【3月号⑦】「大雪、曲がりパイプもなんのその ビニールハウス修繕隊」さくら

 三十分前に通った道の足跡がなくなるほど、みるみる雪が積もったのは、一月二十四日の夕方から次の日の朝にかけてのことでした。
  

大雪による被害を受けた、吉畑手前ハウス

    
 朝食のとき、あゆちゃんから、ビニールハウスが潰れていたことを聞きました。ハウスがどうやって潰れるのか、想像ができませんでした。見に行くと、雪の重さでパイプが曲がって、ペシャンコになっていました。でも、全棟潰れたことを想像していたので、九棟中四棟が生き残っていて良かったと思いました。
  
 お父さんから、大雪が降る時には、地面からハウスのアーチパイプの頂点へ向けて、つっかえ棒をするようにして、青竹の支柱を立てておけたらよかった、ということを教えてもらいました。
  
 次の寒波に備え、みんなで竹取りをして、生き残ったハウス四棟に、三メートル五十センチで切った竹を立てました。
  
 二月一日から、吉畑手前ハウスの修繕が始まりました。吉畑手前ハウスは、手前三分の二が歪んでしまいました。なぜ奥の三分の一が残ったかというと、そこには、バナナを育てているハウス内ハウスがあり、バナナハウスの地面には電熱ケーブルが通っていて、おそらく、そこからの熱で雪が溶けたからでした。
  

ハウスの屋根に溜まった雪を下ろします

  
 また、潰れてしまったハウスと、無事だったハウスの違いを見ていると、無事だったハウスは、筋交いがアーチパイプの頂点で交差する形でついていたり、屋根の傾斜がきつくなっていたりしました。
  
 解体で面白かったことは、落ち窪んでしまった屋根の中心部から雪を掻き出す作業です。須原さんがトタン板でシュートを作ったらいいんじゃないかと教えてくださり、雪の滑り台を作りました。

 トタン板を二枚重ねて、縛って、滑り台になるようにしました。屋根の内側に積もった雪をテミで取ってバケツリレーで回し、シュートを滑らせてハウスの外に出しました。雪は、下のほうは溶けて、ガチガチに重くなっていました。テミでは敵わない、けれどスコップだとビニールが破れそうで心配でした。須原さんがビニールの下、雪の下から雪を割っていくようにしてくださいました。

■パイプの修正
  

   
 二月三日から、二手に分かれての作業で、ユーノスハウス、古畑ハウス、崖崩れ北ハウス、崖崩れ下北ハウスを解体するチームと、パイプの修正をするチームに分かれました。私はあけみちゃんと、パイプの修正をしました。
  
 バナナハウスの上の歪んでいないアーチパイプから型を取り、歪んだパイプがその型と同じ形になるように、作業台に木材をとり付けて、そこを支点に曲げて修正しました。
 歪んだパイプが、マジックで書いた型通りの曲線を描くようになって、型と同じになることに、一本一本、感動しました。
  
  
 はじめは、あけみちゃんと呼吸を合わせながら時間内に数をこなしていく作業にドキドキしていたのですが、パイプを直すと、あけみちゃんと心の距離が近くなるみたいで嬉しかったです。
  
 吉畑手前ハウスのアーチパイプは、直径三十一・八ミリと十九・一ミリのパイプが一対二の割合で立っていました。
  
  
 三十一・八ミリは硬くて曲げにくいけれど曲げたいところが曲がってくれるので、型に合わせてとっても綺麗に直りました。
  
 十九・一ミリは、てこの原理を使うと簡単に曲げることができて、早いけれど、少しの力で曲がってしまうので繊細で、支点の位置を細かく刻んで直していきました。

■為せば成る

 古畑ハウスの二十二・二ミリは、簡単に曲がるというわけでもないけれど、硬くはなく、曲げたいところで力をかけると、曲げたいところよりも自分側も少し曲がってしまう、という感じでした。細いパイプ、太いパイプでは、鉄の厚みも違って、パイプの一センチの違いは強度にするとかなり違うのだと感じました。
      
