【10月号①】「2023年 稲刈り物語」 るりこ

 

  
 青空の下に黄金色に輝く、稲穂の景色。石生田んぼ一面に広がるこの光景を見ると、暑く長かった夏も終わり、季節が秋に移り変わったことを感じました。

 畑に行く道すがらも、あちこちの田んぼに稲穂が垂れて、ほんのりとお米独特の甘い香ばしい香りも風にのってやってくるようになりました。地域の方の田んぼの稲刈りが次々と行われていくなか、いよいよなのはなでも、一大イベントの稲刈りシーズンが始まりました。

 今年は全十七枚、三町三反四畝の田んぼでうるち米、モチ米、紫黒米を育てました。そのなかでも紫黒米は六月に家族みんなで手植えをしました。あれから約三か月半。この夏はこれまで以上に三十五度を超える日照りと、雨量の少なさが特徴の夏で、なのはなの田んぼも厳しい条件のなかではありましたが、稲穂がたわわに実りました。

■稲刈りの幕開け

 稲刈りのスタートを切ったのは、山裾東・西田んぼで育てたモチ米でした。それまでずっと雨が降らない日が続いていましたが、稲刈りが始まる頃になって、雨の日が増えました。その影響もあり、田んぼがぬかるんでしまい、特に水はけの悪い山裾田んぼはコンバインが入るには悪条件になってしまいました。そこで思いがけず、田んぼの一部をみんなで手刈りをすることになりました。

  
  
 第一号の稲刈りは、あゆちゃんが運転するコンバインとみんなの手刈りの同時並行で進んでいきました。みんなで横一列に入り、ぬかるみの酷い部分は手で刈っていき、そこ以外の範囲は機械刈りで刈り進めていきました。

 稲刈り鎌を稲の株元に当て、小さな弧を描くように手前に引くように力を入れると、ザグッと気持ちの良い音を響かせて、稲が刈れました。さらにまた隣の株を左手で持ち、鎌で刈ると、ザグッと良い音がします。とても気持ちよい感触が虜になって、夢中で稲を刈っていきました。

 一通り、刈り終えると、続くは脱穀です。鎌で稲を刈っていくのも好きですが、それ以上に脱穀をするのがわたしは好きです。みんなが刈った稲が積まれた山からコンバインまでを繋いで、稲束をバケツリレーで運んでいくのが、みんなとの一体感を強く感じる工程です。

 先頭のまえちゃんからコンバインのあゆちゃんまでを繋ぐと、長い列ができて、「はいっ」「はいっ」とリズム良く稲束が回っていきました。最終的にあゆちゃんが受け取り、コンバインへ流します。すると、稲穂から籾だけが外され、籾はハーベスタの袋へ、稲はコンバインのお尻から出てきます。
  
  
 わたしはコンバインについて、出てくる藁を山にしつつ、ハーベスタの袋を取り替える役割を任せてもらいました。籾一粒は本当に小さいのに、それがハーベスタの袋いっぱいになると、一人で抱え持つのがやっとなくらい重たくなります。次から次へと稲束がコンバインへ流され、籾が溜まっていき、気がつけばハーベスタの袋も山積みになっていました。運ぶのが大変だったけれど、これがお正月にみんなでつく餅になるのだと思うと、これでたくさんのお餅ができるなと、その重たさがまた嬉しく感じました。
  
  

 そして刈り取って、脱穀されたモチ米はそのままなのはなへ持ち帰り、盛男おじいちゃんからいただいた乾燥機へとかけられ、後日、籾摺りまで行いました。

 播種から手植え、稲刈り、そして籾摺りまで、稲作のすべての工程を、自分たちの手で経験させてもらえることがとても嬉しいです。
  
   

■より良くするために

 モチ米を皮切りに、翌日からコンバインでの機械刈りが精力的に始まっていきました。機械刈りのスターは、なんといっても、お父さんが運転する、四条刈りの大型コンバイン『モンローちゃん』です。三反の田んぼも四条刈りの『モンローちゃん』だと敵なしです。

