「軌跡」前半 さやね

お父さん、お母さん、なのはなの家族と、同じ仲間としてともにコンサートを作ってくださるたくさんの方々と、走り抜きました。

私は、コンサートを通して、なのはなファミリーを背負って立つ者としての、責任と誇りを貫きたかったです。お父さんとお母さんを信じました。今のなのはなファミリーが表現する最高のコンサート、あるべきものが必ずできると信じました。

みんなとダンスを踊り、ギター、トロンボーンを演奏しました。お父さんとお母さんがすべてを振り絞り脚本を書いてくださっているとき、私は、なのはなのダンサーとして、表現者として、自分の生きる姿がみんなの基準になるのだと思いました。

しかし、ダンスを踊り、ギター、トロンボーンを演奏し、みんなと過ごす毎日の中で、自分の浅さ、未熟さにぶつかりました。失敗し反省し、これでいいのだろうかと迷いました。それでも進みました。

まだ見ぬ誰かのために、なのはなの先輩たちが築き上げた歴史を受け継ぎ、その上に新しいなのはなを今の仲間と作るために、なのはなの子としての責任と誇りを、執念で貫きたかったです。

本番当日、勝央文化ホールのステージに、なのはなの仲間が集まりました。たくさんの卒業生が帰ってきてくれました。子どもやお友達を連れて帰ってきてくれました。支えてくださるたくさんの方が、駆けつけてくださいました。

開場の時間になる前からホールの入り口に列ができるほど、なのはなのコンサートを見るために、たくさんの方が来てくださいました。こんなにたくさんの仲間がいるのだと思いました。

ステージに立ち演じる者、客席から見る者、なのはなファミリーの志を持つすべての人と、3時間半のステージを作り上げました。世界でただ一つ、なのはなファミリーのウィンターコンサートをみんなで作りました。

2017年なのはなファミリーウィンターコンサートは、大成功でした。

 

○前半

『ザ・エクスタシー・オブ・ゴールド』

なおちゃんの演じる光太郎が、幕の前で語り始めます。ステージにただ一人立ち、ピンスポットを浴びて訴える光太郎に、気持ちのすべてを集中させました。
世界中の人々に審判を下すように、威風堂々と、かにちゃんが指揮棒を振り下ろしました。

この曲は、雄大な大地の中を、黄金を探し求め駆ける曲。私はトロンボーンを演奏しました。トロンボーンパートは、高音の美しい旋律と、旋律を支える深みのあるハーモニーと、低音の太く勇ましい旋律を演奏します。

私はパートリーダーをさせてもらいました。パート練習の時間を意味のあるものにしたかったです。トロンボーンパートという一つのチームとして、8人の音が一つになることを求めました。パート練習を繰り返し、全員が同じ真剣さで、楽器を扱い、音を出すことを求めました。
口調が荒くなったり、楽器を吹くよりも言葉が多くなったとしても、妥協はしたくなかったです。必ず一つの音になれると信じました。

芸術は、美しくなければなりません。お父さんは教えてくれます。今の1回が本番になるのだ、とあゆちゃんは言いました。今この音を出せなければ、本番では絶対に出せません。コンサートの幕開けにして、トロンボーンパートにとって最高のハイライトです。最も高い音の旋律を吹く、えつこちゃん、まあちゃん、私は石にかじりついてでも吹くことを毎回確かめました。

あるとき、えつこちゃんが、トロンボーンの吹き方を見てほしい、と言いました。えつこちゃんは必死に、高い音を絶対に吹けるようになりたい、と言いました。情熱は熱く、意志は固かったです。

えつこちゃんがトロンボーンを吹く姿を見させてもらいました。唇の端から息が漏れていること、姿勢を伝えました。えつこちゃんは、何度も高音を吹きました。こうしたらどうか、次はどうか、何度も繰り返しました。吹き続け口が疲れても、疲れを忘れ吹き続けました。えつこちゃんは、七福神として役者をしながら、ほとんど毎日練習をしました。

必ず成功させたかったです。本番の日、もしも何かが起こり一人になったしても、私は一人でも吹いてやると思いました。トロンボーンを吹くえつこちゃんと私は、狂気だったと思います。

本番のとき、文化ホールの客席の真上に、トロンボーンパートの音が一つの玉となり、なのはなファミリーの音が艶やかな瑞々しい玉となり、客席に降って落ちるのを思い描きました。あゆちゃんがみんなに教えてくれました。

