【5月号⑭】「いざ、ジャガイモ土寄せ! みんなで約束を果たした日」 まち

 ある夜、まりのちゃん、せいこちゃん、さきちゃん、みつきちゃんと私は、まえちゃんから重大ミッションを受けました。
「明後日が雨だから、明日一日で保育園前、山畑、新いいとこ畑、合計三枚のジャガイモの土寄せを終わらせたいんだ! お願いできるかな?」
 ハイ! と五人は元気よく返事。まえちゃんがリビングから去ったあと、さきちゃんが一言。
「あそこは、まだ、三枚とも芽かきが終わってないね」

 つまり、ただの土寄せの作業ではない。土寄せをする前に、いくつかの工程がある。芽かき、追肥、そして土寄せ。しかも、霜対策のためにかけてあった藁を取ってから作業に入るということではないか!
 思わず五人で顔を見合わせました。けれど、やるしかない。

■ぎゅーひーズ&じゃがーズ

 当日の四月十三日、午前。まずは一番広い保育園畑から取り掛かることになりました。みんなでジャガイモにかけてあった藁を取り除きます。一畝に一人ずつ入り、それぞれ藁を回収しますが、なんと言ってもスピードが大事。畝間にいくつか山にしてから、一気によけたほうが、逐一藁を畑の横によけるより、何度も往復する手間がないので、スムーズに進みました。

 

〈まずは、大切な芽かき作業から〉

 

 藁を畑の畦や斜面に運び、土寄せなどの作業がしやすくなったところで、芽かきに入ります。
 さきちゃんが見本を見せてくれました。八〜九本、生えているジャガイモの芽を、元気な三〜四本に絞ります。
 しかし、どの芽も茎が太くて立派で、どの茎を残そうか非常に悩ましい。

 ここで、せいこちゃんの芽かきのスピードがとても速いことに気がつきました。せいこちゃんにインタビューをすると、
「迷わないで、一気に取ってしまうこと!」
 がポイントだそうです。トップスピードを誇るせいこちゃんを真似しながら、みんなも一気にスピードアップ!

 

 

 芽かきが終わったら、牛肥の追肥に入ります。ジャガイモの株のそばに、畝に沿って筋状で牛肥を撒いていきます。ここで登場、牛肥がたっぷりと積まれた軽トラ二台。作業の前に軽トラドライバーのまりのちゃんと、私で協力しあって用意したものです。

 普通に追肥をしても面白くない。効率的かつスピードアップも図るため、「チーム対抗! 牛肥まき競争」を開催することに。
 せいこちゃんリーダーの「ぎゅーひーズ」VSちさとちゃんリーダーの「じゃがーズ」。うーん、ネーミングセンスも甲乙付けがたいところ。一分間の作戦会議。やるからには手加減なし、容赦なしの、本気体勢のわたしたち。

 せいこちゃんの作戦は、
「まず、みんながテミに牛肥を入れて、それを持って畝に走っていって、置いていこう」
 というもの。俊足のちさちゃんが空テミ回収を立候補したり、みんなやる気十分。一方、ちさとちゃんチームは、正統派のバケツリレー作戦。さあ、スタート!

 

 

 トラックの荷台から、牛肥をがむしゃらにテミにかき集めて間もなく、先頭を走るせいこちゃんを追いかけて、「ぎゅーひーズ」のメンバー全員が猛ダッシュ。せいこちゃんが畝に撒いている牛肥が底をつくタイミングを見て、テミを渡したり、置いていったりします。
 そして、残りの畝が短くなってからは、せいこちゃんと一緒に叫びました「よしっ! セルフでまいていこう!」それまではテミをバケツリレーで送っていたのを、受け取ったらそのまま自ら追肥をしていくスタイルに変えました。

 

 

「終わったー!」とせいこちゃんの声が高らかに響き、勝負は「ぎゅーひーズ」の勝利。その追肥時間、一畝一〜二分。圧倒的速さ。
 第二回戦も行いましたが、今度は「じゃがーズ」のみんなにもこのやり方を共有して、みんなで同じやり方で牛肥まきをしました。すると、二回戦目は「じゃがーズ」の勝利。この方法は、とても速い。
 非常にスピード感があり、だから、とても楽しい牛肥まきとなりました。
 このように、みんなでいい方法を伝え合って、共有しあって、みんなが同じ気持ちでスピードを上げていき、いい方法を見つけあったり、進化していけることがとても嬉しかったです。

 

