【9月号⑰】「小さな彩り届けます ―― ぬか床の“おいち”と“おたま” ――」 えみ

  
 家庭科室の裏口を開けたところにある、こじんまりとした小さな部屋の中には、味噌樽たちに囲まれて、ぬか床の“おいち”と“おたま”がいます。
 
 これまで、初代ぬか床のお母さんである、なおちゃんから受け継いで、さやねちゃん、のんちゃんと続き、今は何人かのみんなとチームになって、毎日のぬか床の手入れをしています。

 毎日の基本的な手入れは、朝と夜の一日二回、ぬか床をかき混ぜること。美味しいぬか漬けのためには、一番に、ぬか床の状態を健康に保つことが大切なのですが、そのためには、この小さな毎日の手入れが欠かせません。

 全部一人でとなると、少し大変になってしまうことも、ぬか床チームのみんなに助けてもらって、一緒に見ていけることがとても心強くて、毎日の手入れの時間が小さな楽しみの時間になっています。

 ぬか床の蓋を開けると、ほんのりと酸味の混じった、フルーツのような香りがしてきます。この香りも、毎日少しずつ違うのが面白くて、ぬか床が生きているんだなというのを感じるし、この香りが、今のぬか床の状態を知る一番の材料になっています。

 日々の手入れでは、まず、手を腕までよく洗ってから、アルコール消毒をして、たるの底から円をかくようにぬか床をしっかり混ぜていきます。
  
  

 かなり力がいるので、最初は、一つのたるを混ぜるのもやっとという感じだったけれど、だんだん慣れてくると、「ぬか床筋」がついてくるみたいです。

 一通りかき混ぜられたら、空気を抜くために転圧をして、雑菌が繁殖しないように、たるの周りについたぬかをキッチンペーパーでふき取って完了。

 日々の手入れに加えて、少し酸味が強くなってきたら新しい米ぬかとお塩を足したり、菌の繁殖を抑えるための唐辛子、うまみを出すために昆布や煮干しを入れたりすることもあります。

■温度と漬け時間

 ぬか床を守ってくれているのはたくさんの微生物たちで、主には乳酸菌、酪酸菌、産膜酵母菌という三種類の菌。これらは、大体十五度から二十度が生育適温であるため、この暑いい夏は、かなりぬか床にとっては大変な時期です。

 お父さんに温度管理のことを相談させてもらって、日中は味噌蔵のエアコンをかけて涼しくしたり、たるの上に凍らせたペットボトルを置くなどして、温度を適温に保てるようにしています。暑すぎると、菌が過剰に発酵してどんどん酸っぱくなってしまっていたのですが、夜も冷やせるようにしたことで、ぬか床の状態もいい具合に保てているのが嬉しいなと思います。

 きゅうりやナスなどの夏野菜の収穫が真っ盛りで、朝食や夕食に、週に何度かぬか漬けも出させてもらっています。

 野菜によって、漬ける時間が違っていて、最初はいいくらいの漬け加減で取り出すのが難しいなと感じていたのですが、何度か試す中で、今のぬか床の状態だと、きゅうりであれば十時間、ナスだと十八時間くらいがいいということが分かりました。
  
  
 漬ける時間が同じでも、野菜の大きさや太さによっても加減が違うところもありますが、みんなから、「美味しかった!」という声が聞けるとやっぱり嬉しい気持ちになります。

 ぬか漬けは、食卓の中ではあまり目立たない存在ではあるけれど、ちょっぴり彩りを加える存在として、これからもみんなに美味しいものを出せるようにみんなと手入れをしていきたいです。