みんなの先頭に立ち指揮を振るかにちゃんの、後ろに広がる客席と文化ホールを越えてさらに広がる雄大な大地の中で、私はトロンボーン奏者として、えつこちゃんの隣に立ち、トランペットのあやこちゃんの隣に立ち、演奏しました。どうかあるべき音を出させてください、あるべき生き方を表現させてください。祈りました。

 

『バッド・ライアー』

人間牧場。それは未来の日本。日本人はたった75人の絶滅危惧種になり、強制的に繁殖させられていました。

この曲は、サーカスのピエロのような、悲しく可愛いダンス。卒業生ののんちゃんが振り付けをしてくれました。のんちゃんは、なのはなの卒業生として、プレーヤーとして第一線で働いています。しかし、のんちゃんはどんなに忙しかろうと、身を削ってでも時間を作り、ダンスを考え、教えてくれます。

のんちゃんがなのはなに帰ってきてくれた日、ダンスの振り入れをしました。のんちゃんがいてくれる時間を精一杯集中しました。明日のんちゃんがいなくても、私が代わって伝られるようになるのだと思いました。のんちゃんの姿をそのまま自分のものにしたいと思いました。

その日、完成したダンスを、お父さん、お母さん、みんなが見てくれました。涙が出るほど可愛い、とお母さんは言いました。
「のんにはほんの数行のメールを送っただけなのに、思っていた通り、いや、それ以上のダンスができた、本当に嬉しい」
とお母さんは言ってくれました。みんなの大きな拍手と笑顔の真ん中に、のんちゃんがいてくれることが嬉しかったです。

本番のステージで、私はなるちゃんと左右対称の振りを踊りました。私はなるちゃんになりました。あみちゃんがセンターにいて、その周りを6人がくるくると入れ変わります。どうか7人のダンスが揃いますように。夢中で踊りました。会場中に拍手が湧き起こりました。

 

『ロゴテパテ』

『バッド・ライアー』を終えて、なるちゃんと上手の早着替えスペースに走りました。まゆみちゃん、はるかちゃんが待ってくれています。次の曲への着替えを2人が助けてくれます。つなぎを脱ぎ、フラダンスのスカートをはいて、アクセサリーを身に付けます。

まゆみちゃんは、私にとってこの早着替えの時間が大切です、と話してくれました。衣装を着て、
「オッケーです。ありがとうございます」
と笑顔で目を合わせて、まゆみちゃんは下手の袖幕へ走っていきました。

この一瞬の積み重ねが、ステージを作ります。誰も大変にならないように、みんなで助け合うことのできる仕組みを、衣装係のまゆこちゃんたちが一生懸命に考えてくれました。そしてペアの人と、着替える順番を話し合い、練習しました。私はまゆみちゃんと一緒に着替えさせてもらえて、気持ちを作りステージに立つことができました。

『ロゴ・テ・パテ』は、古吉野の体育館で、縦2列に並び、先頭の人にすべての動きを揃えて踊る練習をしました。そして本番の前夜、ゆりかちゃんが声をかけてくれて、ゆりかちゃんとゆずちゃん、なるちゃん、私の4人が踊る場面の振りを確認しました。

「もうこれで心残りはないよ」
とゆりかちゃんは言いました。なのはなのフラダンスを作り、みんなを引っ張るゆりかちゃん。そのゆりかちゃんの笑顔が、清々しく、潔かったです。

ペアのなるちゃんと手をつないで、くるっと回り立ち位置を交換しました。私の後ろにはこうみちゃんがいます。舞台の上であゆちゃんが叩くシンバルの、力強く華やかな音が響きました。ステージと客席は映し鏡になり、会場が笑顔で溢れました。

 

『カノホナピリカイ』

天上界のフラダンス、カノホナピリカイ。ダンサーが一つの生き物になったように、表情を揃え、目線、手の動き、身体の向き、高さ、速さ、フォーメーション、衣装を揃えました。優雅に形を変えながら、舞います。

私はゆりかちゃんを思いました。深く暖かな愛情、優しさを表現するゆりかちゃんのフラダンスを思いました。そして、お母さんが教えてくださる、南の島の海に住む、色鮮やかな魚たちの群れを思いました。

 

『ザ・ミラクル』

音楽と芸術の神、弁財天がお見せする。神の奇跡ミラクル。

このダンスは、みんなで作りました。なるちゃんと一緒に振り付けを思い出すために、2012年のウィンターコンサートを何度も見て、夏祭りでの演奏の映像があることをなおちゃんが教えてくれました。衣装部の人が残してくれたファイルに、卒業生ののんちゃんが書いてくれたダンスのフォーメーションの紙があることを、まゆこちゃんが教えてくれました。