 機械刈り一枚目の石生三反田んぼでは、みんなでお父さんの機械刈りの応援に行きました。田んぼに着くと、ちょうどお父さんが乗ったコンバインが動き出すところでした。

 一度に四条の幅を、まるで飲み込むようなものすごい勢いで刈っていく『モンローちゃん』。そして、それを操作
しているお父さんは凛々しい表情のなかに、とても楽しそうな様子を感じられます。
  
  
 コンバインが角まで来たとき、驚くべき光景が目の前で繰り広げられました。なんと、お父さんが大型コンバインを器用に操作して、四回ほど切り返して、田んぼの隅の稲まですべてをコンバインで刈り取っていくのです。近くにいたお母さんが、
「お父さんはね、今回、みんなが四隅刈りをしなくて済むように、全部コンバインで刈るって言って、昨夜から一生懸命イメージトレーニングしていたんだよ」
 と話してくれました。
  
  
 機械刈りとなると、幅が広いため、コンバインで四隅を刈ることは普通は難しいため、事前に手刈りで四隅を刈っておく必要があります。それを今回はしなくて良くなるようにと、お父さんがみんなのことを気遣ってくれて、隅々までコンバインで刈ってくれたのです。

 お母さんの話を聞いて、お父さんが、機械刈りも進化させていくために、努力や勉強を毎回たくさんしていて、どこまでも高いレベルを目指している姿を思いました。わたしもお父さんの背中を追って、どんなことに対してもより良くするためにはどうしたらよいのか、進化させられることはないかを頭と心で考えて、そしてその芯に誰かを思う利他心を常に持って生きていく人になっていきたいと感じました。
  
  
■青とオレンジと金色

 コンバインで四隅刈りをして、だんだんとわたしたちが座る畦へとお父さんの乗ったコンバインが近づいてきます。隣ではたけちゃんやたいちゃんが、「とーと!」と声を出して呼んでいます。見る見るうちにコンバインが目の前までやって来て、そこでまたお父さんが絶妙なターンを駆使して、四隅刈りを披露してくれました。

 一見、狭そうな田んぼのなかを大きなコンバインを操って、バックをしたりターンを繰り返して、一条も残さずに刈り取っていく様子に目が釘付けでした。さらに遠くからだとわからなかったけれど、目の前を横切るコンバインのスピードが本当に速くて、あっという間にお父さんは二周目に入っていってしまいました。

 青空の下でお父さんが乗るコンバインのオレンジ色と、その周囲を囲む黄金色の稲穂の景色がとてもきれいで、みんなと畦に座って眺めている時間がとても心休まる時間でした。

  
 機械刈りは、その後も順調に進み、うるち米とモチ米を合わせた十四枚の田んぼ(紫黒米を除いた田んぼ)をわずか二日半で刈り終えることができました。最終日には永禮さんも来てくださり、お父さんのコンバインと二台体制で進む日もありました。途中でコンバインが不調になってしまったこともあったそうですが、お父さんがその場で解決したり、池田さんが修理に来てくださって、無事うるち米の稲刈りが完了しました。
  

  
■ライスセンターへ

 後日、ライスセンターへ籾摺りされたお米を取りに行きました。
 ライスセンターに着くと、四人のたくましい男性の方々が迎えてくださいました。なのはなのことを良く知ってくださっていて、「今持ってくるけんな」と奥の倉庫へ行き、フォークリフトに積まれた大量の米袋を運んできてくださいました。

 驚いたのは、パレットの上に三段のお米がのり、またさらに上に二段のお米が積まれたパレットが乗っていたことです。それを軽々と持ち上げるフォークリフトの威力にも驚きましたが、前が見えないくらいに積まれたフォークリフトを慎重に操作して、車にバランス良く積まれているところは、圧巻でした。
  

  
 作業の傍ら、ライスセンターの方々が、「毎日、みんなの日記を読んでいるよ」とか、「みんなで運んでいるの? 僕も手伝いに行こうか」などと、気さくに声をかけてくださいました。いつ行っても笑顔で迎えてくださるみなさんの温かさに、地域の方々がなのはなのことを応援してくださっていることを感じ、とても嬉しかったです。
  
