【2月号②】「走りながら自分を作る ―― 日々の積み重ねを自信に変えるフルメニュー ――」 なつみ

 ある日の夜の集合。
 お父さんお母さんより、「今年は、津山加茂郷フルマラソンに出ようと思います」と発表がありました。わたしは一度もフルマラソンを走ったことがなく、なのはな全体でも、四年ぶりの出場。わたしだけでなく、みんなもドキドキしているようです。
 特に長距離走に苦手意識の強いわたしは、不安ばかりが募っていき、心の声は弱音ばかりになっていました。

 数日後、『お父さんに聞いてみよう』という、箱に入っている質問に対して、お父さんが答えてくださる時間に、「フルマラソンを走る理由は、何ですか」という質問が入っていました。
「なんで走るんだろうねぇ」そう言いながら、お父さんお母さんが沢山のエピソードを話してくれました。
 お母さんは、気管支喘息を持っていた子が、フルマラソンを走り切った事。ラスト数キロ、全員でその子を囲ったことが、今でも涙が出るくらい、鮮明に思い出すことが出来ると話してくれました。

 

 

■保障を求めずに

 お父さんは、「みんなが出発する前の空気が、僕は好きですね」と話されました。
 それは、誰も保障を求めていないから。フルマラソンを、走り切れるか切れないか、誰にもわからない。分からないけれど、これまでの練習を信じて、走る。その緊張感と自立したみんなの空気感が好きなのだと、お父さんは話されました。

 そしてあゆちゃんは、あゆちゃん自身が走ってみて、何を得られたか、あゆちゃんの経験も織り交ぜながら、わたしたちがフルマラソンを走る意味を、お父さんも一緒に話してくれました。

 なのはなでは、自分の気持ちを表現する手段として、演奏、ダンス、畑、スポーツが三本柱としてあります。
 去年、コンサートに向けての過程で、ダンスを踊る筋力が落ちていること、約三か月間の練習で、ペース配分を上手に、最後まで粘り強くやるのが、みんなを見ていると難しい人もいたと感じた事を教えてもらって、自分を振り返って、確かにそうだと思いました。
わたしは、気持ちに波があって、それが練習の密度に反映していたと思います。
 そういう波が、フルマラソンに向かう練習過程、そしてフルマラソン当日に、修正されて、「良い肉体には、良い精神が宿る」というように、心と身体に筋肉がついて、粘り強くなるのだと教えてもらいました。

 

■走る楽しさ

 みんなとお父さんお母さん、あゆちゃんの話を聞きながら、これからのフルマラソンに向けてのフルメニューは、まだ見ぬ誰かに繋がる自分づくりなのだと思えて、そう思うと、走ることに対して、不安はあるけれど、強い、前向きな気持ちになりました。

 フルメニュー一日目。
 この日は、グラウンドでお父さんが、ランニングシューズと一人ひとりの走るフォームを見てくれました。
 まずは、シューズの確認。走るのに向いているか、足を痛めないか、シューズの裏、つま先を見て、判断してくれます。
 お父さんは、シューズの裏に凹凸があって、つま先にまで靴裏がきているのが良いのを教えてくれて、お父さんに見てもらっても、自分でも見ても、履いている靴がばっちりなのがわかりました。

 

マラソン練習が始まる前にお父さんがランニングシューズとフォームを見てくれました!

 

 次に、四チームに分かれて、五分間、十人程でグラウンドをグルグルと走ります。
 本当に長距離走が苦手な私は、(果たして五分間、ちゃんと走れるのだろうか)という、走ることに対しての不安と、走っている間、見られている、という緊張で胸をいっぱいにして、笛の合図とともに走り始めました。
 走り始めると、最初はぎこちなかった身体も慣れてきて、みつきちゃんの後ろについて、走るリズムが自分の中で出来ていました。 そうなると、それまで感じていた不安、緊張、どこへやら。

 ただ走るだけ、それだけが、こんなにも楽しいんだ!
 驚きでした。たった五分走るだけが、あんなに嫌で、恐くて、辛いものだと思っていた長距離走が、楽しいと感じる。長距離、というには距離が短かったけれど、それでも、楽しいと感じられたことが、とても嬉しかったです。

 

 

■身体作り

 梅の木コース一日目。
 翌日から本格的に、走る練習が始まりました。
 まずはみんなで体育館に集まって、ラジオ体操、準備運動、ストレッチ、柔軟、筋トレをして、その日走る身体、そして、フルマラソンに向けての身体を作っていきます。

