

第35回『ムスカリ』
それは今から16年前の春のことだった。
なのはなファミリーに初めて集った数人で、
慣れない土地の散策に出かけた。
岩見田から位田へ、
田んぼの畦や畑のなかの農道を、
お互いに気遣いを隠しながら――。
吉井川の土手から位田の集落に入る手前、
僕たちは空き地の片隅に眼を奪われた。
鮮やかな「青」の群れ。
小さいが鮮やかに放つ青に吸い寄せられて、
その青の前に跪(ひざまず)いた。
小さな丸い青の花がツリーの形に寄り添う様は、
不思議で、可憐で、愛おしく、
妖精の世界を目の前に見る思いがした。
ムスカリの花言葉は「通じ合う心」。
――こんなふうに力を合わせて生きなさい。
心細い気持ちでなのはなファミリーに集った子たちに、
神様が教えるように見せてくれたもの、
それがムスカリだった。
〈撮影場所:なのはなファミリー花壇〉