 二月七日から、直ったアーチパイプを立てていく工程に入りました。作業始めは籾摺り機倉庫に集合して、今日の段取りの確認をしました。須原さんが、ことわざや、作業を進めるときの大事なポイントを話してくださることが、気持ちが入って嬉しかったです。

 その中で好きな言葉は、
「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」
 です。
  
  
 固い意志、信念があったら、できないことはない、為せば成るんだ、ということを、ハウス修繕のメンバーのみんなで思って作業できたことがとても嬉しかったです。

■ドンピシャ目標

 ハウスの修繕作業は、今日はここまでと決めた目標が高すぎて、達成できないということがありました。二月十日完成目標が、二月十二日になりました。

 お父さんに質問させていただきました。完成が目標より二日遅れたことについては、
「諦めて達成できなかった、というのはダメだけれど、完成したら起きたことは全て高評価で良い」
 と教えていただきました。
  
  
 目標の立て方については、余裕のある目標を立てて、もし余裕を持って終わったら、それは完成度を高める期間に使う、余裕のある目標を立てることで、仲間を急かすことにもならないし、いい仕事になると教えていただきました。

 お父さんが小さい頃におつかいで行っていた肉屋さんは、「百グラムでお願いします」というとその場で肉の塊を切ってくれて、秤に乗せるとピッタリ百グラムか、あっても一、二グラムの誤差だと教えてもらいました。
  
 そんなふうに、心の目で見てドンピシャの目標を立てることを教えてもらいました。予測が不十分でドンピシャにならないことのほうが多いですが、心の目を養っていきたいなと思います。
    
  
 修繕前は、筋交いパイプが妻面の頂点から、ハウス側面の地面に向かってついていました。妻面側から押される力に対してはその方が強いけれど、雪や風対策にしたいので、筋交いのクロスするところがハウスの中央付近になるようにしました。

■筋交いの設置

 筋交いをつける前、アーチパイプをつないでいる棟パイプの中央付近が、ちょうど糸を張ったとき中間がたわむのと同じように、下がっていました。それを改善できるように、筋交いをつけるときには、ジャッキを使ってハウスの頂点を上げて設置しました。
  
 筋交いには、約六メートルのパイプを三本連結したものを四本使いました。もともと使っていたパイプで、折れたパイプを修正したものが中に二本ありました。
  
  
 筋交いは、まっすぐなパイプに力をかけて湾曲させながら、アーチパイプに沿って取り付けていくのですが、曲げていくのに力もいれば、パイプにもかなり力がかかります。折れたパイプを修正したものは、取り付け途中に折れてしまい、使えませんでした。一度折れたら、そこは折れやすいんだなと思い、勉強になりました。

 また、ミカン缶の蓋を開けるとき、金属疲労というのを須原さんに教えていただいて、はじめて知りました。逆に、折れたパイプを切ってしまって修繕したいとき、折れたところをまた伸ばしたり、折ったりを繰り返すと、はじめは固いのが軽い力でできるようになってきて、最終的にパキっと切ることができて、面白いなと思いました。
  

  
■マイカ線切り選手権

 雨の日には、ビニール張りに向けて、体育館でビニールとマイカ線の仕込みをしました。同じ長さで切ったマイカ線は、一気に屋根にかけられるように、ロープに五十センチ間隔で結んでおきました。
  
  
 今回は、このマイカ線は、手前から何本目のアーチパイプの隣に結ぶ、ということがわかるよう、アーチパイプの番号を十本ごとにつけました。現地にいったとき、マイカ線の結び間違いがなくて嬉しかったです。
  
「知識の深さが面白さ」と教えていただきました。これはどうしよう、と困ったとき、須原さんが今までにやったことのない方法を考えてくださり、そんな方法もあるのかと、なるほどと思います。
      
 吉畑手前ハウスが完成し、今は古畑ハウスの修繕をしています。オートレベルで水平を見て妻面を立てることや、筋交いの取り付けが難しいときはあらかじめパイプを曲げておくことなど、一棟建つごとに、一工程ごとに、こうしたらいいんだというのが積み重なっていくことがとても嬉しいです。
  
 ハウスがペシャンコになったところから、同じ形のアーチパイプが立ち並んで、骨組みが完成し、綺麗に直っていくことがとても嬉しいです。