第19回『ミズヒキ』
君と出会って間もないころ、
僕たちは、初めて2人きりになった。
「これはミズヒキ」
つぶやくように言った君の横顔が、
寂しそうだった。
「詳しいんだね」
僕には答えず、君はミズヒキの茎を裏返して見せた。
赤、白、赤、白、赤、白……。
(あっ! ほんとうだ)
綺麗に並んだ蕾が祝儀袋の水引そのものだった。
野草にとても詳しい君は、
目に付く野草の名前を次々に挙げていくけれど、
寂しそうな横顔は、そのままだった。
僕は、ほかの野草は覚えられなかった。
僕が初めて覚えた、そしてたった1つだけ覚えた野草。
それがミズヒキ。
あれから何年たったのだろう。
いまでは笑顔の君が、
いつも僕のそばにいて、
野草の名前を教えてくれている。
〈撮影場所:中庭〉
(2019年9月25日)