【感想文③】「たくさんの幸せを感じたマラソン大会」 のりこ

【第32回津山加茂郷フルマラソン全国大会 感想文集 その3】

「たくさんの幸せを感じたマラソン大会」
のりこ

 

 私にとっては初めてのマラソン大会がやってきました。1月18日に、お父さんがみんなの走るフォームを見て下さり、私もフルマラソンに出てもいいと判断して下さったことがすごく嬉しくて有難かったです。フルマラソンに出られるなんて、私にとっては夢のような話でした。お父さんが私に挑戦させてくれた、その優しさや私を信じてくれた気持ちがとても嬉しかったです。フルマラソンに出るのだから、こんなひ弱な身体ではだめだ、もっとしっかり食べて走れる身体になろう、という気持を強く持てました。食べることやいろんなことに対する拘りから、かなり解放されたように思います。

 1月19日から本番までの3か月間の練習が始まりました。私はその3か月前、10月17日から1人で走るトレーニングをしていました。マラソンを走りたい1心でお父さんにお願いをして、みんなが掃除している時間を、トレーニングの時間にあてさせて頂きました。
 初めは本当に走れませんでした。走りたいのに足が動きません。どんなに頑張っても早歩き程度にしかなりませんでした。走ろうとすると足が絡まりそうになったり、足首、膝、足の付け根、ふくらはぎなどあちこちを傷めてしまったり、足がつったり、練習も思うように進みませんでした。
 息があがるまで身体を動かすことができません。全然疲れていないのだからもっとスピードを出せそうなのに、どうしても足が動きませんでした。本当に悔しくて情けなかったです。こんな身体にしたのは自分自身で、自業自得なので、この辛さを誰にぶつけようもなく、何とも言えない気持ちでした。
 それでも、毎日練習していれば走れるようになるんじゃないか、という希望を持つことができたのは、お父さんが、私が走れることを断言して下さったからだと思います。走っている自分を思い描いて、その自分になるためにただ、毎朝のトレーニングを続けました。

3か月間は1人で練習し、1月19日からはみんなと一緒にフルメニューをしました。初めて梅ノ木コースを走った時は、みんなとどんどん距離が開いていき、ついにみんなの姿が見えなくなると、焦りの気持ちや情けない気持ちになりました。その後もみんなの時速8キロのスピードにはとてもついていけないのですが、自分なりに快調に走れた日は本当に嬉しい気持ちになりました。走り終わった時には、何とも言えない清々しい気持ちになりました。遅いなりにも走れている、ということが本当に嬉しかったです。そう思える日は目にする花、草木、山や田畑、虫や動物など目にするもの全てが美しく、尊く、愛おしく思えました。

走っていると自分の身体の中の細胞が喜んでいるようにも感じました。いつかあゆちゃんが、身体は自分のものではなく、いろんな微生物の集合である、自分の頭が考えるマイナス思考は全身体の1パーセントにも満たない。他の99パーセント以上は温かいブラス志向であり、健康でいたい、よりよく生きたいという思いを持っている。だから1パーセントの頭はとりあえず横に置いておいて、99パーセントの意志に任せたらいいんだ、という話をして下さったと思います。ふとそんなことを思い出して、自分の頭で考えず、身体が求めていること、身体が喜ぶことをしようと思いました。

 それでも頭で考えてしまうことからなかなか抜け出すことができませんでした。足を傷めたら休まなければならないのに、休むことにとても不安を抱き、無理をして走ってしまうこともありました。休んでいるうちにみんなからどんどん遅れてしまう、という気持に囚われました。みんなと比べてしまう、という悪い癖からなかなか抜けられませんでした。みんなが、奈義コース、石生コース、なのはなコース、そして最長距離へと着実にステップアップしていくのに、自分だけが同じステージにとどまり、時にはスピードが後退する方向に進み、とても情けなくて孤独感を抱える日もありました。みんなを羨ましがったり、自分もみんなと同じ達成感や一体感を味わいたい、という間違った望みを持ってしまい、だから苦しかったのだと思います。何のために走るのか、という初めに決意した気持ちを忘れてしまっていました。

 最初、お父さんに走りたい気持ちを伝えた時に、お父さんから「何のために走りたいの?」と聞かれました。その時、私は何も考えていなくて、ただ走りたいんです、ということしか言えなかったと思います。走るということに利他心がないことをお父さんに見抜かれて、「それでは走れない」と言われました。自分のために走るという気持ちでは走れないんだということに気付かされました。自分の欲で走るのではなく、私が走ることで誰かが希望を持ってくれるかもしれない、だから私はその誰かのために走るんだ、と決意しました。自分の身体は借り物であり、その借り物を存分に使って、走れるということを証明して見せよう、という気持になりました。

 ただ私はお父さんやスタッフさんやみんなの言葉や行動から、自分の間違いにハッと気づいて正しい考えを決意はするのですが、いつの間にかその時の志を忘れて、また自分の間違った思考に陥ってしまうという弱さがあります。フルメニューの過程でも、何度も挫けそうになったり、また気持ちを立て直したり、という繰り返しでした。しっかりと目指すべきところを見定め、見失わない強さを身に付けなければならないと思いました。