  
 ライスセンターから持ち帰ったお米は、みんなでお米置き場へと収納しました。
 三十キロもある米袋。なのはなに来たときはびくともしないくらいに重たかったけれど、毎日みんなと畑作業をしたり、ダンスを踊ったり、活動していくなかで身体ができてきて、三十キロの米袋も一人で持ち上げられる筋力と体力がつきました。

 米袋が積まれた車の荷台にあゆちゃんが乗り、一人一袋を手渡してくれます。それをお米置き場まで運んでいくのですが、みんなが重たさを感じさせないくらい爽やかな笑顔で駆けていきます。わたしもその列に入って、みんなと一つのショーのように米袋をテンポ良く運んでいくのがとても楽しくて、たくさんあった米袋もわずかな時間にして、収納しきることができました。
  
  
  
 田んぼ一枚一枚の収量は異常気象も関係して、あまり奮いませんでした。それは地域の方も同じだったようで、今年は全体として不作だったようです。

 ですが、うるち米の米袋がお米置き場に収納されると、高い高いお米の山ができて、改めて、こんなに収穫できたのかとびっくりしました。みんなで一年食べるには十分な量でした。

■おじいちゃんのコンバイン

 うるち米とモチ米の稲刈りが無事に終了して、残すは光田んぼ上下の紫黒米のみとなりました。ここは六月初旬にみんなで手植えをした思い出のある田んぼです。嬉しいことに、この一枚はみんなで手刈りをすることになりました。
 
  
 その前々日、一足先にあゆちゃんが運転するコンバインで、光田んぼ下の最後の機械刈りをしました。今年最後の機械刈りと聞いて、少し緊張したけれど、最後の一枚に携わらせてもらえることがとても嬉しかったです。

 その日は週末でりゅうさんも一緒に、あゆちゃん、さくらちゃんと四人で挑みました。

 最後の機械刈りをするのは、盛男おじいちゃんからいただいたコンバインです。
「これは三十七年も前のものなんだよ」
 とあゆちゃんが教えてくれました。なのはなには五台のコンバインがありますが、そのなかでも特に大切にしているコンバインで、あゆちゃんもお気に入りのコンバインです。

  
「どうか、最後まで順調に動いてくれますように」
 と四人で祈ってから、あゆちゃんがエンジンをかけました。

 りゅうさんとさくらちゃんがコンバインの前を行き、お米にヒエや雑草が混ざらないように先攻して刈り進めていき、わたしはコンバインの後ろについて、ハーベスタの袋の交換をしつつ、コンバインから出てくる藁の処理を進めました。

 刈り取られた株元を見て見ると、一本一本の茎の切り口が紫色をしていました。うるち米やモチ米は色がありませんが、紫黒米だから、茎の中も紫色をしています。ほんのり香るお米のにおいも少し違う香りがするような気がしました。

 外周一周をする間にハーベスタ二袋分が脱穀された籾でいっぱいになりました。袋を替えるタイミングを逃さないように、こまめに袋の中身の量を確認しながら、あゆちゃんの補助をして、袋がいっぱいになったところで次の袋へ取り替えました。

 三周目に入った辺りで、あゆちゃんが後ろを振り返り、「ここに乗って良いよ」とコンバインの横にトントンと叩き、横に乗せてくれました。あゆちゃんが運転するコンバインに乗っているだけで、とても満たされた気持ちでした。

 そのときにあゆちゃんが嬉しい話をして聞かせてくれました。
「このコンバインはね、最大三条刈りができるんだ。ここにあるスイッチは、一条を逃さないようにするためのものなんだよ」
 と、あゆちゃんが右手で持つアームの横にある小さな銀色のスイッチを見せてくれました。それは左右に振ることができ、その調整で爪とコンバインが微妙に右、左に動きます。そうして、端の一条を逃さないのだと教えてくれました。
  
  
「このスイッチは最新のコンバインにはないんだ。今はスピードが重視されるからね。でも盛男おじいちゃんのコンバインは昔のものだからあるんだ。おじいちゃんは、ここが気に入っていたんだよ」
 と話してくれました。

 今の時代はいかに速く刈るかというスピードに重きが置かれて、美しく刈り取る緻密さや、一条を逃さない美意識にかける質は見落とされがちなのかもしれません。

 盛男おじいちゃんのコンバインは今の時代には古い型かもしれないけれど、昔の人が大切にした、美意識に繋がる仕組みが組み込まれてあって、おじいちゃんはそういった美しさを求めるところが気に入っていたのだと知りました。あゆちゃんの話を聞いて、ますますおじいちゃんのコンバインが愛おしく思えました。そしてわたしも、おじいちゃんのコンバインが好きだと思いました。

■作業はここまで?

