【6月号⑳】「硬核期までに終わらせたい! ―― 桃メンバーのみんなと向かう桃の摘果物語 ――」 つき

 四月の霜を耐え抜いて、あんなちゃんを中心にみんなで守った桃。花が散り、桃の小さな実が姿を現しました。
 一巡目の摘果を開始した時点では、直径八ミリ程度でした。桃の樹がたくさんのアクセサリーを付けているようにも感じられて、一つひとつがとてもかわいかったです。
 摘果一巡目では、最終着果数の二倍に実の数を絞っていきます。目安は枝三十センチの間に二つ。

 最低でも十センチほどは実と実との間隔をあけて、養分の取り合いになったり、摘果二巡目までに膨らんでいく実がぶつからないようにしていきます。また、葉芽が一つしかない枝は養分が吸収できにくいために一つに絞っていきます。

 実を落としてしまったらもうその実は二度と付けることはできないと思うと、最初は躊躇しがちになってしまいましたが、あんなちゃんのアドバイスや説明を聞かせてもらうと、甘くておいしい実をならせるためには必要なことなのだと思えて、潔く摘果をしていけるようになっていきました。

 

なのはなファミリーには現在、約140本の桃の樹があり、毎日、摘果や袋がけなどの手入れを進めています

 

 今年は気温が高いために実の肥大のスピードが速く、摘果が追い付かなくなってきてしまいました。

 目標は、五月十日までに一巡目、二十日までに二巡目を終わらせる。というのも、硬核期に入ってしまうと摘果はもうできないために、硬核期に入る二十日までに、なにがなんでも終わらせたい、とあんなちゃんが伝えてくれました。

 目標の日時までに終わらせるために急ピッチで摘果を進めるべく、摘果メンバーは日常の当番も抜けて、朝食前から夕方まで食事以外の時間はずっと摘果を進めることになりました。
 キャンプが終わった八日頃には、桃の実は一・五センチメートルほどにまで膨らんできていて、日に日に大きくなっていく実を毎日見ていると焦る気持ちも募りましたが、みんなで淡々と着実に進めていきました。
 多少の雨でもお構いなし! ちょっとくらい濡れても、それはそれで楽しい! とメンバーのみんなが摘果に気持ちを向け続けました。そんなこんなで少し大変な日もあったけれど、みんなで協力しながら進めていくことができて、毎日達成感と心地よい疲労感で良い眠りにつくことができました。

 

 

■桃の樹に合わせて

 摘果二巡目は、最終着果数にしていきました。基本的に三十センチに一つに絞っていきます。一巡目からあんなちゃんが品種や樹の個体差によって注意すべきポイントを伝えてくれていましたが、二巡目ではさらに注意して、良い実を残すことを一番に、スピードよりも質を重視する方針で進めました。

 同じ桃でも、品種や畑や樹の個体差によって違いがあることが興味深かったです。白鳳や紅清水は変形果が多い。白皇やおかやま夢白桃は日焼けしたら色が抜けにくいために、なるべく日焼けしていない実を残すこと。清水白桃や白麗は生理落下があるため、通常よりも少し多めに百二十パーセントの割合で残す。他にもたくさん、あんなちゃんが気付いた特徴やポイントをその都度伝えてくれて、毎回意識を高めて摘果をすることができました。

 

 

 難しかったのは、残す実の割合を変えることでした。通常の九十パーセント、百十パーセント、百二十パーセントと、樹の状態や品種によって若干変えていきましたが、目が百パーセントの感覚になってしまっていると、切り替えるのが難しかったです。

 でも、あんなちゃんが、
「いつでも声をかけてください」といつも言ってくれるので、的確にできているかを見てもらって確信を持って毎回進めていくことができ、切り替えも柔軟にできたと思います。その難しさも、自分で考えて心と頭を使っていける感覚があって、楽しさへと変わっていきました。気持ちにもメリハリがついていきました。

