第16回『キツネノマゴ』
草叢(くさむら)に何やら白いものが点々と……。
見過ごすつもりになれば、
どこにでもあるただの雑草の群れでしかない。
それに気付いて足を止め、
一度、腰を屈めたくらいでは、
目の前に広がる景色は何も変わらない。
ところがどうだ、
さらにその白い点に目を近づけていくと、
あっ、と思わず声を上げることになる。
小さなキツネの子が、
こちらを見上げているではないか。
一匹、そっちにも一匹、こっちにも一匹、
なんとまあ、
振り立てたシッポに身を隠し、
上目遣いにおずおずと――。
草叢の小さな、小さな別世界に広がる“可憐美の極致”(花言葉)。
ところが、再び立ち上がればたちまち夢は醒め、
目の前に広がる草叢に狼狽し、
キツネに化かされたかと思うのだった。
〈撮影場所:池上桃畑周辺〉
(2019年9月11日)