてる工夫もマニュアル化されています。
 水切りをしてくれている間に、私は、りんねちゃんと、種糀を等分に量り、分ける作業を行いました。

 

■繊細な糀菌

 種糀は、見た目も色も抹茶そっくりです。お米三十升に対して、四十五グラム使います。くしゃみをしたら飛んでいってしまうくらい、軽く、繊細です。
 この菌たちが、お米について、糀になるのだと思うと、とても不思議に感じました。四十五グラムを量ると、それを二等分し、さらにそれらを六等分し、全部で十二等分になるよう、均等に分けました。

 

 

 一時間三十分ほど水を切ったら、蒸米を行います。お米を蒸すことで、米についた雑菌を消し、酵素の作用を受けやすくするために行います。
 この、お米を蒸すのが、とても重要なポイントになります。ミルキークイーンは、モチモチしているので、蒸しすぎず、且つお米の芯が残らないように蒸す、蒸し加減がとても重要になってきます。蒸籠には、ゆりかちゃんとなるちゃんがついて、蒸し加減を見てくれました。
 途中で、みんなにも状態を共有してくれて、あと三十秒、これはもう良いねなどど、みんなで確かめ合って、私自身も良い『ひねりもち』の加減を学ぶことができ、嬉しかったです。

 


 

 お米が蒸せたら、種つけ台に移し、冷却をします。うちわで扇いだり、シャモジでほぐして、温度を人の体温より少し高めの四十度ほどに冷まします。その後、いよいよ種つけです。良い蒸米に種糀をつけてやると、表面がしまり、米粒内部に糀の菌糸が良く入った糀『つきはぜ』になります。
 種つけは、種糀が蒸米一粒一粒に付着するように、蒸米の塊をほぐして攪拌し、糀菌を、茶こしを使って、まんべんなく、お米の全体にいきわたるように振りかけていきます。

 

〈種糀を振りかけた蒸米〉

 

■糀は一人で歩かない

 『糀菌は、一人で歩かない』と言われています。自分で移動ができないので、種つけの時にむらができてしまうと、一部の米粒に糀菌が繁殖できないので、全体に行き渡らせることに注意し、行いました。これが、難しさもあるけれど、楽しいです。
 それから、お米の表面に傷をつけるように手の平を使って、お米研ぎにも似た手つきで擦り、お米の内部に菌が繁殖しやすくします。一粒一粒にまんべんなくつけていきました。種糀が緑色をしているので、全体に行き渡っているかどうか、目で確かめることができました。

 次は、菌をつけたお米を育苗箱に入れて、なまこ型に成形しました。このときのポイントが、お米同士を密着させることで、そうすると菌が繁殖しやすくなるということでした。
 蒸籠一つにつき三等分にしていくのですが、ここでは、全体を四角く形取り、それを三等分してから育苗箱に移すと、うまく等分することができました。温度が下がりすぎないよう、手早くやることがポイントです。やりながら、やりやすい方法や、上手くいく方法を見つけていき、みんなで共有して次の回や来年に活かしていけることが、嬉しく思います。常に、そういう意識を持って作業を行っていきたいと思います。

 

 

 なまこ型にお米を寄せ、蒸しタオルをかけた糀箱は、「引き込み」といって、先だって用意していた育苗器(糀室)へ入れます。全部で、三十六箱の育苗箱があり、それらがすべて入る育苗器(糀室)です。すべてが揃い、いよいよ糀の生育が始まります。
 糀室の中で、種つけした糀菌の胞子が発芽して、菌糸が繁殖しやすい環境を保持します。
 繁殖に最適な温度を保った環境のもとで、蒸米についた胞子は水分を吸収して発芽し、菌糸を伸ばし始めます。菌糸の増加に伴い、熱と二酸化炭素を出します。
 さぁ、これからは、一時間おきに見回りをし、糀菌の繁殖に最適な温度、湿度を保っていきます。

 

 