 あゆちゃんが、「確実に刈っていこう」と言い、地道ではありますが、二条刈りで順調に稲刈りは進んでいました。一人ひとりの役割も手慣れてきて、阿吽の呼吸でみんなが動いていました。

 ですが、五周目に入ろうとしたところで、あゆちゃんから、「何か嫌な音がする」と声がかかりました。コンバインに近寄ってみると、何かがこすれるような鈍い音が聞こえてきます。

 その内に「ピー」と警笛がなり、扱き胴に異常を知らせるランプがつきました。エンジンを切り、あゆちゃんとさくらちゃんとコンバインを開けて、中のベルトやチェーンに異常がないかを調べました。潤滑スプレーを吹いてみたり、エンジン部分も調べてみましたが、なかなかその原因となる問題を見つけることができません。
  
  
「あぁ~……、今日はここで終わってしまうのかなぁ」
 二十分ほどコンバインとにらめっこしていましたが、原因が見つけられず、あゆちゃんもさくらちゃんもわたしも困り果てて、別のコンバインを出さないといけないかなとまで考えました。

 その時、さくらちゃんが、「あっ!」と大きな声を上げました。掃除口にゴミがたくさん溜まってしまっていることに気がついたのです。蓋を開けてみると、びっくりしました。籾やかすが溜まり、あまりの量にがっちり固まってしまっています。

 そしてさらに気がつきました。なんと、掃除口に繋がるファンを回すケーブルが外れてしまっていました。それを挿し、掃除口のゴミをすべて取り除くと、扱き胴が回り出しました。

「これが原因だ! これでもう大丈夫だ!」
 あゆちゃんが再びエンジンをかけてみると、先ほどまでしていた鈍い音が止まり、警笛も鳴らなくなりました。あゆちゃんが、「やったね」と大きな笑顔で笑いました。さくらちゃんも、「良かった」と安心したように微笑みました。

■動き出したコンバイン
  
  
 稲刈りに故障はつきものだと、お父さんが話していました。今回もどうかコンバインが止まりませんようにと祈っていたけれど、お父さんの言葉通り、途中で止まってしまいました。でもその不調を自分たちで原因を突き止めて、解決できたことがとても嬉しく思いました。

 再び動き出したコンバインを見て喜んでいた、ちょうどそのとき。コンバインの前の方で一匹の蝶が飛んでいるのが見えました。(あっ、盛男おじいちゃんだ)と思いました。きっと困っているわたしたちを見かねたおじいちゃんが、そっと手を差し伸べて助けてくださったのだと思いました。心の中で、(おじいちゃん、ありがとう)と言いました。

 残す範囲が四分の一ほどの範囲になった時点で時刻は十七時半を回り、夕方の当番の時間になってしまいました。あゆちゃんが、「あとは任せて」と心強い言葉をかけてくれて、わたしは後ろ髪を引かれる思いで当番へと向かいました。

 十八時頃になり、外からゴロゴロと雷がなる音が聞こえてきました。外は少し薄暗く、雨が降りそうな予感です。(どうか、稲刈りが終わるまでは雨は降らないで)
 と心の中で祈りました。あとは残す範囲の機械刈りと、わずかな量ではありますが、脱穀する稲が溜まっていて、最後に籾を乾燥機に入れなければなりません。(ぜんぶ終わるだろうか)と心配していましたが、夕ご飯の時刻ぴったりにあゆちゃんとさくらちゃんがコンバインに乗って帰ってきました。
  

