第28回『桜蓼(サクラタデ)』
ぼくは、だれにも会いたくなかった。
だれにも、見られたくなかった。
ぼくは、1人でいるときだけ、
息をすることができた。
人間をやるのがむずかしい。
そう思うことがある。
そんなとき、
ぼくは自分を取り戻すまで、
隠れている場所があった。
いつものようにそこへもぐりこむと、
透き通るような声で、
「おかえり」と
女の子が優しく迎えてくれた。
人とは話しができなかったけれど、
花とならば話しができた。
あの頃は――。
少年はそこが秘密の場所なりき
地蔵堂うらサクラタデ咲く
(鳥海昭子)
〈撮影場所:崖崩れハウス周辺〉