【7月号⑧】「気持ちは黄色の一粒一粒に ―― スイートコーンの収穫 ――」 みつき

 

 スイートコーンに伝えたいこと。
 正直、複雑な気持ちがありました。スイートコーンを担当することが決まったとき、
(どうなるのだろうか、わたしにできるのだろうか)
 と感じていました。

 スイートコーンの植わっているかちかち小畑は、古吉野なのはなからは少し遠い場所にあります。歩いて行くと十五分ほどかかってしまうため、乗用車とドライバーさんが欠かせません。植わっている数は、およそ二千四百株。収穫期をずらすため、三段階に分けて定植しました。株数が多く、畑も遠いのなら……。不安が募って、収穫の未来までもが、ほど遠く感じられてしまうようでした。

 そんなこともお構いなしのスイートコーン、たっぷりの水と肥料を欲しがる、食いしん坊さん。追肥と土寄せをして、雨が降ったならば、ぐんぐん伸びていきました。ふと気づけば、雄穂が顔を出し、実が作られていたりもして、びっくりさせられることばかりでした。畑に足を運べる頻度は限られていたけれど、畑で見るたびに成長してくれているスイートコーンのたくましさに、わたしが力をもらっていました。

 

 

 スイートコーンは、わたしたち担当者だけでは、とてもここまで来られませんでした。いつも誰かの手があって、なのはなのみんなの手があって、育っていくことができました。
 誰に声をかけても、「うん! もちろん!」と、快くOKしてくれて、畑までの送迎をしてくれて、見回りや手入れを手伝ってくれました。三回にわたる追肥と土寄せ、防除、摘果……。スイートコーンを育てるために必要な手入れを、ひとつも欠かすことなく、施すことができました。当たり前のように手を貸してくれるどころか、最後には、「スイートコーン、楽しみだね!」と、笑ってくれる、みんなの存在があったからです。

■すべての実を大切に

 スイートコーンを育てていくなかで、忘れられない出来事が、いくつもあります。どうやら、スイートコーンを楽しみにしていたのはわたしたちだけではなかったようで、最初に収穫できるの実のひげが枯れ始めたころ、害獣によって、いくつかの株が荒らされているのを発見しました。
 けれど、その日のうちに、大勢のみんなが畑に駆けつけてくれました。ネットの修正や重石を置くなどの処置をしたことで、その日から、被害は止まりました。スイートコーンが被害にあった悔しさも悲しさもあったけれど、それよりも先に、みんなの優しさと強さを感じました。

 

 

 害獣だけでなくて、害虫も同じです。頭を悩ませたのが、逃れられないスイートコーンの天敵、アワノメイガ。予防として、新聞紙で作ったキャップを実に被せる方法がありましたが、必要な新聞紙キャップの数は、二・三弾合わせて、およそ千六百個。その数に、思わずクラっとして、「断念しなくてはいけないかもしれない」と、諦めそうになっていました。

 けれど、ここでもみんなの手と時間を借りて、三十分ほどの時間で、あっという間に作り終えることができました。実の大きさは、株ごとにそれぞれ違っているけれど、みんながそれぞれ作ってくれた新聞紙キャップが、実に被せたときに「スポッ」とぴったりはまる場面は、まるでシンデレラのガラスの靴のようでした。

 そして、ずっと夢に見ていた、収穫の日を迎えました。そうっと、先端から皮をめくってみると、黄色に染まった粒が見えました。思い切って、全部をめくってみると、先端までぎっしり、規則正しく粒が並んでいました。本当にうれしかったです。
 熱湯の中で、みるみる色が濃く変わっていく、スイートコーン。食堂のお皿にのせたとき、少し窮屈そうなくらい、大きかったです。かじりつくと、一粒一粒がはじけて、ぱあっと甘さが広がりました。

 いま起きていること、見えているもの、味わっている味が、奇跡のような気持ちでした。隣の席では、ひとくちかじったももかちゃんと、目が合いました。ももかちゃんが、「おいしい!」と言いたげに、満面の笑みでグーサインをしてくれました。みんなが、「スイートコーン、大きいね!」「すっごくおいしかった!」と声をかけてくれました。

 

 

 スイートコーンを頬張ると、身体中が喜んで、満たされたような感覚が広がります。この鮮やかな黄色も、目を見張るような甘さも、なのはなのみんなの気持ちが生み出したものなんだと、感じました。わたしたちが込めた気持ちを、ちゃんとスイートコーンが受け取って、返してくれたようでした。みんなからの優しい気持ち、そんなみんなを大好きな気持ち、わたしが伝えきれない分も、スイートコーンが代わって伝えてくれているようでした。

「なのはなのみんなのおかげで、こんなに大きく甘くなったんだよ」
 スイートコーンが、教えてくれました。
 だから、わたしもスイートコーンに伝えたいです。
 わたしは、スイートコーンが大好きです。仲間とともに育てるスイートコーンが、大好きです。
 夏の始まりに、とびきりの希望を、たくさんありがとう。畑に植わっている最後の一本の実まで、大切に見守っていくからね。