曲の中盤、4人で踊る振りは、ようこちゃんとやすよちゃんが思い出してくれました。しほちゃんが細かな振りを覚え、伝えてくれました。色水のマジックは、ゆりかちゃんが伝授してくれました。

この曲を演奏することが決まったとき、もうコンサート本番までの時間が限られていました。お母さんに相談させてもらい、ダンスメンバーを絞りました。今から新しいダンスを覚えるのは大変だということはわかっていました。だから私は、みんなが少しでも大変にならないように、嬉しく、美しく踊れるように、伝えたかったです。もしも上手に伝えられなかったら、私が私の姿を通して、みんなの先頭を切って踊るのだと思いました。みんなはついてきてくれると信じました。

ダンスの振り入れをする日、体育館では演劇の練習をしていました。お父さんの脚本が出来上がり、お父さんと役者のみんなが集中的に練習しています。私たちはグラウンドで踊りました。なるちゃんと一緒に、グラウンドにダンススペースを作り、CDプレイヤーを運びました。みんなと必死になって踊りました。

勝央文化ホールの煌びやかなステージの上へ、私はちさとちゃんと出ていきました。私はちさとちゃんを信じました。みんなを信じ、みんなと踊りました。色水のマジックで、7人のダンサーが水を飲んだとき、成功しますように、と祈りました。ペットボトルを振ると、透明だった水が、赤や青色に変わりました。その瞬間、わっと会場中に歓声と拍手が湧きました。

七福神のもう一つの神業、頭の中に浮かべた数字を言い当ててみせる神業が成功し、さらに大きな歓声と拍手が湧き起こりました。

 

『ザ・キュア』

この曲は、神様の歌。すべての人を包み、癒やすことのできる神様。私は、卒業生ののんちゃんのことを思い踊りました。のんちゃんが作るダンスをのんちゃんとみんなと踊らせてもらえて、私は救い癒やされたから、まだ見ぬ誰かを救い癒やすために、私は踊ります。のんちゃんがセンターで踊り、あけみちゃん、しほちゃん、ゆずちゃんと5人で踊りました。

夜遅く、仕事を終えてその足でなのはなに帰ってきて、のんちゃんはダンスを考えてくれました。夜の体育館でのんちゃんが踊っていました。自分のことはすっと横に置いて、なのはなのため、まだ見ぬ誰かの為に、身を粉にして新しいものを生み出すのんちゃん。その生きる姿をそばで感じさせてもらえることが、しあわせだと思いました。自分も同じでありたかったです。

翌日、のんちゃんがダンスを教えてくれました。のんちゃんの姿はどこまでも美しかったです。私は一人、振りを覚えるのについていけていませんでした。質問をしようにも、振りが身体に入っていないためできません。のんちゃんはわかっていて何も言いません。信じてくれているのだと思いました。

あけみちゃんやしほちゃんが質問するのを一緒に聞かせてもらいながら、一つずつ振りを覚えました。のんちゃんは何度も繰り返してくれました。あけみちゃん、しほちゃん、ゆずちゃんが一緒に踊ってくれました。

その日の夕方、のんちゃんは帰りました。その前に、私たちは台所に走りました。お母さんが、のんちゃんになのはなの野菜を持って帰ってもらったらいいよ、と言ってくださいました。ジャガイモやサツマイモ、タマネギ、ひょうたんカボチャ、柿を袋に詰めました。少し重くなりすぎたかもしれません。私たちの気持ちです。次会うときまでに、のんちゃんのように踊れるようになります、という約束の気持ちも込めました。

一人鏡の前で踊ると、自分の浅さ、幅の狭さ、小ささが恥ずかしかったです。ただ、自分にこだわっている暇はありません。のんちゃんのことだけを思いました。大切な人と話をしているように、ありのままに自然に、羽を広げて踊るのんちゃんに、少しでも近付きたいと願いました。

のんちゃんの身体の使い方、スピード、ため、目線、指先、つま先、細部まで揃えたいと思いました。それはのんちゃんの心に沿うことでした。本当に深くなければ、優しくなければ踊れないと思いました。

ウィンターコンサートの前日の夜遅く、のんちゃんはなのはなに帰ってきてくれました。一緒に当日を迎えました。開演前や休憩時間に、のんちゃんはロビーに立ってくれました。のんちゃんはなのはなの子としてダンスを踊り、そして夕方に帰りました。のんちゃんはスーパーマンのような人です。のんちゃんのように私は生きたいです。

 