 ストレッチ、柔軟、筋トレでは、実行委員さんが「どこに効果があるか」というのを教えてくれて、そこを強化していくことを意識しながら取り組むと、より効果があるのだそう。
 しかし、意識するだけで、ほんっとうにきつい。腹筋、背筋、プランク、三点倒立。やっていてお腹、背中、丹田に効いているのが良くわかり、わたしは特にプランクの一分が果てしなく長い。わたしの下っ腹の背面に百キロの重しがのっているのではないかと思います。書きながら、思い出すだけでうめき声が出そうです。

 そうやって、きつい筋トレも、みんなと乗り越えて、さぁ、外でランニング。
 外に出て、実行委員のあけみちゃんとまちちゃんを先頭に、二列で並び、肩を上にあげて、ストンと下す。腕を大きく十回振って「梅の木コース、行ってきまーす!」

 

 

 走り始めて、最初の曲がり角を曲がると、坂の上から、雪化粧をした那岐山と石生田んぼが見えて、さらに走っていると、雪がフワフワと舞ってきて、まるでスノードームのような幻想的な景色を見ることが出来ます。

 梅の木コースは二・五キロ。坂道もあるけれど、そこまで急ではなく、距離も長くないので、走ることを十分楽しめます。
 そして、わたしが最も苦手とする登り坂も、みんなでのお題回しがあれば、恐くない!
 毎日、出発前に実行委員さんが坂道で回すお題を発表してくれます。

 

 

■中庸を保つ

 因みに、マラソン練習初日は、「みんなのフルマラソンへの意気込みを教えてね」で、「粘り強い心と身体」「続ける」「謙虚に走る」等々、みんなの気持ちを聞きながら、また一段とマラソンに向けての、気持ちを固めることが出来ました。
 わたしの意気込みは「中庸を保つ」です。ゼロか百かではなく、中庸に、上がりすぎず、下がりすぎず、いつも朗らかでいられる、強い心と身体を目指します。
 走りながら、みんなと自分を作っていけること、仲間がいることはとてもありがたいことだなと思いました。

 九日間は梅の木コースを走り、その次は十日間、四キロの奈義コースを走ります。
 奈義コースは、那岐山が良く見える田んぼ道をグルグルと走る、比較的平坦なコースですが、最後に大きな壁である、古吉野なのはなへの、急で長い坂道はモンスター級。

「ファイト、ファイト」掛け声をしながら、せっせと足を前に出して登り切ると、(今日も登りきれた)という自信が積みあがります。
 どのコースも必ず苦手な坂道があるのですが、日々の筋トレ、特に、外で走ることが出来ない雨の日に体育館で行う、体幹十五分、サーキットトレーニング十五分の翌日は、自分の筋肉が強くなったことを、坂道で実感します。

 

体幹トレーニングで筋肉を鍛えます

 

■着実に身になっていく

 体幹十五分のトレーニングは、約十種目の体幹トレーニングを一分間ずつ行います。
 わたしは体幹が弱すぎて、プランクを仰向けでやる姿勢のトレーニングは、きつい以前に、出来ませんでした、これはとっても悔しくて、毎日のプランクでは、この悔しい思いをばねに、一分間、頑張っています。

 サーキットトレーニングでは、縄跳び、腹筋、背筋、踏み台昇降などの七種目を一分間ずつ二周行います。最初は元気があって、縄跳びでは二重跳び、超高速腿上げ等々、意気揚々と笑顔で頑張るのですが、そういう人は二周目になると地獄を見て、果てしない一分間の縄跳び、なかなか終わらない三十秒間の腿上げ、足を上げているつもりなのに、上がらなくて台を蹴とばす踏み台昇降、非常に大変です。

 それでも、はぁはぁ言いながら頑張った翌日は、着実に体幹、サーキットトレーニングが身になっているのを感じて、前より楽に走れるようになっています。

 そして、走れない天気が続くときは、気分転換にリレー大会もあったりして、大盛り上がり。
 お尻歩きやスキップ、ボールを足に挟んでジャンプなどの変わった走り方でバトンを渡していくリレーは、やっていても見ていても面白くて、わたしはお尻歩きをしましたが、全く前に進まなくて、どんなに腕を振ってお尻を動かしても進まなくて、笑えてしまうほどでした。

 こんな風に、みんなとキツさも楽しさも共有しながら、自分の使命を果たすために、心と身体を鍛えていけること、ともに走る仲間がいることは、本当に得難く、有難いことだと思います。
 まだまだ、先は長いですが、毎日の積み重ねが、本番に、そしてまだ見ぬ誰かに出会う日に繋がることを心に留めて、走っていきたいと思います。