写真:さとみ  文:たけひと

いまの季節に、なのはなファミリーとその周りで見ることのできる花たち。
それぞれの花の表情と物語を、写真と文章でお届けします。


 





「第56回 ホトケノザ」



どこにでも文句をつけて回る
クレーマーがいる。
 寒い、寒いと、縮こまって
   寝込んでしまう奴もいる。
 
ああ、いやだ、いやだと、
 ポケットに手を突っ込み、
   背中を丸め、
    鬱々として野を歩くと、
 なんだか、下のほうから
      小さな声がする。
  いや、それは笑っている声だ。

 

 

一面の枯草のなかで、
 そこだけ緑の島のように
     盛り上がった一群。
  しかも表面は
   赤紫でコーティングされている。
 
声が聞こえたのはそのあたり。
 
かがんで目を凝らせば、
 なんだ、ホトケノザじゃないか。
   別名、三階草。
 三層になっている葉は、
  対の2枚の葉が
   茎を中心に丸く繋がって、
 さしずめ蓮の台座のように見えて、
            ホトケノザ。
 
まだ正月というのに、
 こんなに花をつけて、
   ずいぶん気が早いものだ。

 

 

おお、笑い声はお前だったか。
  赤紫の短髪頭を思い切り反らし、
 大きな口を陽気にあけて、
こっちでも、そっちでも、みんな揃って、
  上機嫌に早い春を、笑いあっている。
 
   何がそんなに嬉しいのだ。
 
 そうだ、確かに楽しいと、
     なぜかそんな気になってくる。
 
この冬の荒野も、
 捨てたもんじゃないな。
  こうして、お前の笑顔に会えるなら。

 

〈 撮影場所: 開墾26a 桃畑 〉



 
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