【7月号⑪】「ブドウ棚の下の世界 実の成長を見守りながら」 さや

 ブドウの棚下が好きです。
 枝葉が屋根のように頭上一面を覆っていて、下に入れば小雨くらい平気です。
 最初は棚の上ばかり見ていました。枝が十分長くなれば、重ならないように枝を寝かせて誘引。お日様に向かって伸びていこうとする成長点を摘んで、存在すると花と同じだけにエネルギーをつかってしまうまきひげを切りとって、……。
 花が咲き始め、花切りのころになると、花を探して棚を上から眺めたり、棚下に潜って上を眺めて探したり。
 浮いているみたいにふわっとついている花。それを見つけて、これからさき見落とさないように、赤いスズランテープを目印につけました。

 

 

 小さい粒がぱちぱちと火花を散らして満開になりました。花が散ったあとの房も、ぷっくりしてつやつやしています。
 一回目のジベレリン処理です。ブドウの房をジベレリンという植物ホルモンの液につけることで、種無しブドウを作ることができます。
 しゃがんだり立ち上がったりしながら、目印の赤いスズランを頼りに、棚の上と下とを見ていきました。花の軸につけた赤いスズランテープが、黄緑色の波のなかでちらちら目立っています。

 以前、ブドウの蕾を間引きしたとき、房から離して軸の上のほうに一つ、「車」を残してありました。車とは、蕾(果粒)の塊のことです。"ジベレリン一回目・未処理"の目印として残しておいたその車を、処理が終わった花から、切除していきました。

 満開から約二週間後、二回目のジベレリン処理。
 二ミリくらいだった粒が膨らんで徐々に大きくなってきています。でも房というにはまだ早い様子で、パッと見つけるにはまだ小さいです。小さなブドウが、ゆっくり、葉と葉のあいだで気配を濃くしはじめていました。

 二回目のジベレリン処理から数日後。棚の下を覗くと、一粒一粒の重みで下へ引っ張られた房が、素直に垂れ下がっていました。
 日を遮ってこっそりした棚下に、ぽん、ぽん、と灯るみたいに、もうブドウのかたちをした実があちこちで、急に房として存在しています。

 

 

 今日は摘粒。立派な果粒は落としてしまうのは心苦しいけれど、果粒はこれからまだ大きくなっていきます。一粒にかける期待をこめて、大きくなった粒を想像して、いらない粒を間引きました。
 明らかに生育の悪い房も、間引いて切除して、房のいらない粒を間引いたあとの棚下は、すこし、空気がシャンとして感じました。

 一緒に作業しているみんなの声や気配を感じながら、作業したのがうれしかったです。
 みんながそれぞれ工程に集中しながら、ときどき緊張の吐息が聞こえました。
 最近よく、葉や支柱についている足のたくさんある虫の話もしました。(とくに池上ブドウ畑にたくさんいて心配したけれど、ヤスデは腐食を食べる虫で、雨が降ると溺れるのを避けて木などに登ってくるようです)

 反省はいろいろあるのですが、たとえば小さいことですが、ジベレリン処理は、花を浸すだけとはいえ、いくつもやると液は結構減っていってしまうので、花が浸る分の液の倍量をつくってペットボトルに入れておき、現場についてからカップに注ぐというのが一番いいなあと思いました。

 

 

 小さな手順一つでも、手間取ってしまったり、簡単にできたり、分かりやすくなったりするということを、あたふたしながら思いました。もどかしく思ったことも、じゃあ次はこうしよう、というふうに考えて次回に繋げていけるのが、あたふたしても楽しかったし、嬉しかったです。