アントシアニンによって切り口に美しい紫色が見える、紫黒米の茎

  
「終わったよ! コンバインの運搬も、乾燥機に籾を入れるのも全部できたよ!」
 そう、笑顔で伝えてくれました。

 機械が不調になった時間も合わせて、機械刈りから乾燥機に入れるところまで、すべての工程が時間内にぴったり収まりました。あゆちゃんが、

「これは本当にすごかったね。そして機械の不調を自分たちで解決して直すことができたのも良かった。これは盛男おじいちゃんからのプレゼントのようだね」
 と言ってくれました。あゆちゃんの言葉を聞いて、盛男おじいちゃんの笑顔が浮かんできました。
  

永禮さんも稲刈りに駆けつけてくださいました

  
 今季最後の機械刈りは小さなハプニングもありましたが、盛男おじいちゃんに見守られるなかで解決まで導いて、無事に終えることができました。とても記憶に残る、楽しい機械刈りになりました。

■絶妙なバランス

 そして、日曜日。待ちに待った、家族総出の手刈りが行われました。
 会場はみんなで手植えをした、光田んぼ上の紫黒米です。

 田んぼに着くと、あゆちゃんが役割を二つに分けてくれました。刈り部隊と結び部隊です。さらに同時並行で、下の田んぼで刈った稲穂を干すためのはぜを立ててくれる部隊もいました。
  
  
 鎌を持って刈る人が約八人。それ以外の人が刈った稲を結びます。
 新しい稲刈り鎌の刈り具合は最高でした。左手で株を掴み、右手に持つ鎌で刈るときに、一瞬だけ左手の力を抜くように刈ると、連続的にザグザグと刈ることができて、自分なりにコツを掴みながら、リズム良く刈り進めていきました。

 後ろには結び部隊のみんながいて、はぜに干したときにバラバラにならないように、藁を使ってがっちりと結んでいってくれました。

 あゆちゃんが予想した、刈り部隊と結び部隊のバランスがとても絶妙で、刈った稲が溜まることもなければ、結びの人の手が余ることもなく、全体の流れがとても良かったです。
  
  
 夢中になって刈っていると、終始、株元だけを見ていたので、全体がどのくらい進んでいるのか把握できていませんでした。ですが時折、畦にいるお父さんやあゆちゃんが、「もう少しで半分だよ」と教えてくれました。そう言われて腰を上げると、先ほどまで自分がいた位置からだいぶ前に進んでいて、刈り取った後ろは稲穂がなくなって、みんなが結んでくれた稲の束の山が並んでいて、大きく景色が変わっていて、驚きました。
  
  
 開始から約五十分ほどが経った頃、あゆちゃんがお茶休憩をとってくれました。ちょうど同じタイミングで、光田んぼ下のはぜ立ても完了しました。

 始まる前は何もなかった田んぼに、なる足が組まれ、四列に並んだはぜの光景がとても美しく、圧巻でした。はぜを見ると、盛男おじいちゃんが教えに来てくださっていたことを思い出します。この日も盛男おじいちゃんがどこかで、わたしたちの手刈りを応援して、見守ってくださっているような気がしました。
  
  
 冷たいお茶で体力を回復して、再び二ラウンド目が始まりました。

 後半からはヒエとの戦いでした。ある一角に稲と稲の間にヒエが混ざるゾーンがあり、稲とヒエを一緒に刈り取らないように分けながら刈っていくので、思いがけずスピードダウンしてしまいました。

 初めはなかなか稲とヒエの区別がつかなくて、苦戦していたのですが、よく見ているうちに違いが見えてきました。稲は根元まで株が地面に植わっているけれど、ヒエは根が浮き上がってきていて、茎も細いのです。その見分け方は正解だったようで、(根がみえる)と思うものは確実にヒエでした。

 それがわかってからは間違い探しをしているようで、むしろヒエとの戦いが楽しくなってきました。さらに隣のゆきちゃんやよしえちゃん、ももかちゃんと、「わたしはヒエを取り除くね」などと協力体制で進めることもできて、みんなと確実に前へ前へ進んでいけることが嬉しかったです。稲にヒエが混ざらないように刈ることができると、結びの人にも気持ちよく渡すことができました。
  
