【8月号⑱】「桃と仲間と、朝な夕なに ―― 中生品種の白桃たち ――」 りな

 

 夏は、収穫が盛りだくさん。桃も、七月、八月に収穫がピークになります。
 今は、中生品種の収穫を進めています。今年から、山の桃畑が一枚増えて、新しい「勘助白桃」という品種も増えました。早生品種の加納岩白桃の収穫が終わると同時に、ちょうどバトンパスするかたちで、中生の序盤、白鳳が熟れ始めました。
 オレンジ袋がパンパンにはち切れそうなほど膨らんでいて、桃の実は直接見えないけれど、袋の外からでも、熟れているオーラが漂ってきます。夜蛾から実を守るために、熟れる前に、ネットを掛けていて、収穫前の桃の木は、遠くから見るとウエディングドレスのベールをかぶったようでとても綺麗です。

 

 

 収穫では、ネットをくぐって中に入り、一玉一玉、袋を破って、収穫の時を判断します。
 樹で完熟させた状態で、樹熟し白桃を収穫します。その収穫基準を、何よりも大切にしています。品種によって、熟れたらどんな色味になるかも違うし、香り、形、大きさも違います。そのため、一品種ごとに、基準を桃の収穫メンバーのみんなと確認しています。
 早生の加納岩白桃は、熟れると肌が白からクリーム色へと変わり、強く甘い香りがしてきました。白鳳は、少し違い、ピンク色になりやすく、熟れたものは、クリーム色というよりも、肌色のような、少しピンクがかった黄色に変化していました。

 初収穫の時、パンパンに膨らんだ袋の底を破ると、透明感のある、艶やかな桃の実の肌が見えて、とても嬉しい気持ちになりました。採りたい!
 という衝動を抑えながら、冷静に、収穫基準に達しているかどうかを判断します。収穫する一玉一玉が大玉で、両手で包み込むように持たないと持てないぐらい重量感もあり、存在感のある桃がたくさん採れていることが嬉しいなと思いました。

 

■桃と対話しながら

 まだ日が昇って間もない、早朝から収穫を始めます。なぜなら、お昼ごろになってくるにつれ、気温が高くなり、収穫する桃が温まってしまうことと、日が出ていると、収穫基準の見分けが難しくなるからです。
 日光が当たっていると、色の判断が付きにくくなります。コンテナの中に入っていると、黄色く見えても、実際に樹に生っていると、見え方も変わって、そうしたちょっとした光加減の違いでも、正しい判断ができるようになりたいと思いました。

 一玉ずつ熟れ方も、熟れるスピードも少しずつ違うので、色味、香りだけでは判断できない時もあります。その時は、心の目で見て、桃のオーラを感じるようにしています。まだ若くて青いと、桃の毛が立っていて、ちぱちぱする感覚があります。けれど、桃が完熟になるに従い、桃の毛が目立たなくなって、手触りがツヤツヤしてきたり、少し触れただけで、滑らかで、しっとりしている感覚があります。
 熟れている桃は、ずっしりと重量感があるように見えたり、桃の皮がウルウルしているように見えます。その、本当に小さなニュアンスを研ぎ澄ませながら収穫する時間が、難しくて緊張するけれど、とても楽しいです。

 

■桃との対話

 面白いことに、熟れている桃を枝から採るとき、すんなりと枝から離れるけれど、まだ熟れが足りないものは、なかなか枝から離れようとしません。まるで、桃がまだ採らないでほしい、と言っているようにも思えて、桃と対話しているような気持ちになります。
 七月二十日頃から、猛暑日で日中の気温が高くなり、桃も過酷な暑さの桃畑の中にいるので、大変です。樹の上で過熟になりやすい天候だけれど、過熟にならずに、早どりにならずに、ベストのタイミングで収穫ができるように、収穫ペアの人と、時には収穫メンバー全員で、確認します。その一玉の収穫するベストのタイミングは一日で、その一日を逃さないように、真剣に判断します。時に迷うこともあるけれど、同じ基準を共有しているメンバーがいて、いつでも確認しあえることがとても心強いです。そんな時、一人ではなく、みんなで良い桃の収穫を目指しているんだ、ととても嬉しくて満たされた気持ちになるし、みんなで協力し合えば、絶対に良い収穫に繋げることができる、と希望を感じます。

 

 

 中生品種から、一気に五品種の桃が熟れ始めています。白鳳や紅清水、勘助白桃は、果頂部がピンク色に色づくことや、大きさ、形など、よく似ているなと思うのですが、熟れる色味が若干違っていたり、同じ品種でも、畑によって、または木の樹齢によって熟れる時期、熟れ方が違うのが、興味深いなあと思います。

 なつごころは、赤く染まりやすくて、果頂部が、パッと花火が散ったような模様に赤く色づいているのが、鮮やかでとても可愛いなと思います。真夏の太陽のような、元気で瑞々しい色合いが、なつごころ、という名前にぴったりだと思いました。
 浅間白桃は、白鳳のピークが終わってきた辺りから、熟れ始めてきました。袋を開けると、ふわっと甘い香りが香ってきて、袋は閉じられていたはずだけれど、ほんのりピンクがかっているのが綺麗だなと思いました。

 なつごころも、浅間白桃も糖度を測定してみると、驚いてしまうほど高い実がたくさんあり、夏の燦々に照り付ける日光を受けた葉から、栄養をギュッと溜め込んで甘くなったのかなあと思い、とても嬉しかったです。
 七月末からは、清水白桃の収穫もスタートしました。なのはなで育てる桃の木の中でも、一番に本数の多い品種です。より良い収穫に繋げていけるように、メンバーのみんなと気持ちを一つに、これからも頑張っていきます。