【4月号③】「役割を果たす生き方を ―― 国立大学医学部に合格して ――」 E

 2月の終わりに大学の2次試験本番を受け、3月の頭に、合格発表がありました。
 なのはなのみんなの中で勉強組として約2年間勉強させてもらい、今年、国立大学医学部に合格することができました。
 この期間、色々と乗り越える壁はあったけれど、なのはなのみんなの中にいさせてもらったからそれも乗り越えてくることができて、合格をもらった時にも、本当にみんなの力でのものだなということをつくづくと感じました。
 今回受かっても、受からなくても、全部、運命は神様に任せよう。試験を受け終わってからは、ずっとそういう気持ちでいました。でも、合格発表の前日の夜は、やっぱり試験本番の時と同じくらい緊張して、あまり眠ることが出来なかったなと思います。

 

 

■合格発表

 ウェブ上での合格発表は、13時。お父さんお母さんもその場にいてくださって、一緒にその時間を待ちました。
 合格者の受験番号の一覧を開いて、その中に自分の番号を見つけた時、その瞬間はあまり信じられませんでした。でも、それが本当なのだと分かると、ほっとした気持ちになりました。
 隣では、お父さんが喜んでくださっていました。
 お母さんが、「本当におめでとう」と言って、力強く抱きしめてくださりました。
 嬉しいような、恥ずかしいような、でもこれも自分の力だけでなくてみんなにたくさん助けてきてもらって、そのことを振り返った時に、ああ、よかったなと思いました。

 昼食の席でお父さんがみんなに報告してくださって、みんなが、「合格のニュースが嬉しいです」と言ってくれて、そのことでやっと少しずつ実感が湧いてきたという感じでした。

 

 

■ここからが始まり

 ここからが始まり。そう感じたけれど、自分にはたくさんの仲間がいて、その存在の大きさを感じたと同時に、仲間の1人として、頑張りたい。そう思いました。 

 なのはなで勉強をさせてもらった2年間の中では、もちろん勉強が主ではあったけれど、日々の当番やイベント、コンサートに向けての練習など、みんなとの活動があって、その中でみんなの空気にたくさん引っ張ってもらってきたなと思います。

 勉強だけでは気持ち的に息詰まってしまうときがあっても、みんなと当番をしていたり、時には畑でみんなと作業したりして、そのことで不思議とまた頑張ろうと思える。その繰り返しでした。

 勉強自体のことでいうと、私は、高校を何とか卒業してからなのはなファミリーに来たのですが、ここでもう一度勉強を始めた頃は、かなりブランクがあって、ほとんど1からの勉強という感じでした。勉強の進め方に関しては、迷うことがあったら、その都度お父さんに相談させてもらって、アドバイスをいただきながら、基本は全て参考書や問題集を使って進めていきました。

 なのはなで勉強組として勉強を始める時に、お父さんが勉強のやり方の基本として教えてくださったことがいくつかありました。
 1つは、どんな勉強も、基本は暗記であること。どの科目も、最初から深く理解しようとするのではなくて、とにかく覚えることを繰り返していって、そうしたら、理解は後からついてくるということを話してくださりました。
 もう1つは、各教科を、15分刻み、長くても30分刻みで回しながら勉強していくこと。数学の休憩として英語、というように、同じ科目をずっと続けてやるよりも、短い時間で集中してやった方が、効率よく進められることを教えてもらいました。

 また、問題を覚えるときには、スピード重視で進めていくことも話してくださりました。
 例えば英単語であったら、1日10、20ほどを少しずつ覚えようとするのではなくて、忘れてもいいという前提で、1日200個単位くらいずつ何度も繰り返していくこと。

 それらのことを教えてくださって、これを勉強の基本として心に置いて進めていきました。
 共通テストでは、細かく分けると受験に必要な科目が全部で8科目ありました。その中でも、2次試験にも必要なのは英語、数学、生物、化学の4科目。
 夏くらいまでは、とにかくこの4つの科目の基本を固めていけるように、対策をしていました。

 

 

■数学と化学

 私にとって、特に苦労したのは数学と化学でした。
 数学の中でも、数Ⅲの範囲が、最初は一言でいうと「分からない」の連続。数学も基本は問題のパターンと答えを覚えていくことには変わりないけれど、自分の苦手意識が邪魔をしてしまっていました。それでも、何度も繰り返しやっているうちに、少しずつ少しずつ理解が追いついていく感覚はありました。

 ある時、お父さんが、数学と化学に関しては、自分の好きな分野、苦手な分野をはっきりと作ること。そして、まずは自分の好きだと思う分野からできるようにしていくことを教えてくださりました。

 それまで、自分はどこか勉強に関しては好き嫌いをあまり持ってはいけないものだと思っていて、全部をできるようにならないといけないという気持ちを持ちすぎてしまっていたなと思います。でも、好き嫌いを作ってしまっていい。そう思った時から、勉強も進みやすくなって、少しでも理解が進むと、それだけその科目自体が楽しいと思えるようになっていったなと思います。そして、最終的には、自分の苦手にしてしまっていた分野に関しても、それをとっかかりにして理解が追いついてくるのを感じました。 

 

 

■毎日の読み聞かせ

 また、医学部の試験には面接があり、自分にとって、それが一番と言っていいほどの壁でした。
 小さい頃から、人前で話すことがものすごく苦手で、それでいて自分の意志や考えを目の前の人に評価される面接となると、ちゃんとできるイメージが全く持てなくて、逃げてしまいたい気持ちが先に来てしまっていました。

