「情緒を深めること」 りんね

3月4日

〇情緒を深めること

 夕方のハウスミーティングで、情緒を深めることについて、質問させてもらいました。
 お父さんから、動物や魚、植物という生き物を、長く世話をして育てることや、魚釣りなどをして生き物と関わることが、情緒を育てることを教えてもらいました。
 また、情緒とは、「物言わぬ小さな生き物への気遣い、思いやり」とも言えるかもしれないね、と教えてもらったことが、印象的でした。
 種をまいて、野菜を育てる。その小さな命に思いやりを持って、手入れをしていく。なのはなの生活の中でも、そうやって情緒を深めていくことができるよ、と教えてもらいました。

 私は今、自分の中にある情緒がとても浅いな、と感じています。心の幅が狭く、その狭い範囲でしか感じたり、考えたりすることができていません。
 お父さんの、「物言わぬ小さな生き物への気遣い、思いやり」という言葉を聞かせてもらって、「そうか、情緒はそこにあるのか。損得とは全く無縁の、小さな生き物を思いやるところにあるのか」と、感じました。
 私は、損得を基準に行動したり、感情を動かしたり、ということが、とても多かったのだと思います。自分ではそうと思っていなくても、勝手に損得勘定が働いて、それに基づいて心を動かそうとしてきたから、情緒があまりにも浅いままだったのではないか、と思いました。
 でも、誰に見られているでもなく、誰から文句を言われるでもないけれど、ただそこに小さな生き物があるから、それを大切にする、手をかける、ということが、人として大切なことだった、と思いました。

 午後の作業で、りなちゃん、つばめちゃんと、ポポーの取り木をさせてもらいました。
 池上桃畑の奥、1本のポポーの成木から、取り木をする。はじめに、お父さんがやり方を教えてくれました。
 枝にナイフで切り込みを入れて、2センチほど、樹皮をはぐ。そこへ、水苔とシートを巻いて、キャンディのように両端を縛る。
 そうすると、樹皮をはいだ部分から、水苔に根が生えてくることを、教えてもらいました。
 ポポーは種から育てると、苗がある程度の大きさまで育つのに、かなり時間がかかってしまうけれど、取り木をすれば、すでにある程度大きく育っている枝を苗にすることができる、ということでした。今回は、23か所、シートを巻くところまで行いました。

 私は、「取り木」という方法を聞いたことも、見たことも、初めてでした。
 なのはなで知る前までは、植物は「種」から育つもの、だと思っていました。それが、取り木、挿し木、接ぎ木という、種から育てる以外にも、新しく植物を育てていく方法があることを知り、実際に、そうして木が根を張って成長していく様子を、見させてもらっています。

 はじめて、枝から根が生えて、さらに芽が出て、木が育っていくということを知ったとき、本当に驚きました。また、あんなちゃんが桃の木について教えてくれたときに、木が危機を感じたとき、木の、元々は芽が表面上にないところから、芽が出てくることもある、と教えてもらったときも、驚きました。
 植物は、予想をはるかに超えるくらい、神秘的なまでの「生きようとする力」を持っていることを感じました。幹から切り離された枝でも、水分さえあれば、そこから根を伸ばす。生きられる環境があるなら、必ず生きようとする。
 そして、根を伸ばして新しく芽吹いた緑の葉は、瑞々しく光を放つようで、ものすごく美しいと思いました。

 植物だけでなく、きっと生き物全体にとって「生きようとする力」は普遍的なものだと思いました。
 私たちは摂食障害になって、生きづらさを抱えていて、自殺まであるくらい深く傷ついてしまっています。けれど、生き物としての根本には、何があっても生きようとするとてつもなく強い意志がある。私たちの中にもあるのだと思いました。

 2月15日に行ったイチジクの挿し木も、大きな変化は無いけれど、ほんの少し、芽が膨らみ始めたように感じます。これから春に向かって暖かくなるにつれて、根が出て、芽が育ってくれたらいいな、と思いました。
 今まさに育てている植物から、私たちも大切な情緒を育てさせてもらっているんだ、と思って、これから春になって、動き出す果樹や、畑を見ていきたいと思いました。