【5月号⑱】「駆けて、撒いて 遊んで、虹を見て」 えみ

 

 冬を越し、春になって暖かくなったかと思えば、もう今シーズンの田んぼの準備が始まる季節です。トラクターかけや代掻きが始まる前に、田んぼの肥料入れを進めました。

 今年、なのはなで稲を育てる田んぼは、大小合わせて十四枚。全部で約三町分です。
 それぞれの田んぼに、一反当たり約五百キロ分の牛肥を元肥としてやることを、まえちゃんが最初に話してくれました。

 田んぼの肥料入れ、一日目。
 この日の午前中は、まえちゃん、ゆりかちゃん、ちさちゃんとの四人で、主に軽トラを使って面積の広めの田んぼを回っていきました。
 軽トラに牛肥を積んで、田んぼの中をゆっくり走りながら荷台から少しずつ牛肥を落としていく方式にすることで、少人数でも効率良く肥料まきを進めていくことができました。

 

 

 私は、まえちゃんと一緒に最初は那岐山三反田んぼに行きました。この田んぼには全部で軽トラ四杯分の牛肥をまいていきます。田んぼ全体に均等に撒いていくのはすごく難しかったけれど、まえちゃんと、どうやったら効率良くできるかを考えながらできた時間が楽しかったなと思います。
 途中で町川牧場さんに牛肥をもらいに行かせてもらって、毎回エルフ山盛り一杯に快く積んでくださるのがとてもありがたいなと思いました。

 

■均等に撒くために

 同じ時間には、ゆりかちゃんとちさちゃんが石生方面の田んぼを進めてくれていて、二人は午前中だけで軽トラ八杯分と、ものすごいスピードで進めてくれていました。

 この日の午後からは、さらに何人か加わって、軽トラチームとエルフでのバケツリレーチームに分かれ、私も途中からはエルフチームに加わりました。

 

 

 最初に向かったのは、光田んぼ上下。この二枚の田んぼでは、まえちゃんがあらかじめ計算をしてくれていて、それぞれ、テミ約百杯分を撒いていきました。
 どうやったら効率良くできるかをみんなで相談した結果、上の田んぼは全体を八等分して、それぞれが十三杯ずつ撒くことに。下の田んぼは、少し急斜面になっている畔が間にあったこともあって、全体を十等分してみんなでバケツリレーで繋いでテミ十杯ずつ撒いていくことになりました。

 光田んぼ上では、みんなで最初に畔に並び、まえちゃんが反対側の畔から見てくれて、綺麗に八等分になるようにそれぞれ目印として木の棒などをさしていきました。隣の人の目印の間に自分はまくんだ、そう思ってどこにどれくらい撒いたらいいかがはっきりすると、すごく分かりやすかったなと思います。

 

■掛け声とともに力が湧いて

 いざやり始める前までは、かなり二枚の田んぼが広く感じていいたけれど、みんなの活気のある空気の中で思い切り動いているとあっという間に感じました。バケツリレーで「はい!」と次の人に繋ぐ掛け声が響いていて、その流れの中にいると、不思議と、力がどこからともなく湧いてくることを感じたなと思います。無我夢中になってやっていると、いつの間にか残り少しになっていたりして、一瞬にしてみんなと二枚の田んぼを終わらせることができました。
 
 あとから田んぼを見下ろすと、二枚とも牛肥のラインが均等についているのが見えて、すごく嬉しかったなと思います。
 続いて向かったのは、池下田んぼ。この田んぼは光田んぼと比べるとすごく小さく見えました。田んぼに到着した瞬間、「これなら一瞬で終わりそう!」と疲れも吹き飛んで、一気にやる気が湧いてきました。
 この田んぼは、一人テミ六杯分を撒くだけで、全体に満遍なくまききることができました。

 

〈ストレッチで一休み〉

■牛肥まき民族

 この日ラストの肥料入れは、カーブミラー田んぼ。この田んぼはかなり奥行があって、みんなで奥まで繋いでも先頭の人が豆粒のように小さく見えるくらい。
 でも、みんなで繋いでいくと、手前に近づいていくごとにどんどんみんなとの距離も近づいていくのが嬉しかったし、絶対に終わらせられるという希望が見えてきました。

 途中、牛肥が足りなくなって、まえちゃんが町川牧場さんに取りに行ってくれている間、同じ時間に、軽トラで石生方面の田んぼを進めてくれていたゆりかちゃんとちさちゃんと合流しました。軽トラを降りてこちらに向かってくる二人の顔を見て、それから周りにいたみんなと顔を見合わせて、びっくり。無我夢中で牛肥撒きをしていると、いつの間にかみんなの顔も牛肥でパックされていて、ほりの深いどこかの民族のような顔をしていました。
 ゆりかちゃんが、「同じ民族の人に再会したみたいで安心したー!」と言っていたのが面白かったし、自分たちも、二人が来てくれて、とても嬉しかったなと思います。

