「途中経過」 るりこ

12月16日

 ホール入り最後の週末になりました。
 午前に後半の通しをし終わったあとにお父さんが、
「アートこそ、これで完成と思ったその瞬間に転落していく」
 と話されていたことがとても印象的でした。芸術に完全な完成形はなくて、求めれば求めるだけ上があり、自分自身でここまでと思ったら、それ以上、上にはなれないという内容でした。

 その話を聞いて、わたしは人生にゴールがあると思わされて生きてきてしまったから、何となくすべてのことに終わりや、「ここまで」というラインがあるような気がしてきたし、実際、少しでも縛りから解放されたい気持ちから、いろいろなことに対しても双六でいう「上がり」を探そうとしてきていたと思いました。

 でも芸術に終わりはない、という話は本当に本当にその通りなのだと気がつかせてもらいました。そして同じように、人生にも「こうなったら成功」というようなゴールはないのだと思いました。

 お父さんが、コンサートの本番は今の最高の途中経過を見せるんだと言ってくださいました。本番に成長中の途中段階のピークを持っていくんだと話してくださいました。
 それを聞いて、途中段階の自分を責める必要は持たなくてよくて、でも自分がここまでと思ってしまったら、もうそれ以上にはなれないし、または浅いところで「できた」と思って安心してしまったら、むしろ急降下していくのだから、少しでも今より成長できるように、より良くなれるようにという謙虚な姿勢と、もっと上の段階に自分もなっていけると信じていたら良いのだと感じました。途中段階の自分は決してダメなことではなくて、そこで諦めたり、浅いところで投げだそうとすることが良くないことなのだと思いました。

 コンサート練習の過程で自分の課題にたくさんぶつかるけれど、コンサートに向かう姿勢こそが自分の人生に対する向かい方と同じなのだと思います。
 こうなりたい、こんなふうに生きていきたいという理想をもって、走り続けることをやめないという境地に、わたしも必ず辿り着いていきたいです。