■イエローファミリー

 さて、ここで、私たちのチーム名のご紹介を致します。
 二日目の朝に、なつみちゃんが家庭科室に入ってきて、そこにいるみんなを見て、「イエローファミリーだ」と言ったのがきっかけでした。
 なぜイエローかというと、全員が黄色のバンダナをつけていたからです。そういえば、一日目も全員がイエローのバンダナをしていました。
「それ良いね!」とその場で決定しました。
 『イエローファミリー』は、お父さんがウインターコンサートの練習時に、『ビューティフル・ピープル』の衣裳を着たみんなを見て、「イエローファミリー」と言っていた言葉からきていますが、その『イエローファミリー』を貰いました。
 糀の名前は、味噌メンバーでランニングをした時のお題まわしで考え、その中から多数決で決めました。
 どれみちゃんの「まろろん・もんろー」、なつみちゃんは「こめこうじん」など、面白い名が挙がり、どれにしようか迷いましたが、多数決により決まったのが、なるちゃん考案の『おはぜ と はぜきち』となりました。左側の列で育苗している糀達が、おはぜ。右側がはぜきちです。
 和風なところが、味噌にも糀にもぴったりだなと思い、愛着も湧き、嬉しかったです。

 

 

 話は手入れに戻りますが、二日目の夜は切り返しと言って、米粒をよくもみほぐして、全体によく混ぜる、『床もみ』ともよばれる作業をしました。
 米粒同士が接している部分は、糀菌が繁殖できないため、糀菌を米粒にまんべんなく繁殖させるために、米の塊をほぐして全体を攪拌しました。
 糀にかけていたタオルをはぐると、まだうっすらと全体が緑色をしていますが、全体にうるみが出て、わずかにですが、白い斑点が見えてきました。
 再びなまこ型に形成し、次の盛り込みの作業まで、品温三十一度から三十五度をキープし、手入れ時には三十六、七度にもっていきます。

 

1時間ごとに見廻りをして温度と湿度を記録

 

■はぜる

 二日目は、家庭科室の隣の部屋の音楽室で休み、夜中も一時間おきに、交代で見回りをしていきました。
 私は、糀を見廻る夜が好きだなと感じます。緊張もするけれど、糀が生きていると感じること。良い糀ができるように、みんなで見守り、気持ちを添わせることができるのが、嬉しくて、その空気感に幸せを感じます。眠さも忘れる位、糀が好きだなと思います。

 三日目の朝は、盛り込みという手入れをしました。
 タオルをはぐると、米粒に白い斑点がみえ、糀菌の菌糸が見えて来ました。
 糀菌が米の表面に繁殖することを、「はぜる」と言いますが、私達の糀の名前の、おはぜとはぜきちの由来は、ここから来ています。
 繁殖の状態を『はぜまわり』と言いますが、この時点で丁度、理想的な三割ほどになっていました。

 日中は、外気温が高いこともあってか、温度が上がりやすく、それも右側のはぜきちの、真ん中の段が特に上がりやすく、下段が低いという特徴がありました。何回か、段の入れ替えをし、温度の調整をしていき、夕方の一番手入れを、良い状態で迎えられたと思います。
 一番手入れでは、タオルをはぐると、真っ白い見た目でふわふわ感があり、感動しました。そのふわふわ感は、自分の目がぼやけているのかと思うような、見た目をしています。

 

一番手入れ時の米糀の様子

 

■ふわふわ

 箱からはがしてみると、もうすでに糀によって繋がれた米は板状になりつつあり、良いふうに繁殖が進んでいることを感じ嬉しかったです。
 今回、おはぜとはぜきちでは、おはぜのほうがよく繁殖していて、真っ白く、ふわふわ度が高かったです。
 すべてが同じというわけにはいかず、繁殖の進み具合は、育苗箱によって違いが出てきます。
 それは、蒸し加減であったり、かけている布巾の種類であったり、それまでの温度の経過であったり、色々なことが関わり、良し悪しがあるのだろうと思います。何が良かったのかを追求し、考えることも面白いなと思いました。
 失敗はないけれど、まったく同じという守りの姿勢ではなく、良かったことを次に活かし、より良くしていきたいです。

 

 

 手入れとは、蒸米を手で攪拌することを言いますが、その手で感じる温度でも、糀菌が生きていることを感じます。
 攪拌することで、熱が放出されて品温が下がり、同時に酸素が供給されます。一番手入れでは、なまこ型の真ん中にくぼみをつけて、品温の上がりすぎを防ぎました。

 本当に糀が生きていて、私たちの声も気持ちも受け取っているのだなと感じ、とても可愛いです。
 改めて、糀造りが楽しくて、大好きだなと感じます。
 メンバーのみんなと楽しく、優しい空気で糀作りができる時間が、幸せに感じます。
 今月号の山小屋便りはここまで。おはぜとはぜきちの旅立ちである、味噌の仕込みについて書けないことが残念ですが、また今後の味噌造りについては、来月号やホームページでお楽しみ頂けると嬉しいです。