 

 

 しばらくすると、ブーンというエルフの音がして、まえちゃんが牛肥山積みのエルフと共に帰ってきてくれました。
 ここで、牛肥撒き再開。途中からは、テミを持ったらそれぞれで撒いていく方式に変更し、最後、広い一枚分の田んぼを撒ききったときには、何にも代えられない達成感を感じて、心の底から満たされていくことを感じました。

 雨などもあって、一週間ほど経った晴れの日に、残りの田んぼの肥料入れを進めました。この日は休日で、お仕事組さんもいてくれての大人数作業。たくさんのみんながいてくれると思うと、それだけで心強かったです。

 残っていた諏訪神社方面の六枚の田んぼを進めました。
 一日目と同じように最初はバケツリレーで繋いで奥から撒いていくことになりました。エルフの上には、まえちゃん。そこからみんなが繋いでくれて、先頭のさやねちゃんと二人で撒いていくことになりました。

 

 

 バケツリレーの流れが動き始めると、次から次へと牛肥の入ったテミが回ってきます。みんなが繋いでくれたテミを一番手前のももかちゃんが、「はい!」という元気な掛け声ととともに渡してくれました。その声を聞くと、自分も頑張ろう、という気持ちになって、さやねちゃんとひたすら田んぼの入り口側に向かって撒いていきました。
 自分たちが撒きやすいように、一杯分ちょうど撒ききったところに次のテミを置いてくれていたりして、とても動きやすかったなと思います。

 残り十テミくらい、というところになると、まえちゃんが、「テミを持った人から撒いていきまーす!」と声をかけてくれました。それから、一面撒き終えるまでかかる時間は数秒。人数がいるとあっという間に終わり、次の田んぼへと進んでいきました。

■草笛と、こしょこしょ話と

 その後もスムーズに進めていくことができ、四枚目の田んぼが終わったところで牛肥がなくなって、しばらくの休憩。
 まえちゃんが、またもや牛肥を取りに行ってくれている間、みんなとピーピー草を鳴らして遊んだり、まなかちゃんが声をかけてくれて、みんなで伝言ゲームをして遊んだりした時間も楽しかったです。

 さやねちゃんが隣で「ピーピー」と可愛い音を鳴らしているのを聞いて、私もやってみたい! とやり方を教えてもらったのですが、最初は何度やっても音が出ませんでした。スズメノテッポウの穂をすっと抜いて、それを口にくわえて吹くのですが、初めは息を入れても息の漏れる音しかしませんでした。

 途中でまなかちゃんにコツを教えてもらって、音が出せるようになった時は、すごく嬉しかったなと思います。みんなで音楽を奏でるみたいに吹いている時間が、楽しかったです。

 

〈音が出た! 草笛〉

 

 伝言ゲームでは、まなかちゃんがお題を出してくれて、隣の人にそれを、こしょこしょ話で伝えて、最後の人が伝わってきた言葉を言う、というものでした。まなかちゃんの考える独特の文章が面白くて、それが人を介して少しずつ変わっていってしまうのも、何だかおかしくて、たくさん笑ったなと思います。

 

 

 みんなと盛り上がっているうちに、エルフが到着。気持ちも身体もリフレッシュして、残りの二枚の田んぼも、みんなで協力して、あっという間に終わらせることができました。

 

〈町川牧場さんで、牛肥を積んでいただいています〉

 

 でも、まだ時間がある! ということで、残りの時間で、これからサツマイモが植わる予定のかちかち大畑と、川向う畑の二枚の畑にも肥料入れをすることになりました。

 かちかち大畑は、普段、畑作業をしていると広く感じるけれど、広い田んぼにずっといたからか、ものすごく小さく見えたのにはびっくりしたなと思います。畑の真ん中くらいまでいったところで、誰かが、「あ、虹が出てる!」と教えてくれました。見ると、西の空に真っすぐな虹が。雨は降っていないのに、と少し不思議に思ったけれど、それから古吉野なのはなに帰る道中やグラウンドでも、みんなと見られたことが嬉しかったし、何かいいことがありそうだなと思いました。

 

〈帰り道に見えた虹〉

 

 みんなと思い切り走り回って、笑って、八枚の田んぼ畑を回った午後が、とびきりの幸せの時間でした。
 これから、播種や田植えなど田んぼの一大イベントが待っているのがすごく楽しみだなと思うし、今年の稲たちが、元気に育ってくれたらいいなと思います。