【5月号㉑】「可愛いタラの芽、ほろ苦い味」 さとえ

 

 アコースティックギター教室や、木版画教室でお世話になっている藤井先生は、ご自宅傍の山で、タラの木を幾本も、栽培されています。

 二月二十八日に、私はさくらちゃんと、藤井先生のお宅に伺いました。

およそ七センチに切った、タラの枝を、水耕栽培用におよそ五百本いただきました。

 畑の『水玉小梅チーム』の人や、育苗チームの人達と力を合わせて、約四十日間、タラの切り枝の水耕栽培に適した、約十二度〜二十度の温度管理と、保湿管理をしてきました。

 四月十三日の午前中、リーダーのさくらちゃんが、

「今日の十二時十五分に、畑の『水玉小梅チーム』の人は、吉畑手前ハウスに集合してもらえたら嬉しいです」

 と、声を掛けてくれました。

 十二時十五分。吉畑手前ハウスに行くと、タラの切り枝が中に並んだ、四つの発泡スチロール箱が、育苗トレイを載せる木台に置かれ、その隣に、さくらちゃんが、少し緊張と、笑顔が交ざった表情で、タラの芽に触れていました。

 そしてまなかちゃんが、撮影用のスマホを持ち、嬉しそうに待っていてくれました。

 そのタラの切り枝が、収穫の時を迎えたのです。

 

 

 さくらちゃんが、

「今日の夕食で、皆でいただく用に、五十八本、収穫したいと思います」

 と言いました。とても、嬉しかったです。

 七センチの長さの切り枝から、三〜六センチ程の大きさの、タラの芽が出ていました。

 葉先はまだ、閉じかかっていて、ふっくらと膨らみがあります。その茎元は、やや赤味がありました。

 薄茶色のタラの枝には、一センチくらいの鋭い棘が生えているのですが、よく見ると、緑色の茎にも、黒色の細い棘が生えているのを見つけました。

 その時は、

(私達が食べる茎にも、棘があるんだ……!)

 と驚きました。

 しかし、茎の棘は柔らかくて、枝のような鋭さや、触れた時の痛みはありませんでした。

 葉の先が、あと少しで開きそうなふっくらとした姿が、とても可愛いと思いました。

 芽を摘もうとすると、枝の棘が、(芽を摘んだら駄目よ)と言っているかのように、私の指にチクリ、と刺さり、ぐっと、痛みを堪えました。

(タラの枝、ごめんよ。でも私は芽を取りたい。収穫するね)

 と心で言いながら、指先にぐっと力を入れて、芽元を折りました。

 私の指先が、芽の元より一センチほど上だったせいか、それとも力の入れ方が悪かったのか、タラの芽を三本ほど収穫に失敗し、茎や葉がほろほろと崩れてしまう事件が起きました。

 私は、(貴重なタラの芽、ごめんなさい。やってしまった)と悲しい気持ちになりながら、(次こそは気を付けます)と思いながら、収穫した芽を、箱に入れたのでした。

 さくらちゃんと、「一」「二」……と、摘み取る度に、声に出して数えていきます。摘み取る手元を、まなかちゃんが「可愛いね」と、スマホでクローズアップして撮ってくれました。

 私は途中、摘み取ったタラの芽の匂いを嗅いでみました。少し苦そうな香りでした。

(もし口に入れたら、ほのかに苦味が広がりそうだな)

 と思いました。

(綺麗に茎元から摘めますように)

 と緊張もしながら、全部で六十二本の芽を収穫しました。

「夕食の時に、皆にお披露目ですね」

 と、さくらちゃんと言いました。

 

 

 その日の夕食の、一時間前。一七時過ぎ。

 まことちゃん達が、台所でタラの芽をしょうやくしてくれ、りゅうさんが、「タラの天ぷら、作り始めるね〜!」と言い、その天ぷらを揚げるフライヤーには、熱々の油が用意されていました。

 私は食堂で配膳をしながら、タラの芽の天ぷらが、台所から届く時を楽しみにしていました。

 十七時四十五分頃、タラの芽を、食堂に届けてくれました。

 一つずつ、一人ひとりのお皿に、盛り付けていきます。

 衣を身に纏い、上品にも見える、タラの芽の天ぷら。とても、美味しそうです。

 でもやっぱり、背中が少し丸まっている姿が可愛いな、と思いました。

 いただく前に、お父さんが、

「タラの芽は、儚い苦味があります。味わってみてください」

 と、皆に話してくれました。

 衣の食感はさっくりとしていたけれど、芽は、とても柔らかかったです。瑞々しくて、少しだけ苦味を感じました。その、少しだけ苦い味がすっと口に広がって、静かに消えていくようでした。

 私は、

(ああ、本当に、少しだけ苦い。でももう、無くなってしまった。タラの芽、とても美味しいな)

 と思いました。

 貴重で、嬉しい夕食の時間でした。

 

 

■タラのこれから

 

 もう一つ、嬉しかったことがあります。

 四月六日に、お父さんとお母さんへ一足早く、初めて収穫した、四本のタラの芽を、畑の『水玉小梅』チームの人と一緒にプレゼントに行きました。

 お父さん、お母さんが喜んでくださり、嬉しかったです。そして、

「タラの木を、なのはなファミリーの畑でも育てようよ」

 と、言ってくださったのです。

 タラの木は『根挿し』という、根を挿す方法で栽培出来ることが分かりました。

 四月十四日に、百三十九本の、タラの根挿しを行いました。

 私たちが活動する旧古吉野小学校前に、プールがあり、その傍に、タラの木が生えています。その根を採取しました。根は、十センチ前後に切ります。

 トレーに、防虫ネットを切って敷き、そこに土を乗せます。そして、タラの根を、軽く土に埋め込むように並べ、覆土しました。

 吉畑手前ハウスの傍で、手入れをし、見守っています。

 私は、タラの切り枝が、気温や、水分量、お日様の光を感じて、「そろそろ、動き出してみようかな」と言うように、少しずつ、そして精一杯、芽を伸ばす姿が凄いな、と思いました。

 この度、収穫を迎えたタラの切り枝は、一〜二回芽を摘んだら、栽培は終わってしまうけれど、これから、根挿しを成功させ、畑で育てることができたら、毎年、みんなでタラの芽を収穫することができます。嬉しくて、希望を感じます。

 さくらちゃん達と、大切に、タラの切り枝を毎日、管理した日々が楽しかったですし、これからも、タラの根挿しや、春夏野菜に向き合っていきたいです。