【5月号⑲】「信じて、見つけたい  ―― 『ジュラシック・パーク』山小屋キャンプを創りながら ――」 あけみ

 

 地球が誕生したのは約四十六億年前。人類が誕生したのは、およそ五百万年前。それよりもっと昔の話……、二億三千万年前から六千六百万年前という、人類から比べるとはるかに長い期間、この地球という天体で生命をつないでいた生物がいました。

 小さなころの私には、大好きな本がありました。そのころの私には大きくて重い特別な本。開いてみると、今の私の世界よりもはるかにスケールが大きく、壮大な世界が広がっていました。嘘みたいな本当の話……、〝恐竜〟です。

 今、私達が立っている大地の上にも存在していたかもしれない、恐竜の世界。いまだにわからないことが多くて、色や形、声や動き、私の想像は膨らみました。そこにある草木も景色もはるかに大きく自由で、原始的な命の温かみのある世界が広がります。その世界に入りこみ、その一部になる感覚が好きでした。だから、小さなころの私の夢の一つには、”恐竜の化石発掘者”というものもありました。

 

 

 五月に行われる山小屋キャンプの準備と制作は、その小さなころの夢が、今なのはなで皆の中で叶うような期間でした。
 なぜなら、今回の山小屋キャンプのテーマは”ジュラシック・パーク”です!
 今回、私は、キャンプのウォークラリーで使われる、恐竜の化石発掘のアトラクションのためのものを、途中からでしたが、制作するのに入らせてもらいました。

 須原さんやさくらちゃん、るりこちゃん、さやねちゃんが制作する流れや工程を作ってくれていました。そして制作場となる籾すり機小屋に向かうと、小さな恐竜の骨格の模型がいくつか並んでいました。

 

■心遣いと遊び心

 今回の化石発掘のアトラクションは、山の中で恐竜の骨格のパーツが隠されていて、それを集め形にしていくというものです。
 形にしていくと、机の上では二十センチほどの小さな恐竜の模型は、十倍の大きさの二メートルとなって現れます。

 一体の恐竜をつくるための、一つひとつのパーツは多いもので四十パーツ以上でした。それを一つひとつ、まずは紙に描き写し、それを十倍したものを新聞紙に描いていきます。そしてその新聞紙を型にして、べニヤ板に形を描きだします。次に、ジグソーという電動のこぎりをつかってべニヤ板をカットします。パーツとパーツが組み合わさる部分は、とても緻密で繊細な作業が必要とされます。すべて、べニヤ板の厚みの十二ミリに合わせ、まっすぐに切らなくてはいけません。最後のほうでは、須原さんから教えてもらって皆で進めることもしましたが、カットの多くは須原さんが担当してくださいました。

 

 

 作業をしていく過程で、どの部分は質を落としてもいいのか、逆に絶対に質を落とせない緻密さが必要なところなのかという見極めが必要なのだと感じました。

 最初は、模型を完璧に再現しようとするあまりに、模型の型を測り新聞紙に拡大するのにとても時間がかかってしまいました。一緒にやっているるりこちゃんの作業からヒントをもらうことが多かったです。曲線やカーブがわかる、大体のポイントに絞りあとは目で形を合わせていったり、慣れてきたら省く工程をみつけていたり、一人では気づけないことがたくさんありました。
 逆に骨盤や、他の骨格と複雑に組み合っている部分は、繊細で緻密な計算や模型が重要となることも、やりながらですがわかってきました。

 どの部分がどのような繋がりになっているのか、全体図や全体とのつながりを把握したうえで、どこは質を落としスピードを取るのか、逆に質を取るのかの判断が必要だということを、やりながらで少しずつでしたが理解していけた部分もありました。

 

 

 べニヤ板からカットされた骨格は、サンダーという、サンドペーパーをつかって研磨できる機械でやすり掛けをしていきます。研磨した後は、べニヤ板がカットする際にささくれ立ってしまったり、割れてしまった部分をボンドを使ってなめらかにもしていきます。これは、須原さんが教えてくれたことです。組み立てる皆の手を、ささくれ立ったべニヤ板で傷つけないようにするための須原さんの心づかいでした。須原さんの作業や仕事から、こういった心づかいや、見た人に喜んでもらいたいという遊び心を感じました。

 

 

 そんな過程を通り、骨格となるパーツを一つひとつ作りためていきました。全てのパーツが出来上がると、一度実際に組み立てをしてみます。

 一つひとつの模型に描かれている番号と同じ番号どうしの模型の溝を組み合わせていきます。木と木を合わせ、ゴムハンマーでたたきピッタリと合い、どんどんと形が作られていくような感じは何度やっていてもとても心地よいです。

