【6月号⑬】「夏へ向かって走る、桃畑」 りな

 

 六月には、桃の収穫が始まります。桃の手入れは、春、夏のちょうど今の季節が一番忙しいです。二月の摘蕾から始まり、桃を収穫に繋げられるようにするには、ノンストップで作業が立て込みます。

 今、桃の木は、硬核期と言って、種が固まる時期に差し掛かっています。硬核期に入るまでは、まだ種が固まっていなくて、摘果した桃の実を、すんなりと剪定ばさみで切ることができます。切ってみると、薄緑色の果肉はほんの数ミリだけで、その他はほとんど種になる部分が占めていることにとても驚きます。

 硬核期に入った桃の木は、人間で言うと、妊婦さんのような、繊細な状態になっています。桃にとっては子孫を残すための大切な期間でもあり、とてもデリケートです。硬核期は、満開から約四十五日後から始まると言われています。今年の開花が、四月七日頃だったので、五月二十二日頃から硬核期に入りました。

 硬核期に、急な水分変動や、着果数の変動があると、上手く種が固まらなくて、種が割れてしまったり、実に異常が出てきてしまいます。そのため、硬核期に入る前に、摘果を終わらせ、最終着果数にする必要がありました。桃作業に入るみんなと一緒に、タイムリミットを意識して、迅速に摘果を進めていきました。

 

 

■綺麗な実を残していく

 摘果は、霜が降りる心配が無くなった、ゴールデンウィークの頃からスタートしました。摘果は全部で三巡行い、予備摘果、本摘果、最終摘果があります。一巡目の予備摘果では、最終着果数の二倍、大体十五センチ間隔に実を間引いていきます。

 摘果を始めたばかりの頃は、まだ実も小さく、雌しべと繋がっていて、まるでピクミンのような可愛い形をしています。星形の赤いガクが付いていて、とても綺麗です。

 毎日一ミリずつ桃の実が大きくなっていくようで、三日見ないと、かなり桃の実が大きくなっていて、驚くことがしばしばありました。まだ小さいうちは、桃の実の形や、善し悪しも見分けることが難しいけれど、だんだんと大きくなってくると、収穫期の桃の実の形にだんだん近づいてきて、その面影が見えるようになります。そして、実の大小も、はっきりと差が付いてきます。できるだけ大玉の、形が綺麗な実を残す選別ができるようになってきます。

 

 

 小さな桃の実は、細かな産毛が全面に生えていて、触ると少しふわふわした質感で、とても可愛いなあと思います。落としてしまうのが、もったいないぐらいだけれど、無駄に養分を浪費させないためには欠かせません。落としてしまったら後戻りはできないので、とても緊張する手入れでもあります。

 予備摘果を終えて、いよいよ本摘果に入ります。本摘果では、最終着果数に絞っていくのですが、今年は、特に毛虫とカメムシの被害が多く、リスクヘッジとして、最終着果数の百二十パーセントから百五十パーセントぐらいで、多く残しました。
   

■状況を見極めて動く

 今年はカメムシが、去年の八十倍とも言われていて、桃畑にいても、カメムシの姿をとても多く見かけたり、カメムシに吸われている実も多くなり、例年よりも、かなり虫食いの実が多かったです。毛虫の虫食いは、実がえぐれているので分かりやすいのですが、カメムシの刺し跡は、針で刺したような小さなものであったり、実に若干のへこみの影があるような軽度のものもあり、見分けるのが難しく感じました。でも、虫食いの無い、綺麗な実を摘果の段階で残せるように、実の裏表をよく見て、慎重に丁寧に摘果をしていきました。

 

 

 品種によって、生理落果するものがあったり、樹によっても、樹勢の関係で、大玉になりやすい樹や、変形になりやすい樹など、特徴があります。その都度基準を変えて、あんなちゃんが、その木に一番良い選択を教えてくれました。本当に桃の樹一本一本を理解していないとできない事だなと思いました。

 また、本摘果を二巡、三巡、人工授粉をした品種は四巡、と段階を細かに分けて、虫被害のリスクヘッジとすることも、去年にはなかったことで、今年の特徴を踏まえたことでした。その年の気候、温度は違って、その中で毎年コンスタントに桃を収穫に繋げることは、とても難しいことなんだと思うし、去年と同じ、とはいかなくて、毎年、毎年の特徴を踏まえて、考えないと通用しないのだと思いました。大きな自然のバランスに調和して、自分たちも沿って初めて、良い桃を作れるのだと改めて感じました。

 

 

 今年は初めての挑戦ではあったけれど、カメムシ対策で、五月の段階で、桃の樹にネットを掛けました。これまで、収穫間近の夜蛾対策でのネット掛けでした。そのため、全部の桃の樹に掛けるとなると、ネットの数が足りない問題もあったけれど、網目の少し粗いネットも総動員して、摘果と同時並行で、ネット掛けも進めました。

 

 

■効率よく、桃を想って

 桃作業のメンバー以外にも、たくさんの人数がネット掛けに協力してくれて、約百本ほどの樹に、ネットを掛けることができたと思います。ネットが強風で剥がれないように、新しい道具、マルチピンが登場し、今回のネット掛けで大活躍しました。同じ作業でも、もっと速く、効率的に、強度にできる仕組みができてくるのが嬉しいなと思いました。

 ネットが掛かって、虫の心配がなくなったところで、三巡目の摘果をしました。三巡目では、最終着果数に絞ります。これで、収穫する桃を決めるも同然なので、とても緊張します。最終着果数は、二十五センチ間隔に一個で、実を残していきます。多いと、樹に負担が掛かって良い実が生らず、かえって少なすぎると大玉になり過ぎて種割れを起こします。心の目を使って、実を選別していきます。

 毎日毎日みんなと桃畑で作業して、タイムリミットの硬核期までに摘果を終わらせることができて、とても達成感を感じました。

 

 

 摘果が終わると、すぐに袋掛けです。今は、中生品種の袋掛けを進めています。オレンジや赤の袋が掛かった桃の木は、遠くから見てもとても色鮮やかで、綺麗だなあと思います。どんどん桃畑が華やかになってきて、収穫期の光景に近づいてきています。桃の木は硬核期に入り、外見はこれまでとあまりないけれど、何となく桃畑が神聖に、厳格に感じます。硬核期には、果肉はあまり肥大しないとは言いながら、三巡目の摘果を終わらせた時と一週間も違わないのに一回り実が大きくなっていることに驚きます。ピンポン玉よりも少し大きいぐらい、実の重量も重いです。

 虫の大発生の年でありながら、虫食いの無い、綺麗な実を袋掛けすることができていて、一安心だなあと思います。今年も、甘くて良い桃が収穫できるように、これからの袋掛け、手入れも進めていきたいです。