
「鬼は外! 福は内!」
やって来た2月3日、節分。
節分恒例の手作り恵方巻きと、みんなで育てた大豆の炒り豆をいただいた夕食の後は、各教室に分かれて、豆まきだ。無事、厄払いができる。穏やかな節分。
……では、なかった。
豆まきを楽しんでいるわたしたちに、突然、校内放送が入る。
■鬼が襲来!?
「緊急事態。緊急事態発生。古吉野に鬼が襲来。みなさんは直ちに体育館に避難してください」
緊迫感のある声の後ろから、「きゃー」という悲鳴まで聞こえてくる。
豆まきをしていたわたしたちは顔を見合わせて、それから慌てて廊下に出て、体育館へ向かって猛ダッシュ。
でも、廊下には自分たちが投げた豆が転がっていて、つるつる滑って、踏むと痛い。まるで足つぼのよう。
そんな足元が悪い条件だけど、後ろから鬼が迫ってくる足音がするし、校内のあらゆる教室から、鬼から逃げるみんなが駆けてきて、だからわたしもみんなの流れにのって走るしかない。
リビング前まで来たら、なんと鬼が数匹、前方を立ち塞いでいて、リビングの窓をドンドン叩いたり、「わぁわぁ」叫んでいる。
金棒を持って、今にも襲いかかってきそうな本気の迫力。
きっと中はりゅうさんだろうとわかっているけれど、この形相で追いかけられたら、本当に怖くなってくる。
■福の神がさらわれた
叫びながら逃げるみんなに紛れ込んで、わたしも何とか無事、体育館まで辿り着いた。みんなでステージにのぼって、安全確保。何だか人が少ないと思っていたら、最後の最後に鬼に追いかけられながら、数人の子が滑り込みで体育館へ入ってきて、みんなで鬼から逃げ切った。
「福の神が鬼にさらわれた。鬼にさらわれた福の神を救出すべく、鬼が繰り出す試練に勝ち進め!」
なんと、今回の節分は鬼退治とかけて、ゲーム大会なのだ。
赤鬼、青鬼、狐たちに、みんなで挑む。
■試練① マス鬼
1種目目は、マス鬼だ。マス鬼とは、9つのマスを「いち、にっ、さん」の掛け声と共に横、前後と1つずつ移動していくのだが、鬼と同じマスに飛んでしまったらアウトというゲームだ。マス鬼とは初めて聞くゲームで、初めてやる遊びだ。でもルールがわかりやすく、見ているのも面白いゲームだった。
「いち、にっ、さん」を全10回繰り返し、各チーム5人以上、全チーム合わせて15人以上が鬼から逃げ切れば、みんなの勝ちとなる。
早速、ゲームスタート。応援していると、どっちに飛ぶかわからない鬼から逃げ切ろうと、9つのマスのなかにいる子たちはいつの間にか1つのマスに集結していって、その光景はまるで逃げ回る子羊のよう。
キャーキャー言いながら、ぴょんぴょん飛んでいるみんなが可愛くて、大笑いだった。
真ん中の鬼も人が変わっていく。なるちゃんと思われる鬼は前後、左右とどこに飛び移っていくのか検討がつかないくらい、軽くふわっと飛んでくる。
りゅうさん鬼は大きさだけでもう怖いという感じ。他にもあけみちゃん狐やどれみちゃん鬼など、鬼役の子によっても難易度が変わってくることが面白かった。
いよいよわたしたちのチームの番だ。
先にゲームをしていた他のチームの動向を観察して、鬼から逃げ切る攻略法を見つけ出そうとしたけれど、結局、これは運なのか? 攻略法なんてないのかもしれない。とにかく鬼の動きをよく見て、逃げるしかない。
「いち、にっ、さーん」「にい、にっ、さーん」「さん、にっ、さーん」……。
初めは鬼から遠くのマスにいて、ぴょんぴょん飛んでいたけれど、気がつけば鬼がすぐ隣のマスに来ていて、慌てて逃げる。7回目くらいで、鬼が横に飛ぶだろうと思って前のマスに飛んだら、自分の読みは外れて、まさかの鬼と同じマスで衝突。飛んだ勢いで思いがけずマスの外にはじき飛ばれて、わたしはアウトになってしまった。でもチームのみんなが頑張ってくれて、3人も生き残ることができた。
全5チーム合わせて、15人以上が生き残ることができ、1種目目は無事、鬼に勝つことができた。
■試練②
ミッション・インポッシブル
安心するのも束の間、続く2種目目は、「鬼と金棒を避けて、福の神救出の鍵を手に入れろ! ミッション・インポッシブル」だ。
ゲーム内容は体育館の中央に散りばめられたコインを、鬼たちがぐるっと囲むように立っている。
