【2月号⑤】「未来の桃の樹を思い描いて向かう 桃の剪定強化週間」 りな

 

 お正月の三が日が過ぎると、桃の冬剪定がスタートしました。桃の木は、十一月ごろになって寒くなると、落葉し、冬の寒い時期は枝だけで過ごします。まだ若い、伸び盛りの枝は赤くて、赤い枝が上に上に伸びている桃の木が、遠くから見て、とても綺麗に見えます。

 秋季剪定で切り切れなかった部分も、冬季剪定で落とします。秋季剪定の時は、まだ葉のある状態の時期で、切るぶんだけ、樹勢が弱くなります。けれど、冬季剪定は、すべての枝に貯蔵養分が蓄えられていて、枝を切ると、木が調節しようとして、切っていない枝が強くなり、反発する性質があります。強くなると、内側にビュンビュンと強い徒長枝が出てくるようなことになるので、切りすぎないよう、慎重にする必要があります。

 初めは、開墾二十六アール畑からスタートしました。六年生の清水白桃を一人一本ずつ担当し、剪定をしました。切る枝に印として紐付きクリップを付け、最終的に、あんなちゃんがクリップの位置を修正してくれてから切る、という流れで進めました。

 

 

■根拠を持って理解する

 剪定の目的は、樹形を作ることと、日当り、作業性を良くすること、です。それがすなわち、甘くて良い桃を作ることにダイレクトに繋がっているので、欠かすことのできない重要な作業です。

 六年生の木は、もう樹形が出来上がっていて、樹形を崩さないように、剪定をする必要がありました。桃の木は、三本主枝で、膝辺りの低い位置から三方向に幹が伸びています。この三本を、木全体の一番強い主軸として仕立てます。
 主枝の先端を決めるところから始まります。根元から辿っていき、どの枝を先端とするのが自然なのかを考えます。先端が決まれば、先端を負かしてしまわないよう、樹形を維持するために、乱してしまうような強い枝を切ります。
 また、日当りや作業性を改善するために、内側にビュンと伸びている徒長枝や、交差している枝などを切ります。

 どの枝を切るか、考えるのはとても難しくて頭を使いました。冬剪定は切ったらそれだけの反発があるので、要らない枝はすべて切る、というわけにはいかなくて、その塩梅がとても難しかったり、木がこれからどう成長したがっているのかを考えないと、木に大きなダメージを与えてしまうことにもなりかねません。

 主枝の先端は、樹形を作るうえでとても重要なので、先端の処理もとても緊張しました。これまで長い年月をかけて作ってきた樹形を崩すわけにはいかないし、一度間違えると、修復するまでに年単位までかかってしまうことを知り、責任を感じました。

 

 

 切る枝に印をつけたところを、あんなちゃんに見てもらい、あんなちゃんが、修正するところを、その都度教えてくれました。それには根拠があって、その根拠がとても奥が深いなあと思いました。一本一本同じ形の木はなくて、樹勢も違うなかで、同じように安定した良い桃を採り続けるのは、とても難しいことだと思いました。その難しさを剪定でも実感しました。一本一本、難解なところは現れるけれど、それを精一杯で解いて、答え合わせをしてもらって、少しずつ、自分の中の引き出しが増えていくような気がしました。

 はじめは、木の下で全体を見ると、切る場所が分かりました。でも、いざ印をつけようとして脚立に登ると、脚立の上からの景色が下からの景色とまるっきり違うので、印をつけようとした枝がどこにあるのか分からない、ということが何度も勃発しました。でも、何本もの桃の木を、下から見て、上から見て、を繰り返していると、いつの間にか、下の景色と脚立からの景色が一致して感じられるようになっていました。下からでも、脚立に乗っていながらでも、切る枝が分かるようになっていました。

 また、脚立の上からだと、地面に立って木を見るよりもずっと、木がどんな風に日を浴びるのかが分かりました。今は葉はないけれど、夏になれば葉はたくさん茂るし、枝ももっと伸びるので、それをイメージして、日当りを考えました。
 先端を芽の上で切り縮めることで、強くさせることが出来ることを知り、樹がどんな風に栄養分を送っていて、これからどう伸びていくのか、考えて切りたいと思いました。

 

〈電動剪定バサミも、活躍しました〉

 

■理想とプラン

 剪定と同時に、誘引も行いました。誘引は、主枝の先端が上に直立している時などに、マイカ線を使って、倒したい方向に引っ張って行う方法です。
 どの方向に、どのぐらいの角度で誘引するか、あんなちゃんがはじめに見てくれました。誘引をすることで、樹形も作りやすくて、無限大に幅が広がったように感じました。同時に、自分の中にはっきりと理想を持っていないと出来ないようにも感じました。木をどう仕立てたいか、プランが無いと角度一つでも決める時に悩んでしまいます。でも、あんなちゃんが、誘引も剪定も、潔く素早くしている姿がとてもかっこよくて、私もあんなちゃんのように、理想を強く持って、作業したいと思いました。

 桃の剪定強化週間を十日間もらい、桃メンバーのみんなと集中的に剪定を進めました。食事の時間と、夜以外は気付けばいつも、桃畑にいました。桃畑が、私達にとって第二の家のようになっていました。

 朝から、剪定を進めました。朝は霜が降りていて、桃畑も地面が真っ白になっていたり、桃の木が霜でキラキラ光っている光景がとても綺麗でした。池上桃畑を進めていた時には、見下ろす形で石生の家や田んぼが見えて、霞がかったような空に、白く浮き上がるように、木や、家の屋根が模様を作っていて、その景色に心を奪われました。

 夕方になって作業が終わる時間になると決まって、大きな夕焼けと夕日を見ました。燃えるようなオレンジ色の空が一面に広がっている光景を桃メンバーのみんなと見ると、毎日達成感を感じて、また明日も頑張ろうと、元気が湧いてきました。

 

 

 そんなふうに剪定を進め、百三十本ちかくある桃の木を、一本、また一本と終わらせていくことが出来ました。
 最初は進みも遅くて、最後まで到達するのが果てしのないような、とても遠くに感じました。けれど、途中からスピードアップのために、印なしで切っていく方式にしたり、先端とそれ以外のところを分業制にしたり、方法をどんどん効率よく変えていきました。すると、日に日に進みが速くなっていきました。最初とは見違えるぐらい、剪定の手を速くしていけたことがとても嬉しかったです。

 木は生きているので、全てが全て、思い通りにはならないし、本当の正解は、未来にならないと分かりません。でも、剪定の知識をつけて、考えられる限りの一番優しい選択をしていくこと、樹の理解を深めることが、きっと未来に良いように繋がっていると信じることが出来ます。
 桃メンバーのみんなと、向かうところを同じくして作業に向かっている時間が、パリッとしていて緊張感もあって、そして楽しいです。

 桃の枝にはたくさんの花芽と葉芽が付いています。葉芽はまだ米粒にも満たないぐらい小さいけれど、花芽はぷっくりと膨らんできています。これから暖かくなるにつれて、もっと膨らんでくることが想像できます。不思議だけれど、この芽がやがて花開いて、桃になるのだなあと思います。何万もある蕾も、最終的に実になるのはほんの一握りだけれど、それでもどの芽も健気に膨らんできているのが、とても愛おしく感じました。今年も甘くて美味しい桃を、誰かに届けることが出来るように、自分の出来ることを精一杯果たしたいと思いました。