 摘果が終盤に差し掛かってきた五十五日。朝食後に作業を始めようとしたところで、あんなちゃんが
「あの……」と意味ありげに話し初めて、
「四股を踏んでから始めましょう!」と言ってくれました。

 

■桃畑で四股を踏む

 というのも、人の筋肉の約七割は下半身にあるらしく、四股を踏むと良いということをお父さんが教えてくださったそうで、摘果も脚立に登っての作業で危険も伴うし、疲れも溜まっているから足腰をしっかりと据えて頑張ろう、ということで提案をしてくれました。思いがけないあんなちゃんの提案に、驚きながらもすごく嬉しくて、一気に摘果メンバーから笑顔が広がりました。

 そして開墾二十六アールの畑の真ん中でメンバー全員が円になって足を開き、構え。腰を落として手を腿に当て、あんなちゃんの、
「せーの!」の合図で全員で右足から
「ヨイショー!」続いて左足も
「ヨイショー!」。大きな声を出しながら思いっきり高く足をあげて、一発四股を踏みました。一回だけでも気持ちも身体もシャキッとして、パワーがみなぎってきました。

 なによりも、みんなの気持ちが円の中心に一つに丸く固まって、その気持ちを全員がもって、揃った気持ちで摘果に向かっていけていることを強く感じられたことが嬉しかったです。そのことで、みんなの力でやっているのだと改めて思えて、自分までも強くなれたように感じられました。

 

 

 四股を踏んでからの摘果は、いつもよりも集中力がアップして、全体の空気感も引き締まっていました。その時に摘果をしたのは白鳳という変形果の多い品種でしたが、あんなちゃんが、
「良い実を残せたんじゃないかな」と言ってくれたことが嬉しかったです。四股踏み効果、絶大でした!

 次の日も、朝から四股を踏んでスタートしました。いよいよ最後の畑に取り掛かっていて、今日で終わらせたいとみんなが気持ちを一つに向かいました。

 その日は、午前は三巡目の摘果を進めるメンバーと、スモモの摘果を進めるメンバーに分かれました。三巡目の摘果は最終チェックで、感覚が近すぎるところがないか、見落としがないか、多く残り過ぎていないかを見ていきます。一つの樹にかける時間はサッと三分程度なので、午前のうちに回るべきところは全て見回ることができました。

 

 

■大きな大きな達成感

 そして午後には全員で最後の畑の摘果を進めました。午後の初めにも四股を踏んで、ラストスパートをかけます。最後の山桃畑は、大、中、小の樹が混在していて、割とサクサクと順調に進めることができ、午後の四時過ぎには終えることができました。

 最後に午前に途中になっていたスモモの摘果もできて、ついにすべての摘果が完了しました!

 あんなちゃんが、
「本当にありがとうございました。みんなのおかげで硬核期前に摘果が終わってすごく嬉しいです」
 と満面の笑顔で言ってくれて、その笑顔が本当にきれいで嬉しかったです。

 

 

 拍手をして、全員が笑顔で大きな大きな達成感を共有して、温かくて満たされた気持ちでいっぱいになりました。感動できるくらいの達成感を仲間と感じられることがすごく幸せでした。

 摘果をしていると、甘くておいしい桃に向けて桃の樹が整っていく感覚があって、一本終わるごとにすごく充実感がありました。あんなちゃんが樹の特徴や品種の特徴をみて、伝えてくれるので、一本一本の樹に対して一番ベストな摘果をしていけることにやりがいが感じられました。

 

 

 頭で考えたらいいという問題ではなくて、桃の栽培は、心を使って向き合わなければできない作業だと思います。
 実の顔色、雰囲気を感じ取って、これから良い桃になっていくかを判断していくことが難しくはあるけれど、それが楽しさになっていきます。桃作業の楽しさは、そういうところだな、と思います。

 今年の摘果は大変ではあったけれど、摘果メンバーで毎日奮闘しながら摘果を進めていけた時間がすごく大事なものになりました。