【7月号③】「稲の手植えの日 ―― 田植えレースは嬉しいフィナーレ ――」 りんね

約3町3反の田んぼに、それぞれミルキークイーン、もち米、紫黒米を植えました。6月3日から5日にかけて田植えを行い、6月4日には、全員での手植えを行いました。

 

 毎年欠かすことなく、なのはなの家族みんなで行う、稲作の大切な行事。播種に続いて行うのが、手植えです。
 当日は、心地よく晴れた、田植えに打ってつけの日和でした。光田んぼ上、池下田んぼの手植えを、みんなで行いました。

 田んぼへ入る前に、畦で長靴と靴下を脱ぎ、裸足になって、ズボンも膝上までまくります。素足で、冷たい泥へ足を踏み入れるこの嬉しさ。一列になって、畔から田んぼへ足を踏み入れました。足が抜けなくならないようにするコツは、親指から泥に入ること。抜き足、差し足。田んぼに足跡をつけすぎないように、そろりと一歩一歩を動きました。
 あゆちゃん、なるちゃんが左右から水糸を張ってくれていて、その水糸に等間隔についている玉の、真下に苗を植えていきます。

 

 

 光田んぼ上は紫黒米で、三本ずつ植えます。あゆちゃんがはじめに、植え付ける方法を実演してくれました。三本指で稲を掴み、第一関節と第二関節の間くらいまで、泥に差し込む。そしてその指で泥を稲に寄せる。この、単純な動作の繰り返しです。

 手植えは出来る限り手速く行います。タイマーを持ったお母さんが、畔から秒数を測って、合図をしてくれました。
 光田んぼの上下で、みんなの手植えと、お父さんの田植え機での田植えを競います。「スタート!」お母さんの合図で、対決の始まり。お父さんの田植え機は、規則正しく、滞りなく、「カチャコン、カチャコン」とどんどん進んでいきます。私たちは、お父さんに負けないように、水糸を張った壱列を一斉に植えていきました。

 稲を約三本ずつ千切りとり、植える。それぞれができる限りの速さで、自分の範囲を植えます。水糸の玉の真上から見て、その真下に稲を植えて、一直線に稲が並ぶように、意識しました。

 

■進む!

 手植えチーム「五、四、三、二、一」お母さんの合図で、あゆちゃんとなるちゃんが、水糸を次で移動させてくれます。「OKです」とあゆちゃんが合図をして、お母さんのスタートの声。
 はじめは十五秒くらいで、慣れてくるごとに秒数が縮まっていきました。ここが限界、というところでは、終わりの合図で植えきるか、植えきらないか、ギリギリの絶妙なタイミング。決して植え損じがないように、真っすぐに綺麗に植えられるように、必死でした。

 稲が手元に無くなってくると、「苗、くださーい!」と畔のひでゆきさんやりゅうさんに声をかけます。
 ひでゆきさんたちが畔から、新しい苗を水面へ投げてくれました。時には、勢いよく飛んできて、泥飛沫が上がります。ところどころ、みんなから叫び声が聞こえてきました。
 苗をもらう人も、投げてくれる人も、余裕ではありません。田植え機のお父さんに負けじと闘志を燃やし、破れかぶれでも苗を貰いました。

 

 

 必死に植えていると、なぜかお父さんの声が。「機械植えは、半分進んだよー」と余裕の声。私は余裕がなくて、顔を上げられなかったのですが、どうやら、機械を降りて、光田んぼ上の畦まで、お父さんが様子を見に来ていたそうです。
 それには、お母さんやあゆちゃんが悔しいと口にし、みんなを鼓舞する声にも力が入りました。私も、様子を見に来るくらい差がついてしまっている、というのは残念で、せめていい勝負に持っていきたい、ここから巻き返したい、という思いが募りました。

 そこから、みんなのスピードがぐんと上がりました。お母さんの合図に従って、無心で植えていると、気づけばすぐ近くに、対岸の畦がありました。最後に行くにつれて、田んぼの幅が狭くなっていったので、最後はどんどん詰めて、みんなの間隔が縮まりました。
 もう少し。後は三角のゾーンを、奥側のみんなが植えきったら完了。自分の植えられるところは終わって、下の田んぼを見ると、お父さんが最後の外周を植え進めていました。

 淀みなく進んでいくお父さん。けれど、こちらはあと一息で終わりそうだ……!「終わった!」先に終わったのは、なんと、手植えのみんなでした。その差は僅か、田植え機の約五メートル分。あんなに負けていたと思ったのに、いつの間にかみんなが追い上げて、最後には機械に勝ちました。
 みんなの手植えが、機械植えに勝てたことが、すごく嬉しかったです。お母さんも、嬉しそうに「みんなで万歳しよう!」と声をかけてくれて、みんなで万歳を三唱しました。
 お父さんは、少し悔しそうだったけれど、その一方で嬉しそうでもあり、みんなにとって喜ばしいことだったと感じました。

 あとでお父さんが、「機械は速いけれど、一定の速度以上になることは無い。でも、人は手が慣れてくると、どんどん速くなっていくことができる。みんなの追い上げがすごかったね」
 と言ってくれて、改めて、みんなの手で植える力は、すごいものだと感じました。
 光田んぼ上を終えて、その勢いで池下田んぼの、うるち米の手植えも行いました。
 池下田んぼは、光田んぼ上を終えた後ではかなり小さく見えました。列の幅も狭かったので、一列、約五秒。どんどん進み、あっという間に岸へ到着。そんな印象でした。

 

■梶谷池のほとりから

 二枚の手植えが終わったのは、十一時半ごろ。お昼よりも一時間余裕を持って終えられて、今年は最速だったかもしれない、というくらい順調でした。
 水路で泥を落としていると、お母さんが、「みんな、洗ったら上に上がっておいで。池からデュランティー畑が見えるよ」と呼び掛けてくれました。
 池下田んぼから坂を上がって、見渡す梶谷池。秘密の場所のように、目の前に広がる緑の水面。池を囲む鬱蒼とした木々。対岸の木の合間に、デュランティー畑の赤い土が覗かれました。

 本当に、この池を船で渡って行く特別なレストランを作りたい、と感じるくらい素敵だったなと思います。
 手植えした田んぼを見下ろすと、まっすぐに並ぶ稲の苗。後日、田んぼの水の管理をしてくれているあゆちゃんが、みんなで手植えした田んぼは、どの田んぼよりも一本一本がしっかりと立っていることを、教えてくれました。
 家族揃って手植えできたことが、本当に嬉しかったです。今年もお米が、豊作になりますように。