『スキャンダル』

サイコロを振っても、悪い升目ばかりが出てしまう場面。強く激しく格好いい曲です。

この曲は、クイーンの曲で、卒業生ののんちゃんがダンスを振り付けてくれました。やすよちゃんと一緒に、コンサートのDVDと練習の映像を見て、踊り込み、6人のダンサーで踊りました。

平日お仕事に行っているやすよちゃんが、お休みの日、一緒にダンスを踊りました。映像を何度も何度も見て、ダンスを再現しました。

みんなにダンスを伝える日は緊張しました。私は卒業生ののんちゃんを演じました。言葉が足りなくて、上手く伝えることができなくて、申し訳なかったです。だから身体と気迫で示しました。とても激しく厳しいダンスで、みんなで汗を流して踊りました。のんちゃんが考えてくれたダンスを、なのはなの先輩が踊ってきたダンスを、格好良く踊りたかったです。

のんちゃんが帰ってきてくれた日、ダンスを見てもらいました。はじめのステップ、身体の重心が左右に揺れてしまうところ、カウントが曖昧になっているところ、映像を見ても再現することができなかったところを、のんちゃんは一目見て、その場で直してくれました。もう大丈夫だと思いました。

激しくて厳しくて、格好良いダンスが好きです。このダンスを自分のものにするために、人に見せるものにするために、余裕で演じてみせるために、踊り込みました。身体が小さくても、荒削りあっても、全身をバネにして踊るんだと思いました。

コーラスのみんなも歌いながら手や頭を動かします。のんちゃんが考えてくれました。古吉野の体育館で、コーラスのみんなの振りを見させてもらったとき、みんなの真剣な表情と手の動きが揃ったとき、格好良いと思いました。ステージで踊る6人と、コーラスのみんなと、みんなで踊っているのだと思いました。自分のためではなく、なのはなの子として誇りを持って、踊り抜きたいと思いました。

曲の後半で、6人が斜め1列になり、ソロを踊ります。2階席のさらに上にある調光室から、永禮さんがピンスポットを当ててくれます。

私は永禮さんのことを思いました。ピンスポットはとても難しく、手元の1ミリの差が、ステージでは3センチものズレになります。永禮さんと場ミリをさせてもらった位置に意地でも立つんだと思いました。

本番、私は立ち上がった瞬間、スポットライトを全身に浴びました。永禮さんが当ててくださるライトの中で、私たちは踊りました。
大きな拍手と歓声、口笛が響きました。

 

『レインボー・チェイサー』

物語は、未来の日本。地方から人がいなくなり、電話も水道もない山深い村で、老人が穴を掘っていました。長年連れ添った、大切な女房を埋めるための穴です。ますみちゃんが演じる老人の台詞に会場中に笑いが広がり、老人の次の言葉にみんなが耳を澄ませていました。

舞台で演じるますみちゃん、光太郎、えりこ、エビ天に自分を重ねました。下手の舞台袖で控えているとき、正面の上手の袖にまえちゃんがいました。

『レインボー・チェイサー』、この曲は、虹を追いかける者を表わします。未知の世界に挑戦し、まだ見ぬ誰かに出会うために挑戦し続ける、私たちの曲です。毎週火曜日の夜、ギターを教えに来てくださる藤井さんの、ギター教室のみんなで演奏します。たかこちゃんは調光室で照明をしているからステージに立つことはできなかったけれど、たかこちゃんの分も全員で演奏しました。

この夏、税理士試験の勉強に専念するために、私はギターから離れました。本試験の間近に、ギター教室の発表会がありました。まえちゃんとみんながこの曲を演奏しました。ずっと憧れていて大好きな曲を、みんなが演奏していて、みんなの音、みんなの姿が格好良かったです。頑張る力を、仲間を信じる気持ちをみんなが教えてくれました。

この曲をウィンターコンサートでみんなと演奏したかったです。

ウィンターコンサートに向けて、集中して練習しました。毎週藤井さんが来てくださいました。毎晩習慣練習をし、そのほかに、まえちゃんが、個人的に練習を進めるべき人に、練習の時間を作ってくれました。まえちゃんは、一対一で弾き方を伝えて、弾けるようになるまで一緒に弾いてくれました。曲を区切り、1週間で完成させることを目標にしました。そして、古吉野での通し稽古の日、全員でステージに立ちました。

まえちゃんは、この曲をさやねちゃんのために弾く、と言ってくれました。私はこの曲にたくさん癒やしてもらいました。だから次は、私たちが演奏し、まだ見ぬ人を癒やす番です。