 そうやって、まず一体目のトリケラトプスが籾すり機小屋に現れました。その瞬間、私の中にいた小さなころの少女が飛び跳ねて喜ぶような嬉しいときめきを感じました。(これは絶対に皆も楽しい)(あゆちゃん、まえちゃんたちにも早く見せたい)と嬉しかったです。
 上手くいくことも、いかないことも創る過程にはあります。でも、皆の喜ぶ姿を思って須原さんに助けてもらいながら、さくらちゃんや、るりこちゃんなどと真剣に集中して、ものを作っているのがとても心地よかったし、その過程が面白いのだと思いました。

 こんなにも本格的に、スケール大きく本気に真剣に、誰かのために、なにかを、しかも恐竜をつくれるなんてとても幸せなことだと思いました。

 

■誰かの喜ぶ顔を

 四体の恐竜を作った後には、オブジェとなる大きな恐竜の制作が待っていました。高さ二メートル以上で長さも約三メートルになる大物です。その恐竜はブロントサウルスと言って、長い首と長い尾をもった草食の大型恐竜です。

 まず須原さんがオブジェの全体の構想を考えてくれました。べニヤ板で身体の芯になる部分を作っていきます。そこから木材で厚みを作る土台や足をつける土台を形づくります。
 身体のふくらみを土台に添ってつくるために、今回は竹を使用することになりました。大きなオブジェとなるため、少しでも軽量化するために須原さんが考えてくださいました。

 

 

 竹を竹林から取るところから行いました。取ってきた竹を三メートルほどにカットして八等分に割いていきます。割いた竹を骨組みにしていくように土台の木材にビスや針金を使って取り付けていきます。竹がしなりにくい場合は、竹をさらに割いたりあぶったり工夫をしました。首や尾などのさらに円周が小さくなる部分は太めの番線を使用し円形を出しました。

 その後、周りを紙や新聞紙などで形づくり色をつけ恐竜に近づけていきます。
「人が乗れるようにしたい」
「右足をすこし浮かせて、誰かここに踏まれているように見える写真が撮れるようにしたらどうか?」
「このオブジェをこうやってつくるのは、誰もが初めてのことなんだ」
 須原さんの言葉に、気づくことも多いです。
 どんな時も、誰かの喜ぶ顔を考えることや、頭や気持ちをつかって創るということの大切さやその過程での面白さなどです。

『創造的な活動は生命を維持するうえで不可欠な営み』
 私が好きなヤマザキマリさんの本の一部分に書かれていたこととつながるように感じました。また、なにかを創り、表現するとき、何が美しいのだろうか、美しいものはなぜ美しいのかと思いました。そう思ったとき、私のなのはなでの日常、自然の中にたくさん答えやヒントがありました。

 

絵や立体、様々な恐竜がアトラクションに登場します

■化石発掘者のように

 今回の作業では皆の手が傷つかないように工夫された模型、皆が達成感を持てるようにとかんがえ真摯に緻密に自分のベストで仕事に向かうさくらちゃんの姿、皆が楽しめたらと色々な企画や案、工夫をしていくお父さんお母さんはじめ、あゆちゃん、まえちゃん、皆の姿。その他でも周りを見たらたくさんあります。温かい気持ちで助けあって生きようとする皆の姿、仲間を理解し大切に思いながらささいなことで喜び合ったりお腹が痛くなるぐらい笑いあう時間、笑顔、声、自分たちのダンスや歌、演奏でいつかの誰かの力になれたらと表現をする姿、与えられた環境で精一杯で力を尽くそうとする野菜や桃の木や花……、私が美しいと感じるところには利他的な心や気持ち、つながりや存在があると気づきました。

 なのはなで行っている表現や作業は、自分をつくるための一つの手段と教えてもらっています。
 こんな風に恐竜を創りながらも、創る面白さや、美しさ、生きる面白さや心を喜ばせられるヒントを教えてもらっているように感じました。
 日々の中に幸せも、美しく生きるヒントも答えもたくさん隠れています。

 この地球で生かされている存在として、人智のこえた存在の一部としての自分の使命を信じながら、あるべき姿や道を求めながら、目の前の喜びや幸せを大切にし、美しく生きるためのヒントや答えを見つけ吸収しながら生きていくことが、大切なのだと感じました。
 嘘みたいな本当の話。私がいま見ている世界にも、私が見えていない世界や景色、気持ちや美しさ、ヒントや答えがまだまだあるのだと思います。

 小さなころに、恐竜の図鑑を広げ心をときめかせていたように、化石発掘者がそこにあると信じて化石を見つけるように、私も恐れずに信じて見つけたいです。

 恐竜が少しでも多くの皆に喜んでもらえたらいいなと思います。恐竜づくりで見つけたこと、気づいたこと、なのはなで今積み上げている自分の姿が、いつかの誰かの力になってくれたらいいなと思います。