6月号⑲「チーム『ピーチ姫』、夏へ向かって」 りな

 

 いよいよ桃の季節がやってきます。早生品種だと、あと一か月もしないうちに、初収穫が出来ます。今の時期は、桃は『硬殻期』といって、種がかたまる大切な時期です。人間でいうと、妊婦さんのような時期で、この時期は、樹がとてもデリケートになっています。

 硬殻期にたくさん摘果をしてしまったり、大雨が降ってしまったりすると、種が正常に作られなくて、割れてしまったり、実が変形してしまいます。そのため、気が抜けません。

 花の満開から約五十日経つと、硬殻期に入るのですが、それまでに摘果を終わらせる、という任務がありました。

 新しく畑チームが始動したのと同時に、桃チームも結成されました。初めて桃の担当になるメンバーもいて、とても新鮮な空気になりました。

 なのはなファミリーで育てている桃の樹は約百三十本あり、その全ての樹を回って摘果するのは、かなり時間がかかります。そのため、硬殻期に入るまでの期間、集中的に桃作業を進める時間を作り、お弁当持ちで一日、桃畑で手入れをしました。

 

 

 桃畑でお弁当を食べるのは、お花見の時以来これまでになく、そのことも、とても新鮮でした。桃の樹の下は、ちょうど良い日当りで、涼しく、癒されました。桃チームのみんなとお弁当を食べながら、桃チームのチーム名を考えました。決まった名前は『ピーチ姫』。とても可愛くて、決まった瞬間から、何となくチームに団結が生まれたような気がしました。チームの名前の通り、チームメンバー十二人が、それぞれピーチ姫になって、桃のことにプロフェッショナルになろう、と話し合いました。そして、一人ひとりにぴったりの桃の品種を考えました。ちょうど、なのはなで育てている桃の品種が、十二品種以上ありました。考えている時間も、とても嬉しい気持ちになりました。

 最近は毎晩、ピーチ姫チームで集まって、翌日の作業のことで作戦会議をしています。チームの規模も、畑の枚数や、手入れの規模も大きいぶん、全員が噛み合って協力できるようなチームでありたいなと思います。

 

 

 摘果は、予備摘果、仕上げ摘果の二段階を作って進めました。予備摘果は、実が一センチほどになってきた頃から始まりました。予備摘果では、拳一個間隔で実を残していきます。今年は、予備摘果を始める前に、全ての桃の樹にネットを掛けました。去年の冬にさくらちゃん中心に、桃のネットを新たに作り足してくれて、今年から全ての樹に、一気にネットを掛けられるようになりました。去年までは、全面ネットを掛けられるだけの枚数がなかったことで、収穫が近づいた品種へ順にネットを掛けるようにしていました。けれど、今年は、摘果を始める段階で、ネットを掛けることが出来るようになって、とても大きな進化でした。

 虫、病気対策には、ネットだけではなく、植物を使った自然農薬の防除も行なっています。受粉を助けるミツバチや、土の中に住んでいる微生物にも優しくなります。自然農薬は、トウガラシ、イチョウ、しきみ、などすぐにてに入るもので作って、抽出方法や、倍率、使い方なども試行錯誤中ですが、どうすれば一番効果的なのか、実験出来ることが楽しいと感じます。

 毎日桃畑に行くと、桃の実が大きくなっているか、分かりづらいけれど、二日見ないだけで、びっくりするぐらい、急成長しています。一日に一ミリずつ大きくなっていくと言われていて、一週間もすると容貌がかなり違います。

 

 最初は、雌しべが残って、まるでピクミンのような可愛らしい形だったのが、予備摘果を進めていくごとに、どんどん大きくなって、あっという間にオッケーサインほどの大きさになってきました。

 その頃になると、もう中学生ぐらいの雰囲気になって、実を見れば、収穫する形がイメージできるぐらい、原形が出来上がってきます。

 そのため、摘果をしながら、形をよく見て、なるべく綺麗な形の実を残していきました。品種によって、形が微妙に違います。加納岩白桃や、岡山夢白桃は、丸々とした形をしています。白鳳、紅清水は変形果ができやすくて要注意です。なつごころは、少し先がツンと尖ったような形をしています。品種によってスタンダードな形が違うので難しいなと思いました。

 

■作る過程がすべて

 

 仕上げ摘果では、最終着果数に絞ります。今年は、栽培を新しく試みることがたくさんあるので、少し多めに、拳二つ間隔で残していきました。

 お父さんが見つけて下さった資料の中に、「迷ったときは、葉の根元にある実を残す」というものがありました。

 これまでも知ってはいたけれど、あまり重視していませんでした。けれど、単に、葉が付いている実、だけでは入り口にすぎず、その葉の伸びている角度や、枚数によっても違ってくると知ったのは初めてで、とても驚きました。

 葉が上むきで、しかも地面に対して急な角度で伸びているほうが良い実が付くこと。そして、長く伸びていて、先端が止まっていない新梢の根元に付いている実が美味しい、ということでした。

 その視点で桃の枝をよく見てみると、確かに、どの葉芽からも同じ枚数の葉が開いているのではなく、部分的に、伸びずに先端が止まっているものと、新梢になって長く伸びて、たくさん葉を広げているところがありました。

 これは、本当に驚きでした。実ばかりを見て、葉をよく見ていませんでした。葉を見ると、枝の中でも、どこが一番養分が流れているか、もっと奥を見たような気がしました。多分、葉がたくさん出ている新梢の根元、もしくは急角度で出ている新梢の根元に付いている実は、養分を吸い上げる力が強いので、美味しい実が付くのだと思います。実を大きくさせるためには、葉の光合成が必要で、しかも養分を吸い上げるためにも葉が必要です。実と葉は強く関わり合っているんだなと知りました。

 新しい視点での摘果が、とても楽しく感じました。実を見て、葉を見て、位置を見て……色々と考えることがたくさんあり、そしてその全てが応用問題のようだけれど、ひとつひとつ確実に、大きくなった時のことをイメージして進めました。

 実を落としてしまうと、もう後戻りがきかないので、責任重大です。とても緊張します。残す実の数が適切かどうかも、桃の栽培のマニュアルがあったとしても、樹の状態、品種、今年の特徴などで答えが変わってきます。

 良い桃ができるか、保証はないけれど、今の自分たちでできる精一杯の桃が作れたらいいなと思います。桃を作る過程が全てで、結果はあとからついてくるもの、いま桃の手入れをしている一日を、誠実に緻密に積み上げて、チームのみんなとお互いに助け合って、桃も、私たちも、進歩できたらいいなと思います。