■役割を全うして

 最後に、メインの作業、土寄せです。
 保育園前畑の畝は、長さ七十メートルほどあり、非常に長いですが、なんのその、みんなのパワーがあれば、畝の長さなんて関係ない。一畝に三人が入り、お父さんに教えてもらったやり方の、追い越し方式で土寄せをしていきます。

 

 

 保育園前畑の畝は、長いもの、短いものを合わせ、全部で十四畝ありました。九人いて、三人のチームを三つ作れたので、だいたい一つのチームが五畝を担当する計算。このとき、午前十一時四十五分。昼食の一時までには終わらせて、古吉野に戻って、落ち着いて「いただきます」をしたい。一畝十二分で終える計算、一畝は両サイド土寄せして完成だから、片側を六分で土寄せする目標。うーん、シビア。
 けれど、やるしかない。合言葉は、「この畑終わらせるぞー!!」。

 途中で、あゆみちゃんとたけちゃんも来てくれました。たけちゃんの手には、たけちゃんサイズの、可愛らしい小さなクワが握られていました。「いち、にい、さん……」と数えながら、クワで畝を整えてくれます。小さいのに、とても働き者のたけちゃん。たけちゃん、ありがとう!

 

 

 しかし、保育園前畑の土寄せ、ただの土寄せではありません。特に畝の端は、土のコンディションが良くないところもあり、スピードアップしたいのに、もどかしい気持ちになる私たち。思うようにいかせてくれない保育園前。
 けれど、一人じゃありません。気がついたら、みんなの中から、「終わらせよう!」「終わる!」「あと何分!」と声が飛び交い、その言葉が身体の中に漲るパワーとなります。みんなの中にいると、何がなんでも諦めずに、クワを動かし続けることができました。

 

〈芋のなるスペースを増やすため、首元まで、しっかりと土を寄せます〉

 

 あと二畝、というところで、希望が見えてきた!
 みんなが二畝に固まり、近くになってきて、よりみんなの勢いと力を感じます。これはいける!
 希望が確信に変わり、ますますみんなのスピードがアップ。そして、十二時五十分には土寄せを終わらせることができました。
 心地よい疲労感と達成感とで、少しぼうっとしていると、
「みんな! 写真撮っていいですか!」
 満面の笑みで、ももかちゃんが私たちをパチリ。ああ、本当にこの大きな畑を終わらせることができたんだな。充実感が身体を包みます。みんな、本当にすごい!

 午後からは、ステージが変わって、残す山畑、新いいとこ畑に向かいました。
 工程は同じ、藁はぐり、芽かき、追肥、土寄せ。午前に桃の手入れをしていたメンバーも合流してくれました。午前と同じメンバーもいて、工程は分かっていたので、みんなが流れをつかみ、ほぼ自動運転で作業が進んだのも、気持ちが良かったです。みんながそれぞれ、いいところを出し合いながら、それぞれの役割を全うし、スピード感もありながら、穴を埋めあい、全体の作業に向かっていく。その流れの一部になって自分がいられることが、どれだけ居心地がいいのだろう、と思いました。

 「自分」というのは、一人では分からないもので、みんなの中にいること、大勢の中でいることで、自分の役割が生まれ、責任感が出てくるものなんだと、一人では生きられないことを、今回の作業で感じました。

 

■約束を果たせた

 気が付いたら、午後の最初に向かった山畑が三時三十五分に終わり、ほぼ目標通りに進み、それからは、みんなで新いいとこ畑に向かいました。新いいとこ畑は、今までの畑よりも小さく見えます。土もふかふかで、土寄せしやすかったです。

 夕方になるにつれて、涼しくなってきて、作業も捗りました。お茶を飲みつつ、みんなでまた、「終わらせるぞ!」コールをしつつ、さあ、ラストスパート!
 四時五十五分。「終わったー!」

 この日一日で、保育園畑と山畑、新いいとこ畑のジャガイモ畑三枚の追肥、土寄せを終わらせることができました。メンバーの笑顔がとても美しくて、こんなにすがすがしい達成感を感じることができたことが、とても嬉しかったです。

 明日が雨、ということで、この日絶対に終わらせたかった作業を、みんなで力を合わせて、終わらせたよ。まえちゃんやなのはなファミリーや、天との約束をみんなで果たせた気持ちになって、すごく幸せな気持ちになりました。

 みんなの力と、絶対に諦めない気持ちがあれば、やり遂げることができるのだと、土寄せの一日で感じました。作業だけではなく、これからどんなことがあっても、それは同じだと思いました。「一日で、ジャガイモ畑三枚終わらせたぞ!」私たちの合言葉です。みんな、本当にありがとう!