【6月号⑪】「播種機の向こうに広がる世界 ―― 3町3反4畝分の播種をして ――」 るりこ

 

 稲作のシーズン。種籾の播種を行いました。数日前からまえちゃんを中心に、よしえちゃんやまことちゃん、なるちゃん、どれみちゃんが芽だしの管理をしてくれました。
 鳩胸の形に揃った種籾はふっくら膨らんで、顔を近づけてみると、小さな白い芽が出て生きているように見えました。

 播種当日、五月十二日は桃の摘果時期と重なり、桃作業と播種を同時並行で行いました。二手に分かれての作業です。

 播種機に付く人、トレーを運ぶ人、苗床に並べる人、消毒液を噴霧する人、不織布とミラシートをかける人……。一人ひとりに役割が与えられ、みんなの力が必要になる作業でした。
「今回初めて担当する役割の人もいるけれど、みんなで頑張ろう」
 と、播種が始まる前にあゆちゃんが言ってくれました。

 

 

■役割に分かれて

 

 中庭には播種機がセットされ、お父さんお母さん、そして永禮さんも駆けつけてくださり、いよいよ播種の始まりです。

 今回、わたしはあゆちゃん、ちさとちゃん、なつみちゃんと播種機に付かせてもらうことになり、ちさとちゃんが種籾の補充、なつみちゃんが焼土の補充をし、そしてわたしがトレーをあゆちゃんに渡し、それを受け取ったあゆちゃんが播種機にトレーを流していく、という役割に分かれました。

 うるち米のミルキークイーン、モチ米、紫黒米に割り振ってトレーがセットされてあり、前日のうちに、丁寧に均一に焼土が詰めてあります。敷き詰められた焼土が崩れないように、一枚ずつ慎重にあゆちゃんのもとへ運んでいきました。

 播種機に流されたトレーは、まず水のシャワーをくぐり、続いて種籾が蒔かれ、覆土として焼土がかかり、最後にもう一度水のシャワーを浴びて、機械から出てきます。ジリジリと小さな音を立てながら、ゆっくりローラーの上を進んでいくトレーは何度見ても見飽きることがないです。まるでチョコレートに、クッキーならぬ種籾をトッピングして、さらにもう一度チョコレートを上からたっぷりとコーティングして出来上がる、板チョコのようです。四つの工程を経て一枚ができあがるのに、三十八秒かかるのだとあゆちゃんが教えてくれました。

 このときに水加減がとても重要つまみを微調整しながら、一枚一枚に適切な水がかかるように心を使って見ている姿がとても格好良かったです。

 播種機から出てきたトレーは、運ぶ係の子たちが丁寧に持ち、グラウンドの苗床まで運んでくれます。そこでは永禮さんが待っていてくださり、中庭から運ばれてきたトレーを受け取ってくださいます。一度、グラウンドへ行ったとき、永禮さんの姿があり、こちらに気がついて手を振ってくださいました。

 

 

■確立された流れ

 

 毎年、播種には永禮さんが来てくださり、トレーを受け取る役割に入ってくださいます。
「はいっ!」と笑顔で受け取ってくださる永禮さんの笑顔が、グラウンドに広がっているようでした。

 

 

 苗床に並べられたトレーは、下から風が入らないように盛り土をします。なのはなで〝左官屋さん〟と呼ばれている役割ですが、お母さんを筆頭に、ゆりかちゃんやさくらちゃんが担当してくれます。コテを使って丁寧に土を盛るのに技術がいるけれど、すっかりベテランになっているみんながすごいなと思いました。

 続くように病気予防の防除がされて、不織布、ミラシートがかけられます。どの役割もこれまで、先輩たちが積み上げてきてくれたマニュアルが確立されていて、滞りなく、スムーズに進んでいきました。

 

 

 播種機でも大きなトラブルなく、午前の部が終わりました。
 昼食は桃メンバーも合流して、みんなで体育館で円になって、彩りよく盛りつけられたばら寿司をいただきました。少し身体と気持ちを休めたら、またすぐに作業開始です。

 午後からはモチ米と紫黒米を蒔きました。特に印象的だったのは、紫黒米に入ったら、種籾の香りもひときわ強くなったことです。お米の香りとは違うのですが、香ばしいにおいです。そのことを言うと、あゆちゃんも、
「わたしも思ったよ」と言い、ルイボスティーの香りに似ていると話してくれました。

 緊張感のある作業のなかに時折流れる、和やかな空気やみんなの笑い声に包まれていると、これから始まる稲作もみんなと楽しみながら育てていけるような気持ちになりました。

 

 

■みんなの手によって

 

 今回わたしが新たに知ったことは、播く種籾の量は八十グラムから二百五十グラム播きといくつかの段階で調整できるということでした。当初は百二十グラム播きで行っていたのですが、途中でこのままでは種籾の量が足りなくなると見込み、中間から百グラム播きに変えました。播く量を変えるには、播種機の内部を開けて、二枚のギアを取り替える必要があります。

 ギアの凹凸の数が刃によって異なり、二枚の凹凸の組み合わせで回転速度が速くなったり遅くなったりして、つまり播く量(回転と共に落ちる量)も自然と変わるという仕組みになっていました。

 播種機はそこまで大きな機械ではないけれど、小さな内部にたくさんの仕掛けが隠されているのだと知り、とても興味深いと感じました。

 トレーを運ぶみんなが中庭とグラウンドを往復するなかで、待ち時間に草取りをしてくれていたり、たけちゃんやたいちゃんが水遊びをしていて、それぞれの役割でみんなが楽しんでいる姿が播種機の向こうに広がっていました。一日がかりとなった播種も三時半過ぎには最後の一枚となり、播種機を流れて、みんなの手によって苗床へと運ばれていきました。

 今季は全十七枚の田んぼで、三町三反四畝の規模で三種類の米を育てます。
 この小さな種が芽を出して苗となり、九月には穂を実らせて、刈り取り、毎日いただくお米になることを思うと、また大きな稲作の物語が始まっていくのだと思いました。

 

【稲の苗の水やり】稲の苗が育ってからは、天候を見ながら、作業出発前や、みんなが帰って来た夕方の時間を使って、水やりをしていきました。
【代掻き】代掻きは、お父さん、須原さん、永禮さんが運転してくださるトラクター3台で、5月23日から6月1日にかけて行われました!
〈たけちゃん、たいちゃんも代掻きの応援へ〉