 フルメニューが始まってから1か月ほど経った2月26日、お父さんから、今年のフルマラソンは諦めて来年頑張ったらどうか、という話がありました。少し残念な気持ちもありましたが、ホッとする気持ちもありました。自分の中に、走ると決意したからには走らなければならないという、強迫めいた気持ちがありました。でも走れない、スピードがこれ以上出せない、というジレンマに苦しんでいました。だから来年まで時間をかけて身体づくりをしていけばいいんだと思ったら、安心しました。私は今年はマラソン大会には出ない、と思っていたのですが、マラソンコースの下見に行った日に、お父さんからミニマラソンに出てもいいと言われてとても嬉しかったです。ミニマラソンなら走れる気がして、気持ちも定まりました。

 そしてマラソン大会当日、フルマラソンのみんなの出発を見送ってから30分後、10時30分にミニマラソンがスタートしました。300人近いランナーがいて、その大勢の熱気に押されて、応援する人の温かい気持ちに力をもらい、走りました。天気がマラソンにはとても恵まれていて、走り易かったです。ミニマラソンは、コースが平坦で上り下りが全くないのも走り易かったです。昨日まで、走れなくて苦しんでいたのに、当日は快調に足がすいすいと前に動く感じがありました。

 折り返して戻ってきたももかちゃんとすにちゃんに、元気よく、「のりこちゃん! ファイト!」 と声を掛けてもらい、それで一段とパワーが湧いてきました。その後、かのんちゃんもまりかちゃんも満面の笑顔で元気よく「ファイト!」と言ってくれて、私も大きな声で「ファイト!」と返しました。どんどん力が漲ってくる感じがしました。走っている時は嬉しい気持ちと燃える気持ちでいっぱいでしたが、ゴールが近づくと胸が詰まってしまい、泣きそうになりました。かにちゃんが、「のりこちゃん! 格好いいよ」と言ってくれたのがすごく嬉しかったです。私、格好いいの? と戸惑いと照れくさいような気持ちになりましたが、とにかく嬉しかったです。

 ゴール間際で、ミニマラソンを走り終えたみんなが大きな声で声援を送ってくれて、一緒に走ってくれて本当に嬉しかったです。走り終えてタイムを見ると32分台で、本当にびっくりしました。こんなに速いタイムで走れたことはなかったと思います。天気や走るコースなどの条件が良かったこともありますが、やはりみんながいたから、自分の中に眠っていた力が出せたのだと思います。
 自分が完走できた喜びも大きかったのですが、それ以上に、フルマラソンのみんなを応援する時間に、何よりも幸せを感じました。本当に温かい時間でした。みんながとても楽しそうに嬉しそうに、そして力強く走っている姿が、とても綺麗でした。応援する私たちは、その姿に大きな力や勇気や希望や感動や、いろんなものをもらいました。

 なのはなの子たちだけでなく、走ってくる全ての人に声援を送り、かりんとうや、飴や、水分を手渡して応援できることが嬉しかったです。笑顔を返してくれる人、ありがとうと言ってくれる人、手を振ってくれる人もたくさんいました。お父さんが仰っていたように、応援されるほうも嬉しいけれど、応援するほうは、それ以上の嬉しさをもらえるなぁと思いました。応援するほうもありがとう、応援されるほうもありがとう、というお互いさまにありがとうの気持ちで、その温かい気持ちのやり取りが本当に温かくて嬉しかったです。

 最後のゴールテープを切るところで応援している時は、より応援にも熱が入りました。本当にお疲れ様、そしてお帰りなさいの気持ちで声援を送りました。なのはなの子がグラウンドに入ってくる度に、更に熱い気持ちになりました。本当に、誰もが綺麗でした。かのんちゃんとなるちゃんが、途中でゴールテープを持つ役目を引き継いでくれて、みんなをテープを切らせてあげることができました。なのはなのみんなもゴールテープを切る時の、やり切った笑顔が素敵でした。そして一般の人たちもテープを切る時に本当にいい顔をしていて、それも嬉しかったです。自分たちの応援がしっかりと相手に伝わっている、届いているという感じがありました。そして、お父さんが本当に優しい表情で一人ひとりを迎えている姿や、応援のみんなが一人ひとりを温かく迎える姿に、自分はこんなにも優しい人たちに囲まれているということを改めて実感して満たされた気持ちになっていました。

 走っている時も、応援している時も、お弁当を食べている時も、行き返りの道中も、ずっと幸せな気持ちを味わっていました。お弁当は、台所さんの愛情がたっぷりと詰まっているのを感じました。この日のために何日も前から計画を立て、準備をしてくれていたんだと思います。42・195キロ走り切れるように、朝もしっかり栄養の摂れる朝食、そして走り終わった後にも、見た目が華やかで幸せな気持ちになるお弁当。みんなが喜んでくれるように、見た目も味も栄養もたっぷり摂れるようにと考えられたお弁当が本当に嬉しくて、美味しかったです。

 行き返りは、私はお父さんとお母さんの車で、まなかちゃんと私の4人でした。お父さんとお母さんの話をいろいろ聞かせてもらえたのが嬉しかったです。すごく面白くて、まなかちゃんと2人で笑いが止まらなかったことも、そんな風に笑わせてもらえたことも嬉しかったです。帰りの車ではお父さんが、今日のマラソンを本当に良かったと思ってくれているのが分かりました。ああ、いい日だったなぁとしみじみ感じながら帰りました。

 歩くのがやっとだった自分が、ミニマラソンだけれど完走できたことが本当に嬉しかったです。よくここまで丈夫な身体にして頂いたと思い、感謝の気持ちでいっぱいです。今年はフルマラソンは走れませんでしたが、自分なりに頑張れたのではないかと思います。30年近く摂食障害だった人間が、フルマラソンを走れるということを証明するためにも、来年に向けて身体と心を作っていきたいです。