  
 そしてヒエゾーンを抜けると、急に視界が明るくなってきました。まだまだだと思っていたゴールも、ついに残す二条になっていました。ゴールインが嬉しいようで、もう終わってしまったの?
 という若干の名残惜しさも感じつつ、ついに最後の一株を刈り取って、反対側の畦へ到達しました。

 そして驚くことに、手刈りが終わるのとほぼ同時に結びも完了しました。最初から最後まで刈り部隊と結び部隊のバランスが均等に保たれていて、二つの工程が同じ時間にぴったりと終わることができました。
  
  
 あれだけ広く感じた田んぼも、みんなで手刈りをしたらほんの一瞬で、すべての稲穂が刈り取られた田んぼが狭く感じました。

 達成感でいっぱいの気持ちで、そのままみんなと畦に座って田んぼを眺めながら、台所さんが作ってくれた、美味しいお弁当の昼食をいただきました。

■大変なときほど

 

 お腹が満たされてからは、いよいよ結んだ稲束をはぜに干していくことになりました。みんなで一列になって、ヒカリ田んぼ上から下まで、ひたすら稲束のバケツリレーです。先頭ではぜに稲をかけていってくれる、あゆちゃんとまえちゃんまで、「はいっ!」「はいっ!」と稲束を送っていきました。

 時折、隣の子との距離が広がったり、縮んだりしましたが、臨機応変に動いていくのがとても楽しかったです。一時は隣の子までの距離が三メートルくらい離れてしまいました。

 でもえつこちゃんが稲束を持って、わたしのところまで笑顔で全力で駆けて渡してくれることが嬉しくて、えつこちゃんにパワーをもらって、わたしも次に渡すどれみちゃんまで全力で走って届けました。本当なら、(疲れた!)となってしまうところも、あけみちゃん、さくらちゃん、えつこちゃんの、少し大変だけど楽しくて仕方ないという表情や動きにわたしもつられて、終いには笑いがこみあげてきました。
  
  
 みんなと、「ひぇー!」と言いながらも笑いながら走ってバケツリレーをするのが、何だかんだで一番心に残りました。

 大変なときほど仲間の存在に引っ張ってもらっているということを感じました。自分の限界で頑張っている仲間の存在が、わたしも同じように限界まで頑張ってみようという気持ちにさせてくれます。あけみちゃんやえつこちゃんが大変ななかでも利他心を持って、全体の流れや勢いを止めないように、仲間のことを思って走り続けている姿がとても輝いてみえました。
  
■記念写真

 最後の最後までみんなでバケツリレーを繋ぎ、最後の一束が送られたときは、大きな大きな達成感がありました。

 そしてそのままみんなと倒れ込むように、刈り取った田んぼの上にゴロンと大の字で寝転びました。真上には眩しくて目を開けられないほどの太陽があって、その明るさがご褒美みたいでした。横にはさくらちゃんやえみちゃんがいて、顔を見合わせて、「楽しかったー!」と言い合いました。

 最後にかにちゃんが集合写真を撮ろうと言ってくれました。

 するとお父さんが、
「今年は構成を変えて、このまま寝転んだポーズにしよう」
 と言いました。そして思いがけず、みんなと畦に横になって、腰に手を当てた寝転びポーズで、かにちゃんが写真を撮ってくれました。前にはきれいに刈り取られたヒカリ田んぼと、バックにはずらっと並んだはぜの光景が一面に続いています。

 お父さんのユーモラスな発想に大胆な写真が撮れました。でもそれが家族総出の手刈り感がより増して、思い出に残る一枚になりました。
 
  
 十七枚目の手刈りが完了して、これで無事、今年の稲作が一段落しました。 約十日間に渡った二〇二三年の稲刈りは、みんなとの手刈りから始まって、手刈りで終わりました。初めて機械刈りの補助に入らせてもらったことやライスセンターへ行ったこと、コンバインの不調をみんなで解決したこと、そして手刈りで感じた達成感。たくさんのエピソードがあって、どれも楽しかった記憶として、今もわたしの心の中できらきらと輝いています。

 毎日いただくお米がどのようにして作られるのかを、なのはなでたくさん経験させてもらい、よりお米の美味しさを感じられるようになりました。新米はどんな味がするのでしょうか。お米一粒一粒が大切に感じます。