 そんな状態だったこともあり、面接の対策としてお父さんお母さんが考えてくださったのが毎日の読み聞かせでした。
 夏頃からは、夜、消灯前に同じ居室のみんなに協力してもらって、昔話の朗読を聞いてもらいました。
 毎晩、毎晩、繰り返し読み聞かせをさせてもらって、少しずつではあったけれど、人前で話す怖さというのが減っていくのを感じました。

 ある時には、お母さんが、「たった一人でもいいから、その人に楽しんでもらえるように読むんだよ」ということを話してくださったことが、とても心に残っています。

 それまで、どこか、無意識に自分がどう思われるかばかり考えてしまっていて、受け身の気持ちが捨てきれませんでした。でも、目の前の人に楽しんでもらう。そのことだけで頭をいっぱいにすると、自然と怖さがなくなっていったなと思います。

 本番前には、お母さんやあゆちゃんに面接官役をしてもらい、毎晩のように練習を聞いてもらいました。
 本番で聞かれるかもしれないなという質問に対して、一通り答えを準備しておいて、それをお父さんにも見てもらって、最初は丸暗記しました。

 でも、それだと、当然ながら暗記した文章を読んでいるという感じになってしまいました。
 少しひねられた聞かれ方をした時には、途端に言葉が詰まってしまう。そこに難しさを感じました。
 練習の時に、お母さんが話してくださったこと。「目の前の人は、よかれの気持ちで聞いてくれていると思ったらいいんだよ」その言葉がすーっと心に入ってきました。

 

 

■すぐ後ろにみんなを感じて

 本番だけはどうなるか分からない緊張や不安というのはずっとあったけれど、何度も練習をさせてもらううちに、だんだんと自分の気持ちも固まっていくのを感じました。

 本番は、やっぱり緊張しました。でも、みんなにも協力してもらって、(やるだけのことはやったから、きっと大丈夫)。そう信じて向かうことができたなと思います。
 ゆっくり、はっきり話すこと。それから、目線を上にして話すこと。そのことだけを心にとめて、本番に臨みました。

 本番では、面接官の人が二人いて、一人の人は明るくて肯定的な人、もう一人は、少し表情が硬めの人でした。
 面接室に入って席に着くと、「まずは、全ての受験生にさせてもらっている質問です」と右側の人が最初の質問をしてくださりました。

 その内容を聞いたとき、内心ものすごく驚きました。
 というのも、それは、前日の夜に、もしかしたらこういうことも聞かれるかもしれないという質問に対する答えをお父さんに見てもらっていて、それとほとんど同じ内容だったからです。

 お父さんがこう話したらいいんじゃないかとアドバイスをくださっていて、だから、それにも詰まらずに答えることができて、面接官の人にも「分かりやすいですね」と言っていただけて、そのことが嬉しかったと同時に、とても不思議な気持ちになりました。
 面接で聞かれたことは、全部自分が事前に準備していた質問の中から聞かれたので、割とどれに対してもすらすら答えることができました。
 実際に試験を受けるのは一人でも、すぐ後ろにはみんなの存在を感じて、そのことを思った時に全然寂しくなかったし、勇気が湧いてくるのを感じました。

 本番までの過程も、本番も、みんなの力があって乗り越えられた、そのことを強く思って、本当にありがたいことだなと感じました。

 

 

■奇跡

 私がなのはなファミリーに来る前、症状のどん底にいた時には、勉強には全く手がつかない状態でした。ひどい時には、机を前にして五分も座っていることができない。それだけ集中力も続きませんでした。

 その時のことを今思い出すと、なのはなのみんなの中で心や身体を作り直してもらい、これだけ気持ち的にも落ち着いた状態で勉強ができていること、そして今回、医学部に合格させてもらったということが、奇跡だなと感じています。

 摂食障害になり、なのはなファミリーに来る前も病院やカウンセリングなどで治療は受けてきましたが、どこに行っても症状は治らなくて、誰にも理解されることはないのだと思ってきました。

 でも、なのはなファミリーのお父さんお母さん、みんなに縁あって出会うことができて、初めて自分のことを自分以上に理解してもらったと感じていて、本当に命を救ってもらったと思います。

 けれど、この世の中には、自分と同じように摂食障害で苦しんでいる人、そしてそうではなくても生きにくさを抱えている人たちが多くいるのだと思います。

 そのまだ見ぬ人達のために、少しでも生きやすい社会を作っていく。なのはなファミリーのような、みんなが安心して優しく生きられる世界を広げていく。

 そのために、自分に与えてもらった役割を果たす生き方がしたい、そう思っています。
 そのためのこの先の道のりはまだまだ長く、大変なこともあると思うけれど、同じ道を進んでいる仲間、すでに医師として歩んでいる卒業生、先を行く先輩たちがたくさんいて、そのことが本当に心強いことだなと思います。

 

 

■なのはなの子として

 11月からの期間は、医師国家試験に向けて勉強のために、卒業生が帰ってきてくれて、隣で一緒に勉強をさせてもらい、その存在に、たくさん助けてもらいました。そして、目の前の道を信じて真っすぐに進もうとする姿を見て、自分もそうありたいと強く思いました。
 これから大学での勉強が始まり、ここを離れることにはなっても、いつでも帰ってこられる家があること、なのはなと繋がっていられることが本当に幸せなことだなと思います。 
 そして、どこにいても、なのはなファミリーの一員として、これからも少しでも成長できるように精一杯頑張っていきたいです。