鬼はフラフープの輪の中から動くことはできないが、金棒や手を振り回して、コインまでの道、隙間を塞ごうとしている。
その間を上手にくぐり抜けて、各チーム3枚ずつコインをゲットして戻ってこなければならない、というルールだ。
鬼は仮面を被っているものの、目はしっかり見えているようで、一歩でも近づこうとすると、すぐに反応して金棒や手を思い切り振り回してくる。鬼に一撃されたらアウトで、次の人にバトンタッチしなければならない。
チームの垣根を越えて協力するのもありだ。誰か1人が餌食となって、鬼の気を引いている内に、滑り込んでコインをゲットしている子もいた。
■無事ゲット
わたしも目の前にいる鬼の隙を狙おうとしたが、鬼がかなり敏感で、すぐに反応してくる。こうなったらスライディングしかないと思って、鬼と鬼の足の隙間めがけてスライディングしたら、なんとか鬼の攻撃から逃れることができて、無事1枚のコインをゲットして仲間のところまで戻ってくることができた。みんなが笑顔で迎えてくれた。
最後の1枚は大変だった。どうやっても鬼の目をごまかすことができない。
最終手段は真ん中のりんねちゃんをななほちゃんとゆいちゃんが間に挟んで、鬼の隙間をダッシュ。もちろん両側にいたななほちゃんとゆいちゃんは一撃を受けてしまったけれど、真ん中で守られていたりんねちゃんはセーフということで、ちょっぴりおまけのようだが、2種目目も鬼に勝つことができた。
波瀾万丈のゲームは終了。
……ではなかった。
「今、各チームがゲットした3枚のコインの裏を見てみてください」
そう言われて、ひっくり返してみると、なんと1枚1枚のコインの裏に謎が書かれてあったのだ。
■試練③ 謎解きゲーム
「福の神カードを探し出せ。取ってきたコインの裏に貼ってある謎を解くと、福の神カードがかくされた場所へのヒントが出てくる」
なんと思いがけず、最後の最後に謎解きが待っていたのだ。これは想定外だ。
わたしたちのチームは勘の鋭いさくらちゃんがいて、すぐに「下」という字と、「箱」という答えを導き出した。2つを合わせてみると、「下箱」。
1つは難問で解けないが、もしかしたら「下駄箱」?
完全に解けたわけではないが、校内の下駄箱を探してみよう。
そうなったら、みんなが下駄箱めがけて猛ダッシュ。
他のチームも謎が解けたようで、体育館から勢いよく飛び出していった。
校内にある下駄箱は全部で4か所。体育館に近いところから回っていっていたら、先攻して子供玄関の長靴置き場まで行っていたさくらちゃんから、「あった!」という声が聞こえてきた。慌ててみんなで駆けつけると、さくらちゃんの手には本当に福の神カードが握られていた。
またもや全力疾走で廊下を駆け抜けて、体育館へ戻ると、鬼たちがステージ前で待っていた。その間をくぐり抜けて、福の神カードを渡して、ようやくミッションはクリアした。全チームが福の神カードを持って帰ってきて、鬼退治はこれで本当に成功。
すると、鬼にさらわれていた福の神も無事、解放されたようで、ステージの両端からカラフルな着物をまとった2人の福の神が登場してきた。
「やーっ!」という福の神のパワーで、鬼たちはクルクル回りながら、体育館の外へ吹き飛ばされて、どこかへ行ってしまった。そう、「鬼は外」だ。
平和が取り戻された体育館に、福の神は手に持つ小さなかごからみんなに向かって、甘納豆を投げてくれた。1人1袋、キャッチして美味しくいただいた。
あの可愛らしい福の神は、一体誰だったのだろう?
本当に福の神がなのはなに幸福をもたらしにやって来てくれたのかもしれない。
節分は恵方巻きを食べるだけではない。なのはなの節分は、本当に鬼がやって来て、鬼退治をすべく本気で遊んで笑って、最後は福の神にも会えるのだ。
こんなに楽しい節分の夜を過ごしているのは、ここなのはなが一番かもしれない。
そんな嬉しい気持ちで、最後の最後にもう一度、残った豆を校内外に、「鬼は外! 福は内!」と言いながら投げて回って、校内は本当に豆だらけになった。
電気が消えた校舎の中はどこに豆が落ちているのかわからなくて、思いがけず踏んでしまうとやっぱり足つぼみたいで痛かった。