一人ではパーフェクトでなくても、みんなとなら最高の演奏ができると信じました。ただし、いつでも一人で弾けるという気概を持ちました。

えりこを演じるやよいちゃん、ベースを弾くちさちゃん、トランペットを吹くあやこちゃん、みんなと毎日練習しました。5年生教室で、音楽室で、言葉を交わさなくても、お互いの姿を感じて認めながら、練習しました。
『レインボー・チェイサー』は、私たちの曲です。

 

『ローリング・イン・ザ・ディープ』

日本がアメリカの51番目の州、ニュージャポニカ州となった未来。

この曲は、しなやかで激しく美しいダンス。卒業生ののんちゃんが振り付けてくれたダンスです。私はこの曲が大好きです。
ダンスメンバーは、他の曲との兼ね合いで、入れ替わりました。8人のダンサーが一人ひとり立ち、格好良く踊りたかったです。

勝央文化ホールのレッスンルームで衣装を着替えながら、演奏を聴き、舞台で繰り広げられるみんなのダンスを思いました。曲が終わると同時に、大きな拍手、喝采が響きました。

 

『ファイト・ソング』

これは戦いの歌。日本人として日本の国を守るために、一緒に頑張ろう。前半を締めくくる、とても大切な曲です。

『ファイト・ソング』は、なるちゃんと2人でダンスを考え始めました。全員で踊るダンスを考えました。何回も何回も曲を聴き、フォーメーションを考え、動きを考え、ダンスを考えました。時間がかかりました。なかなか決まりませんでした。フォーメーションをお母さんに見てもらい、動きをあゆちゃんが一緒に考えてくれました。サビの振り付けを、あみちゃんが一緒に考えてくれました。ゆりかちゃんが声をかけてくれて、ユーチューブの動画を一緒に見ました。踊られるべきダンスが必ずあるはずだと思いました。

あるとき、お父さんが、参考にするといいよ、と言って、ダンスの動画を見せてくれました。世界には、この曲に振りをつけて踊っている人がたくさんいました。何もないところから新しいものを生み出すことができなくても、今あるものを真似をしたらいいのだと思いました。

サビの振り付けを考えました。真似しました。しかし真似をしただけでは、納得できませんでした。なのはなのダンスは、他のどこにもない別次元のジャンルでした。これまで踊ってきたダンスを組み合わせたりもしました。みんなが踊りたいと思うダンスじゃなきゃ嘘だと思いました。なるちゃんと踊り続けました。

サビのダンスをお父さんに見てもらいました。真似をしたダンスと、自分の踊りたいように考えたダンスを見てもらいました。お父さんは、後者のダンスを踊ったらいいよ、と言ってくれました。

実際にみんなに動いてもらいながら、ダンスを作りました。しかし上手く行きませんでした。考えた振り付けではみんなが揃わず、奇麗ではなかったです。みんなに伝え練習し、なるちゃんと考え直し、また次の日、新しい振りを練習しました。その繰り返しでした。何度も振りを変えてしまいました。しかし、みんなは嫌な顔一つせず、新しい振りを次々に覚えて、踊り続けました。必ずあるべきものができるはずだと信じました。

1曲通してダンスの形ができたとき、お父さん、お母さんに見てもらいました。
「これはダンスではない」
とお父さんは言いました。私は前から見させてもらっていて、客観的に見られなくなっていました。動きを揃えようとして、動きを削り、削りすぎました。お父さんがはっきりと言ってくれました。

その後、『ファイト・ソング』は一時保留にしました。卒業生ののんちゃんが帰ってきてくれたときに見てもらおう、それでもし出来上がらなかったら、そのときに自分たちで必死になって考えよう、とお母さんが言ってくれました。

のんちゃんが帰ってきてくれました。のんちゃんが見てくれました。私はのんちゃんにフォーメーションとメンバーを伝えました。半ば放り投げました。のんちゃんは、作ってくれました。

これは、私たちの戦いの歌。どんなに失敗しても、上手く行かなくても、諦めなければ必ず道は拓ける、夢は叶うのです。

『ファイト・ソング』は、28人で踊りました。曲の始まり、私はなるちゃんと踊りました。なのはなのみんなの希望を表現しました。あみちゃんがリフトに上がりました。しほちゃんとあけみちゃんが土台となり支えてくれました。あみちゃんが飛ぶとき、しほちゃんとあけみちゃんが全身の力を込めて、あみちゃんを持ち上げました。祈りました。スポットライトの中で、あみちゃんが飛びました。あみちゃんの身体を受け止めました。

みんなと踊りきったとき、客席から歓声が上がりました。お母さんだと思いました。幕が下りていくとき、ずっとずっと拍手が響いていました。

→後半へ続きます。